第7話 旧友との再会


 仕事仕事の毎日を終えて、俺は如月真尋との再会を果たすため言われたお店へとやってきた。


 最後に如月と会ったのは確かあいつが大学のときだったから、社会人になったあいつを見るのは今回が初めてだ。


 ちょっと緊張するな。


 店の人に如月の名前を言うと個室に案内された。

 入室前に心の準備をしようと思っていたが、店員が間髪入れずに扉を開けてしまった。


「久しぶり、太郎」

 

 相変わらずの爽やかイケメンがそこにいた。


 髪はさらさら。

 笑顔は眩しく。

 学生時代はヒョロかった体格もそれなりに鍛えられている。


 圧倒的リア充オーラに俺は一瞬気圧されてしまう。

 ちゃっかり俺のこと名前で呼んでるし。俺も真尋って呼んだほうがいいのかな?


「お、おう。久しぶり」


 実際いつぶりなんだろう。

 とりあえず座って適当にアルコールを頼む。


「いつ振りだっけ?」


 それとなく訊いてみる。

 すると如月は何も疑う様子もなく答えてくれた。


「んー、一ヶ月くらいかな」


 結構頻繁に会ってんじゃねえか。

 やるな、俺。そうだぞ、こいつとの縁は切るべきじゃない。それを守ってくれたのは有り難い。


 とりあえずは他愛のない話をした。

 何年経っても、ただの爽やかイケメンになっても如月真尋は変わらなかった。


 相変わらずアニメが好きらしく、最近のおすすめを教えてくれた。

 それから仕事の話をして、愚痴なんかをこぼして、そして俺は高校時代の話を切り出した。


 少し話していると、如月の口からあの女の子の名前が出てくる。俺はそのことに驚いたが、何とか平然を保つ。


「そういえば、最近高峰さんとは連絡取ってるの?」


「……高峰」


 高峰円香。

 どうして如月が彼女のことを知っているんだろう。


「えっと、最近はあんまり連絡はしてないかな」


「そうなんだ。ていうか、付き合ったりしてないんだよね?」


「もちろんだ」


「あっちは満更でもなさそうだったじゃん。あんなに可愛い女の子そうはいないと思うけどなあ」


 俺と高峰はどういう関係だったんだ?

 全く分からん。

 あとでラインのやり取り見返してみよう。ていうか、どうしてそれをしなかった。


 答えは簡単です。

 久しぶりに感じるブラックな仕事に疲労困憊で、そこまで頭が回らなかったから。


「そ、そうかね」


「あ、もしかしてまだ絢瀬さんのこと好きだったり?」


「はへ?」


 突然出てきた絢瀬さんの名前に俺は変な声を漏らしてしまう。それを動揺と思ったのか、如月はさらに続ける。


「……残念だけど、絢瀬さんはもうどうしようもないんじゃないかな」


「な、」


 暗い表情で如月が言う。

 何やら事情を知っている様子だ。

 落ち着け。

 風俗で働いている時点でまだ彼女が絶望の未来にいることは分かっていた。


 今、俺に必要なのは情報だ。


「なんで?」


「なんでって、太郎も会ったんでしょ? その、風俗で」


「ま、まあ」


 この前のことを言っているわけではなさそうだ。

 俺は絢瀬さんを指名して風俗に行っていたのか。


「完全に調教されてたって言ってたのは太郎だろ。学生のときから噂は聞いてたけど、あれからずっと続いていたのだとすると、もうどうしようもないだろうね」


「噂って?」


「……それも太郎が言ってたことだけど?」


「あ、いや、ちょっと忘れちゃって」


 俺が適当に誤魔化そうとすると、如月はまあいいけどと呟きながら続きを話してくれる。


「安東だよ。あいつと付き合ってから、分かりやすく変わっちゃったんだよ、絢瀬さん。もちろん、悪い意味でね」


「安東……」


 絢瀬さんも言っていた。

 やっぱり彼女の人生の転落には安東圭介が関わっているのか。


「思い返すと、全ての原因は二年生のときのオリエンテーションだったのかも」


「オリエンテーション?」


「そこで安東と絢瀬さんが一緒の班になったんだよ。覚えてない?」


「あ、ああ」


 もちろん覚えてない。

 というか、覚えがない。


 オリエンテーションがあったのは何となくだけど記憶にはあった。

 中間テストが終わって、クラスの親睦を深めようという名目で行われたものだ。

 なんであのタイミングなんだよと当時思ったのは覚えていた。


「なんでそれが原因なんだ?」


「別に深い意味はないよ。それまでは二人に接点はなかったような気がするからね」


 確かにそうだ。

 タイムリープした先の時間軸でも絢瀬さんと安東は関わりがなかった。


「でも、確か……同じ班になろうと誘ってたのは安東だったような気がする。だから、あいつはもしかしたら狙ってたのかも」


「……なるほど」


「なるほど?」


 そのオリエンテーションで二人を同じ班にしなければ未来は変わる……かもしれないということか。


 一つの原因を取り除いても別の理由で同じ未来に行き着くことはあるかもしれない。


 でも、今、俺にできることがあるとするならばそれくらいだ。


「あれって確か五月の末頃だったよな?」


「そうだね。うろ覚えだけど、それくらいだった気がする」


 今は五月の二十五日。


 あれ。

 ちょっと待て。


 確か、俺がタイムリープしたときの日付は五月二十日だったよな。

 いや違う。

 恐らくだけど、タイムリープ自体は五月十九日に起こってる。

 そこから悠長に寝てたのか、それとも翌日の朝にタイムリープするのか。


 つまり。

 二つの時間軸の時間の進行はリンクしてる可能性がある。

 それと、タイムリープした翌日に目が覚める。

 俺の考えが正しければ、今日タイムリープをすれば十年前の二十六日に戻ることになる。


 オリエンテーションの班決めっていつした?


 もしかしたら、もう終わってるかも。


 じゃあ回避できないじゃん。


「……どうしたの? 酔った? そろそろ帰る?」


 暫く黙り込んでいた俺を心配した如月が言ってくる。

 帰ってる場合じゃねえぞ。


 一刻も早くタイムリープしないと。


 俺の仮説が正しければ、タイムリープをするためには挿入しないといけない。


 でも俺には彼女もセフレもいない。

 そんな俺が簡単に挿入する方法は結局一つしかねえ。


「いや、帰らない。それより行くところがある」


「行くところ?」


 不思議そうに訊いてくる如月に俺はこくりと頷いた。


「風俗だ」


 我ながら、なんて格好悪いセリフだこと。

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