第34話 評議会の理 ③
英雄リオ。なんでも超大型ベクターと戦って生き延びたらしいとか、エーテル服のみの防護でベクターと戦ったとか、その目はまるで相手を刺し貫くかのごとく冷徹な瞳をしているとか、腕が十本あるとか、八番目の性別だとか。女と見れば誰彼構わず抱くとか。
とにかく一度街へでればリオについてそのような噂があちらこちらから聞こえてくる。
そのほとんどが根も葉もない噂どころか、どこからそんな噂が追加されたのか謎すぎるようなものまで、実に多様性に溢れている。
だが、それらの噂の根本にはリオ・シンドーという英雄を讃える思いがある。
それらの噂に一つ一つ訂正を入れたい気持ちを抑えつつ、ドクターとヒデはブリタニア号が格納されているブロックまで移動している。既にテロによる被害は跡形もなく修正され、港は数週間前に発進したあの頃に戻っていた。
「もうこんなに噂が広がってるんですね」
「ガリヴァーは目立つからな、隠そうとしても無駄と評議会が判断したらしい。むしろリオを英雄に仕立て上げる事で兵士や民衆の士気を高めようとさえしてる……てドラゴニア国王から聞いた」
「なんかそれ、嫌ですね」
「道具みたいな扱いだもんな」
テクテクと歩きながら格納庫へ、ブリタニア号に入るとロビンソンが待機しており「おっそーい」とむくれていた。
ドクターがブリッジの真ん中まで来ると、いつものように副長が出現した。突然の出現に動じなくなっているあたり、もう慣れてしまっているらしい。
「ごめんなさいロビンソンさん、出発準備はできてますか?」
「うん艦長、準備万端だよ」
「やっぱりボクが艦長なんですね」
「つーかしれっと今回も副長がいるな」
「システムですので」
今回はこの四人での旅になるが、そこまで長くはならない。目標はエンシワ星系にある惑星や衛星、そしてコロニーをまわることだ。
そこにいる評議会議員に接触し、交渉をする。やる事はこれだけだ。
一週間後に開かれる評議会に向けて一人でも多く味方を増やす必要がある。勿論ドクターやヒデ、ロビンソンに政治的交渉は無理だ。実際に行うのはドラゴニア国王がリモートで行う。
リモートなら直接行く必要は無いと思われがちだが、実際そうである。政治的交渉は副次的なもので、本当の目的は別にある。
――――――――――――――――――
「ドクター達が発進したそうだ」
リオは病室のベッドで半身だけ起こして投影モニターを見ている。SF映画などでよくみる空中に映し出されたホログラムモニター、まさにアレそのものが手元にあるのはなんだか胸が踊る。
モニターにはドラゴニア国王が映されている。場所はドラゴニア領事館の執務室だろうか。
「じゃあ仕込みはドクター達に任せて大丈夫そうだな」
「しかし君も思い切った事をする」
「そうかな?」
「そうだとも、まさか評議会の流した英雄リオの噂を逆に利用しようとはね」
「使えそうだもの」
実際、評議会が流してなければ自分で流していただろう。
「あぁそれと、君への取材依頼がたくさん来ているんだがどうする?」
「なるべく受けよう、メディアへの露出もある程度必要だ」
「発言には気をつけたまえよ、君らの世界のマスコミは知らないが、こちらの世界のマスコミは陰湿だからな」
「奇遇だな、俺の世界のマスコミも割と陰湿だぞ」
この日から、リオはリハビリとメディアへの出演と忙しい日々を繰り返す事となる。
ただ記者やコメンテーターの質問に答えているだけなのだが、意外とトーク力があったらしく、ちょっとしたファンがつくようになった。
ただ、腕が十本も無いのはどういう事だ! とか、噂で聞く外見と実際の見た目が違う事でやたらと苦情が来た時は流石に苦笑いを浮かべた。
そうして忙しく過ごして日にちが流れ、早くも一週間が経過してしまい評議会が開かれる日となる。
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