第59話 フロー



「ずいぶんと久しぶりですねマーヤ。元気そうでよかった」


 聖女フローはニッコリと優しく微笑んで、目の前に座るマーヤを見つめた。


「たまたま近くまで来たからな、そのついでだ」


「あらあら、そこは私に会いに来たって言ってくれなきゃさみしいですよ?」


 ヨヨヨと泣き真似をするフローに、マーヤは「すまんすまん」と謝る。


 そんな雑談をしていると、マーヤとフローに見習いの修道女が紅茶を入れてくれた。


 市場では取り扱わないような最高級の茶葉。聖教会への供物だという。


 紅茶を入れ終えた修道女が、まるで熟練のメイドのようにフローの背後に控える。その様子を、マーヤは興味深げに見ていた。


 マーヤの視線に気が付いたフローは苦笑する。


「ナーナ、別にそこまでしてくれなくてもいいのですよ?」


 ナーナと呼ばれた修道女は首を横に振った。


「いいえ、いいえ聖女様!そんなわけにはいきませんとも!私は聖女様の付き人なのですから!」


 フンスと鼻息も荒く力説するナーナ。


 マーヤは耐えられないとばかりにカカカと笑った。


「いんや、可愛らしい付き人だねえフロー。なんとも羨ましいや」


「付き人は不要だと言ったのですがね。魔王を討伐した英雄に付き人も無しでは恰好がつかないだろうと法王様が……」


「なかなか苦労してるみたいだな。前にテオに会ったけど、あいつは前よりも楽しそうにしてたよ」


「まあ、テオが!彼ともしばらく会ってないですね。マーヤ、詳しく聞かせてくれますか?」











「まったくマーヤったら、テオの所にもハチミツのついでに行ったんですか?貴女って人は……」


「こういう性分なんだよ。別にお前たちを軽んじてるわけじゃないんだぜ?」


 テオとの話を聞いたフローは、マーヤの行動原理に苦笑するが、当のマーヤは全く悪びれていない。


 しばらく談笑していると、傍で控えていたナーナが控え気味に口を開いた。


「そろそろ夕餉の時間ですが、マーヤ様もご一緒にいかがでしょうか?」


 ナーナの言葉に、マーヤの表情がパッと明るくなる。


「夕飯!?もちろん食う食う!!」


 満面の笑みを浮かべるマーヤを、フローは優しい表情で見守るのだった。

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女戦士のグルメ旅 〜脳筋喰いしん坊の女戦士、未知なるグルメを求めて〜 武田コウ @ruku13

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