彼と彼女と子猫の話

西東惟助

プロローグ

 この学校生活が一体、どこでとち狂ったのかを何度も考えてきたが、何度考えてもそれはやはりこの中学校に入ったばかりの頃だった。


 視力が弱く遠くを見るときには目を細めて見るくせが災いし、俺の学校生活はおかしな運命を辿ることになった。


 メガネ、だせえ。などという本当にださい考えだった自分を殴ってやりたい。

 殴ってやりたいなんて野蛮やばんなことを考えちゃダメだ。

 訂正、説教してやりたい。


 そんな癖を用いて、俺が読もうとした掲示物、その付近に不良の先輩がいたらしい。


 そいつの顔がよく判別できなかった上に、判別できたとしても顔だけで不良かどうかなんて入学したばかりの俺には分からなかっただろう。


 にらんでると勘違いされ俺は絡まれた。


 感心なことにその先輩は取り巻きを連れてくることなく一人で向かってきた。

 右も左もわからぬ一年坊主。すぐに手下にできると踏んだのだろう。


「おいこら」


 そんなテンプレのセリフを先輩は吐いた。

 顔は確かに怖い。髪型もボウズだ。不良オーラが出ていた。


「えっと、な、なんでしょうか」


 俺は本気でこの先輩が怖かった。誰かに絡まれるなんて生まれて初めてだったんだ。

 体は大きかったけど、喧嘩なんてしたこともない。


「おめー今睨んでただろ!」


 先輩が怒鳴どなる。なんでこういう人たちはすぐこんなに声を荒らげることができるのだろう。小鳥が逃げてしまうではないか。


「に、睨んでません」

「てめえガタイがでけえくせに弱っちいのかよ」


 先輩はそう言って笑った。

 確かにこのボウズ悪人ヅラ先輩の目線は俺より低いが迫力はある。


 この先輩も年下とはよく自分より大きい人間に絡んできたものだ。勇気があるのかもしれない。

 いやそれはないきっと馬鹿なのだろう。

「す、すみません」


 周囲からはかわいそー、だとかどうしよ、だとかそんな声ばかりが聞こえる。

 誰も助けてくれないのはわかった。


「おいてめ」


 先輩は俺の方と胸ぐらを掴んだ。


 この時の対応さえ誤らなければ良かったんだ。

 まず掴まれた俺のしたことは先輩を突き飛ばすという防衛行為だった。

 先述の通りに喧嘩の経験がなかった俺は、こういう時の力の加減を全く知らなかった。


 思いのほか強い力で突き飛ばされた先輩は大変な目にあった。

 おそらく四月でピカピカワックスの床も一因だったと信じたい。

 結果的に先輩は派手に吹っ飛び、その頭を靴箱の角にぶつけ救急車で運ばれていった。


 俺がおとがめなしだったのは、先輩の素行の悪さと、見ていた人がようやっとうまい証言を言って助けてくれたからだ。


 この先輩撃退譚が波及していくと笑えない状況になってしまっていた。

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