第2話 おじさん、若返る。

「あ? 俺、死んだのか?」


目を覚ますと自宅の天井が見えた。

なんだ? この部屋の幽霊になるのか俺。

となるとここは事故物件確定だな。


「ん? いや、生きてるな、俺。」


確証はないが、生きているという確信は持てた。

そして俺は体を起こした。


「よいしょっとぉ……ん?」


体を起こして気づいたが、体がめちゃくちゃ軽い。

毎朝起きる度に腰の痛みと戦っていたが、今はすんなりと起き上がることができる。


「というか、誰が俺をここまで運んだんだ?」


色々と疑問が残るが、とりあえず落ち着くために顔洗って、歯磨いて、ヒゲ剃って来よう。

そう思い洗面所の前に立って気づいた。


「ん? あ? え?」


鏡を見ると、見覚えのある青年が立っていた。

何故かとても見覚えのある顔だ。


「……まさか。」


嫌な予感がした俺は、実家から持ってきた高校の卒業アルバムを持ってきた。

いや、まさかな……。


「……。」


鏡に写っている青年と、卒業アルバムに載っている俺を見比べると、驚くほど似ている。


「えぇ……。どないなっとんねん。」


え、これ何? モニタリング? ていうか俺昨日死んだよね。体に傷一つないんだけど……。


「は! 会社!」


俺は今日が会社だと気づいたが、今の姿だと流石に会社に行けないよな……。

そこで、俺は人生で初めて会社に休みの連絡を入れることにした。


「あ、もしもし、あの、志賀 恭介ですけど……」

「なんですかあなた、ふざけてるんですか? 冗談にしてはタチが悪いですよ? 志賀先輩のご友人か知りませんが、次こんなふざけた電話してきたら、通報しますからね。」


俺が名乗った瞬間、電話の向こうの相手がブチ切れ始めた。

え? 何、なんで名乗っただけでそんなにキレられるの俺。


「ったく、何がどうなってるんだ?」


そう思い、気休めにテレビをつけると、事故のニュースがしていた。


『昨日、カフェテリアに車が突っ込みました。その事故で、50歳の男性が亡くなりました……』


「……え?」


テレビに映っているカフェは、昨日俺とあのお嬢ちゃんが話したカフェだ。

そして、その事故で亡くなった男性って……。


「いやいやいや、でも俺、生きてるし。死んでないし。」


何がどうなっているのか分からない。

とりあえず、わかったことを整理しよう。

一、会社に行けない。

二、昨日、カフェで事故があった。

三、俺は昨日そのカフェで死んだ。

四、俺は今若返った。


「……どないなっとんねん。」


俺は疲れて布団にダイブした。

とりあえず、貯金だけはあるので、暫くは生きていける。でも、早く就職しないとな〜。


「……とりあえず、あのカフェに行ってみるか。」


俺は何か分かるかもしれないと思い、昨日のカフェに行ってみることにした。


「そうえば、あのお嬢ちゃんは元気にしてんのかな。」


もし昨日の事故が本当なら、お嬢ちゃんも事故現場にいた。メンタルがめげてないといいんだが……。

俺は数十分自転車を漕いで、昨日のカフェに行ってみた。


「ここか......。まぁ、そりゃ立ち入り禁止だよな。」


そりゃ、仮にも人が死んだのだ。現場検証くらいするだろう……。


「帰るか……。」


何か分かるかもしれないと思ったが、入れないなら仕方ない。

そして、俺が帰ろうとすると、一人の女性がうずくまって泣いていた。


「お嬢ちゃん、どうしたんだ?」


しまった。今俺は50歳じゃない、この口調はおかしいな。まぁいいか。


「ひっく……え?……」


こちらを向いたお嬢ちゃんの顔を見て驚いた。

この子は間違いなく昨日のお嬢ちゃんだ。


「あの……大丈夫?」


俺が声をかけると、お嬢ちゃんはまた泣き出した。

ちょちょ、大丈夫?

そのあと、五分間ぐらい泣き続けたお嬢ちゃんは、やっと落ち着いたのか、俺と話がしたいと言った。


「あの……すみません。あんなところで泣かれたら迷惑ですよね。」

「ああ、全然大丈夫だよ。」


この子はもしかして、俺のために泣いてくれていたのか?


「もし良かったら、なんで泣いてたのか教えてくれないか?」


お嬢ちゃんは頷いて、静かに話し出した。


「昨日、あのカフェで事故があったんです。そして、その時亡くなった人は、私の恩人なんです。」


いや、恩人って、昨日初めて会ったんだけど……。

でも、お嬢ちゃんは俺の為に泣いてくれていたんだな。


「あの……あなたは?」

「え、ああ。俺は、志田 。……志田 響也だ。」


何故か俺は、咄嗟に嘘をついてしまった。

今日の朝みたいに、お嬢ちゃんを怒らせるだけかもしれないと思ったからだ。


「志田さん。私は、篠山 由奈。近くの事務所に所属しています。」


そういえば、名前は初めて聞いた。

まさか昨日の今日で会うことになるなんてな思いもしなかったよ。


「なぁ、おじょ……篠山さん。」


俺は少し気になってしまった。


「なんですか?」

「……篠山さんにとって、その人はどんな人だったの?」


少し、興味本位で聞いてみた。


彼女の思いを……。

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