第七章
第39話 故郷はエーテルの彼方へ ①
ベクタークイーンの討伐が決まってから更に一週間が経過した頃、リオ・シンドーは度重なる会議でヘロヘロになっていた。
「死ぬぅ〜〜」
過労で。
しかも会議に呼ばれてもリオが発言する事はほとんど無い。ただいるだけなのが現状だ。そもそもリオに専門知識など無く、提案の時もサマンタランが事前に必要最低限の知識を教えてくれたから出来たのだ。
ただの学生に軍議へ提案するなど普通はできない。
「大丈夫ですか? リオさん」
帰ってきて早々玄関口の椅子にぐでーと沈み込むリオを見て、ドクターが心配して水を持ってきた。飲んでみると若干砂糖が入ってるのか、ほんのり甘くて疲れに効きそうな味がした。
「ふぃ〜、疲れに効く回復魔法とかかけてもらえます?」
「はい、エナジードリンク」
「それ体力の前借りだから逆に疲れるって」
ドクターとは同じ家に住んでいる……といえば少し甘い雰囲気だが、実際には連盟が用意したシェアハウスにドクターとヒデとロビンソンの四人暮らしをしている。
「ヒデとロビンソンは?」
「ヒデさんは先に寝ちゃいました」
確かにもう夜遅い、それにエンシワは地球よりも一日が短いので早寝早起きを意識して行わないと身体がついていけなくなる。おかげでココ最近のリオは健康的だ。
「ロビンソンさんはお菓子買ってくるって飛び出していきました」
「という事は実質俺ら二人か」
そう思うと自然と意識してしまう。別にドクターの事は恋愛対象として見ているわけではないが、若い女性と一緒だと思うと甘い胸の高鳴りを感じる。
「あぁいえ、実はお客さんが来てるんですよ」
「お客さん?」
二人ではなかった。少し恥ずかしい。
ドクターに導かれるままリビングに向かうと。
「こんばんは、ワタクシです」
サマンタランだった。
「あんたいつも唐突に現れるよな」
「お褒めに預かり光栄です」
褒めてない。
「なんの用だ? わざわざここに来るって事は内密の話があるんだろ?」
「う〜〜ん、ボケる暇も与えてきませんねぇ。その通りリオさんに個人的に聞きたい事がありましたので」
「じゃあボクは席を外しましょうか?」
「いえいえ、リオさんが良ければ残っていただいても」
「俺次第って、なんの話するんだよ」
「ガリヴァーの前クルーの話です」
「…………ほう」
比較的冷静に返せたと思う。ガリヴァーの前クルーに関してはリオも思うところがある。
「前クルーて、クイーンと戦って皆死んじゃって、最後に生き残った艦長が死ぬ前にボク達を助けてくれたんですよね?」
「えぇ、その認識で間違いありません。ですが気になりませんか?」
「何をですか?」
「一体彼等はどうやってクイーンの心臓を手に入れたんでしょうか?」
「あぁ! 確かに!」
どうやらサマンタランは前クルーの働きが気になるようだ、生憎前クルーの記録はクイーンとの戦いの中で失われており、それを知る術は無いはずだ。
「あのクイーンから心臓の破片を奪取した手腕、知ることができれば役に立ちそうなんですよ」
「なるほど、でも確か記録は失われたって」
「えぇ、残念ながら。そこでリオさんに尋ねたいんですよ」
「俺に? 今更話せる事なんてないぞ」
「いえいえ、ありますとも。何せあなたが前クルーの記録を削除したのですから」
「えぇっ!?」
ドクターが驚きの声をあげる中、リオは無表情でサマンタランを見つめる。相変わらずサマンタランはニコニコと何考えているのかわからずくえない奴だ。
「何を根拠におっしゃるやら」
「おやおやおや、しらばっくれちゃいますか」
「定番の対応だろ?」
「お約束をわかってらっしゃる、それで実際のところどうなんですか?」
「事実だよ、俺が削除した」
再びドクターの驚きの声が二人の間を駆け巡ったが、二人は意味深に微笑むだけだった。
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