第42話 悪食
ピカピカに磨かれた大理石の食卓。豪華な装飾が施されたシャンデリアの灯りが、薄暗い室内を怪しく照らし出す。
「噂には聞いているよ、君が魔王討伐の英雄が一人、”怪力の斧使い”その人だね」
席に座り、そう言って上品に笑う男はこの屋敷の主人。ウェルター・ド・ラヴァル伯爵。
向かい合うように座るマーヤは、露骨に嫌そうな顔をして返答した。
「”怪力の斧使い”とか、変な名前で呼ぶんじゃねえよ。アタシはマーヤだ」
「それは失礼。ではマーヤと呼ぼう。私の事は親しみを込めてウェルターと呼んでくれると嬉しい」
よく知らない相手に親しみを込めて呼べと言われても困る。
しかし、マーヤは考えるのが面倒になって、彼の事はウェルターと呼び捨てにすることとした。
「……ウェルター。何でアタシを呼び出した?アタシの記憶が確かなら、アンタと会うのは初めてどころか、この国にやってきたのも初めてなんだが……」
マーヤの問いに、ウェルターは薄い唇で静かに笑う。
「確かに私たちは初対面だ……しかし、数時間後には魂の友となっているかもしれない」
「……何を言っているんだ?」
「混乱させてしまったかな?……ふふっ、無理もない。だが今日君を呼んだ理由はシンプルだ……ともに食事を取りたい。ただ、それだけさ」
「食事?」
ますます意味がわからない。
ウェルター・ド・ラヴァル伯爵。
彼とは初対面だが、その噂くらいは聞いたことがある。
モルター帝国の最終兵器。
卓越した兵の指揮能力を持ち、本人の武力も群を抜いている生粋の武人でありながら、絵画、歌、政治とその才能は他の追随を許さない。
噂によると、彼の指揮した戦争は負け知らずらしい……。
そんな完璧超人が、たさ食事をともにしたいがためにマーヤを呼び出す? 魔王討伐の英雄とパイプを作っておきたいのだろうか?
そんなマーヤの困惑を読み取ったのだろう。ウェルターはその意図を語り始める。
「下心などないさ。この食事を終えた時、我々は真にわかりあえる。なぜなら……」
ウェルターはパンパンと手を鳴らして召使に合図をする。
ドアの外で待機していたのだろうか?
給仕係が入室してきて、食卓の上に料理を並べ始める。
その皿に盛られた料理を見て、マーヤはすべてを悟った。
「私の二つ名は ”悪食” ……ただ美食を追い続けた私には不本意な事ではあるが……”骨喰い”の集落にまで美食を求めて旅をした君なら、私の事が理解できると思ってね」
大皿に盛られた魚の目玉。
薄切りにされた生の肉は薔薇の形に盛り付けられ、その隣には見たことのない野草が添えられている。
スープに浮いているのは骨の塊だろうか……?
通常の食卓ではありえないその風景を見て、マーヤは納得したように頷いた。
「なるほどな……確かに話が合いそうだ」
◇
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