第38話 評議会の理 ⑦

 一連の作戦概要は聞く人々に「もしかしたら倒せるかも」と思わせる事に成功していた。

 現にリオの知らない所で、クイーン討伐の流れが出来上がって軍に志願する者が急増したという惑星があるとの事だ。

 間違いなく空気は出来上がってきた。しかしこれだけではダメだ、この作戦概要にはまだ穴がある。そこをどう突いてくるかでこの提案の成功率が変わってくる。

 そのための作戦も用意してある、ドラゴニア国王にあえて反対させてこちらが有利に運べるよう誘導してもらう予定だ。

 評議会議長が強制ミュートをかけてから喋り出す。


「なるほど、上院議員から意見はあるか?」


 ここだ、このタイミングでドラゴニア国王が反対すれば。

 

「はい議長、我々ジェルプランはこの討伐計画に反対の意を唱えます」

 

 最初に異を唱えたのはドラゴニアではなかった。

 

「サマンタラン、ジェルプランてどういう種族なんだ?」

「ゲル状生命体の種族でして、自らの形を自由に変える事ができます。知性は非常に高く、論理的思考を重視しており数字で物を見る者が多いです」

「ゲル状生命体……スライムみたいなものか。いずれにしても厄介な種族が敵に回ったということか」

 

 先手を打たれてしまった、今更ドラゴニア国王が反対をだしても流れは変わらないだろう。ドラゴニア国王がこちらを見ているが、下手に出ると裏目になるかもしれないので、首を横に振って静観するよう促した。

 

「まず、これは本来最初に軍議へかけるもの、どこかの惑星の軍に見てもらいましたか?」

「ドラゴニア軍に」

 

 してやられた。これでドラゴニアの発言力が下がってしまい、この後フォローしてもらおうとしてもただのエコ贔屓としてしか見られない。

 エンシワ連盟においてリオの味方と言えるのはドラゴニアとラボラトリーのみ、現在はラボラトリーのブースで発言しているので、ドラゴニアを失えば実質孤立無援と同じだ。

 

「なるほど最低限の手続きは済んでいると。では必要兵力の計算は済んでいるのでしょうから後で確認しますが、その兵力はどこから捻出するつもりですか?」

「それは」

 

 その答えは勿論用意してある。元々ドラゴニアに指摘してもらう予定だったからだ、流れを戻すチャンスに内心ほくそ笑みながらリオは続く言葉を述べようとするが。

 

「志願兵を募るつもりなのですよね?」

「!?」

 

 図星である。

 

「先程も言ったようにこれは本来軍議にかけて提案を通し、エンシワ軍を投入するもの。それをせずこうして評議会で提案するという事はつまり、一般人を扇動する事で提案を通しやすくし、かつ志願兵を募る事で自分が自由に使える軍隊を作ろうとした。違いますか?」

 

 残念ながらその通りだ、言い方は悪いが彼の言っている事は間違いではない。元々志願兵を募る理由は自ら志願する事で士気の高さを維持しようという試みからだ。

 またあくまで志願という形にする事で、リオは無理矢理戦わせたりしない他者を思いやる人間だと思わせる目的もあった。

 そうすれば志願兵の数も増えただろう。

 だが彼の言い方ではリオは自分勝手に軍隊を作ろうとしているならず者と認識されかねない。最終的に同じ結果でも、その過程が最悪すぎた。

 何よりも最悪なのは反論が出来ないことだ。既に五秒は経っただろうか、早く反論しなければならないが、下手な反論は通じない相手だ。

 焦りと緊張で背中をヒヤリとしたものが走るなか、光明が頭に浮かんだ。

 

「はい、最終的に志願兵を募るつもりです」

 

 ザワザワと騒がしくなる、聞こえてくる声の中には「我々をなんだと思っているんだ」とか「民間人を巻き込むなんて最低」といった声があり、さっきまでの英雄視から一転して失望と批判の声が大きくなっている。

 想定通りだ、だからこそここで大きく声を張り上げる必要がある。

 

「ですが!」

 

 リオが大きな声をだしたからか、議長が強制ミュートをかける前にざわめきが収まってきた。

 

「志願兵を募るのは決して自分のためではありません、クイーンを倒せるとは言っても奴の力は一瞬で何億もの人々を死に至らしめる事ができます。

 私は武装惑星デルニアが手も足も出ないまま滅んだのを見ました、直接戦って奴の強さも実感しました。

 ハッキリ言って、この提案が通ったとしても被害規模は相当なものになります。まず間違いなく生きて帰れるとは思わない方がいい。

 だから志願兵を募るのです、命令ではなく、自分の意思で戦って死ぬ兵士を。それは勿論、私自身も含めて」

 

 反論はしない、認めた上で現実的な解答をだす。相変わらず評議会場は静かだが、今までとは違う静けさだ。ヒソヒソと話す声が聞こえるだけで野次も何も飛んでこない。

 決して良い空気ではないが、悪くもない。

 

「ラボラトリーのサマンタランです、ワタクシの方から補足させてください」

「許可する」

「こうして評議会に概要を流したのはけっして市民を扇動するからではなく、一般の人達の中にいる有識者達の意見も欲しかったからです。

 あいにく我々ラボラトリーとドラゴニア軍だけでは完璧に計画を立てることができません、各方面の有識者達の知恵を借りる必要があります。

 何せ全てが初めてですからねぇ、クイーンの生体なんてわかりますか? 虚無空間で戦った事のある人はいますか?

 全てが前例の無いこと。だからこそあらゆる知恵と知識が必要なのです。失礼しました」

 

 これは上手いフォローだ。これなら市民に戦えなくても何かできるのではと思わせる事ができる。

 議場は変わらず静かだ、ジェルプランの上院議員も黙っている。これは勝ったといえる……いや、彼ほどの知性ならもっとエグく突いてこれるだろう、それが無いという事はこの雰囲気になるように誘導したのかもしれない。

 少ししてからジェルプランの上院議員が再び口を開いた。

 

「分かりました。我々ジェルプランはリオ・シンドーの提案に賛成します」

 

 またもやしてやられた。これでこの作戦において最も強い発言力を持っているのが最初に賛同したジェルプランとなってしまった。

 それだけではない、成功失敗に関わらず作戦が終われば最初に貢献した国家としてさらに確固とした立場を得るだろう。

 

「こいつが狙いか」

「やられましたねぇ」

 

 このあとは特に何も無く、提案は一度再検討という形で持ち帰る事となったが、確定で受理されるとの事。予定とは違ったが、最終的に作戦が発動する事となったのでヨシとする。

 後日、エンシワ連盟全体でクイーン討伐の正式な発表がされるのだが、ここでは割愛しておく。

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