第49話 吹雪
◇
まずい……非常事態といってもいいだろう。マーヤはそっと唇を噛み締める。
一面の雪景色なんて言えば聞こえはいいかもしれないが、要は吹雪で道に迷ってしまった。
馬も途中で動かなくなってしまい、泣く泣く持てるだけの荷物を持って徒歩で移動している。
火山竜の革鎧を装備していたのは不幸中の幸いで、熱を遮断する火山竜の皮のおかげでなんとか体温を保てている。
しかしそれも時間の問題だろう。
吹雪で視界が遮られ、自分が今どこに向かっているのかもわからない。
どこでもいい、とにかくこの風を遮ることのできる場所を見つけなくては……。
しかし歩いても歩いても何も見つからない。これではいたずらに体力を消耗するだけだ……。
マーヤは必至で考える。
今この場で生き残るために、何をするべきか……。
そしてマーヤは思い出した。
傭兵時代、寒い辺境の地からやってきたという傭兵仲間が酒のつまみに語っていた話を。
『俺の生まれ故郷は年がら年中雪が降っていた。雪ってのは穏やかに振っているときはかわいいもんだが、吹雪になると途端に俺たちを殺しに来やがる。吹雪で迷ったときは、俺たちは雪を押し固めて家を作って、その中で吹雪が止むのを待つんだ』
”雪の家”とよばれる手法らしい。
マーヤは周囲を見回し、小さく頷く。体力が残っているうちに素早く行動を開始するしかない。
背負っていた巨大なバトルアックスで周囲の雪をかき集め、半球状に固める。
マーヤの怪力でしっかりと押し固めたら、中をくりぬいて人ひとりが入れる程度の空洞を作った。
素人が即席で作ったものだ。崩れない保障なんて無いが、このまま何もせずに死ぬよりはマシだった。
雪の家にひょいと入り込むマーヤ。
しっかりと固めた雪の壁が吹雪をブロックしてくれていて、意外なほどに快適だ。
もちろんこれで助かったわけでは無いが、少なくともすぐに死ぬことは無さそうだった。
酷く体力を消耗している。
荷袋から非常食の干し肉を取り出して、手で小さく裂き、口に放り込む。
よく冷えた干し肉をゆっくりと噛みしめた。
体温が下がってきている。
火を起こしたいが……周囲には雪しかなかった。
(このまま吹雪が収まるのを待つしかない……か? 体力が持つといいが)
そんな不安を感じながら、しかし何もできずにただその場所で縮こまることしかできない。
英雄と呼ばれた自分が、自然現象の前ではなすすべも無いという事実に少し笑えてきた。
そんな時、雪の家の入口を突如何者かが覗き込んできた。
黒目に黒髪、平坦な顔をした人間の男……のように見える人物。
吹雪のためか、この距離に近づかれるまで気配を感じなかった。
敵か……味方か?
マーヤはバトルアックスをいつでも抜刀できるように態勢を整え……。
「……吹雪はしばらく止まない。死にたくなければついてこい」
◇
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