第43話 悪食2
大皿に盛られた魚の目玉。
たくさんの目玉がぎょろりとこちらを睨みつけてくるようで、見た目は非常にインパクトがある。
しかしマーヤはひるむことなく、むしろ楽しそうに自身の皿に目玉を取り分けた。
小皿の上にデンと鎮座する魚の目玉。よく見るときちんと調理されているようで、香ばしい魚の香りが鼻孔をくすぐる。
しかし魚の目玉なんて初めて食べる。どうやって食べたら良いのだろうか?
チラリと視線を上げると、それを察したウェルターがほほ笑んだ。
「白目の部分を啜るようにして食べるんだ……病みつきになるぞ」
素手で目玉を掴み、言われたようにして啜るように肉を喰らう。
プルンとした食感。濃厚な魚のうま味と、絶妙な塩味。
想像以上にうまい……。
マーヤは夢中で未知のグルメを食べ進める。
薄切りの生肉。
寄生虫の心配はないのかとウェルターに尋ねると、これは一度凍らせて寄生虫を殺したものらしい。
生の肉など食べたことの無いマーヤ。
薄切りの肉を一枚、恐る恐る口に入れる。
まだわずかに凍っている生肉。シャリシャリとした食感。舌の体温で良質な油がじんわりと溶けていく。
なんとも繊細なうまみ。
食べたことの無い未知の味……。
「気に入ってくれたかな?」
ウェルターの問いかけに、マーヤは勢いよく頷いた。
ウェルターは満足げに微笑む。
「私は食事が好きだ……貴族の食べる豪華な食事なんてものは、とうの昔に食べ飽きた。だから求めたのだよ。世界中にある未知のグルメを……」
マーヤと同じだった。
ただ、その方法が違うだけ。
マーヤはその足で世界中を旅し、ウェルターはその財力で未知のグルメを自宅へと取り寄せた。
「魔王も倒れ、世界は平和になった……しかしグルメに金や時間をかけられるものはほんのわずか……故に私の趣向を理解できるものなんてほとんどいないのさ」
そう言って、ウェルターは皿に盛られた魚の目玉を一つつまみ上げた。
「一部では私は目玉を喰らう狂人扱いだ……だから、こうして共に食事ができる相手というのは非常に貴重でね」
「……アンタも苦労してるんだな」
「そうだな。本来なら私も君のように未知なるグルメを求めて旅に出たかった……しかし残念ながら私には守るべき領地がある」
そうしてやれやれと首をすくめるウェルター。
ひょいと手に持った魚の目玉を口に放り込み。ゆっくりと味わってからマーヤに向き合う。
「マーヤ、一つ提案があるのだが」
「提案? なんだ、改まって」
マーヤの言葉に、ウェルターは何でも無いとばかりに軽い調子で続けた。
「私と結婚しないか?」
◇
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