第五章
第23話 あの艦を目指せ! ①
「しかし彼らの功績を鑑みたとしても、連盟に加盟していない星を贔屓するわけには」
「だが彼らは多大な犠牲を払いながら超大型ベクターの心臓を持ってきたのだぞ!」
無機質な空間が広がる会場にドレニア国王の声が響く。
ここに床を除く天井や壁の概念はなく、エーテル界や宇宙のような空間がドーム状に広がっているのみである。そしてその空間の下を除くあらゆる角度あらゆる場所に四角形のブースが漂っており、ブースにはエンシワ連盟の評議会議員が入っているが、実際に彼らがそこにいるわけではない。
この会場はVR空間なのでここにいる人達は全てリモートで参加している。
「仮に援軍を送るとして、どこの星の軍を向かわせる」
「誰もいないのなら我がドラゴニアが引き受けよう。星を失ったとはいえ、我が軍は幸いまだ三割も残っている」
「だがその三割は連盟本部の防衛についていた軍と、遠征に出ていて難を逃れた者であろう!」
「いくら連盟でもスリートップに入る強さをもつドラゴニア軍とはいえ」
「静粛に! 静粛に!!」
加熱する議論を議長が宥める。これが地球の裁判であれば大きな音を立てて無理矢理静かにさせるところだが、ここでは全員がリモート参加であるためミュートにする事で無理矢理静かにさせた。
「予定時刻になりもうしたのでこの議題はまた次に持ち越す事とする。各自解散するように」
唐突に議会の終了を告げられた事で、表示されていたブースが一つ、また一つと消えていく。ドラゴニア国王も議会から出て元の無機質な部屋へと戻った。
VR機器を閉じ、資料を片付けるとドラゴニア国王は誰もいない部屋に毒づく。
「ふん、現場を知らない怯えた老人どもめが」
今回もまた平行線で議会は進まなかった。かれこれ一ヶ月もこの調子だ。しかも一度の会議は地球の時間で僅か十五分しか時間を与えられていないため尚更だ。
「ふぅ、次回までに議員の根回しを進めねばならぬな」
あの日、ガリヴァーがベクタークイーンと接触し、リオ・シンドーがガリヴァーと共に消息を絶ってから二ヶ月の時が過ぎていた。
ロイヤルメローでクイーンから逃げ出してから一ヶ月後に、ついにエンシワ本星がある星系に辿りつき、以降ドラゴニア国王はアルファースと地球へ援軍を出すよう議会に働きかけ続けているが、その結果はあまり芳しくない。
デスクに腰を降ろして秘書へ通信をかける。
「はい国王、何か御用でしょうか?」
「ドクターとヒデは何処にいる?」
「二人ともついさっきドラゴニア領事館をでていきました。ドクターは連盟のラボラトリーへ、ヒデさんは技術講習会へ向かわれました」
「わかった」
二人共勉強熱心なのは良い事だが、保証人としては無理をしてないか心配になる。
――――――――――――――――――――
ラボラトリーを出たドクターは大きく伸びをして気分の切り替えをはかった。
この星にも朝はあり、昼もあり夕方も夜もある。一日は約二十三時間と地球より短いため地球やアルファースの時間に慣れていると体内時計の狂いを感じてくる。今更ながら地球とアルファースがほぼ同じ時間間隔だったのは奇跡なのだと実感した。
「もう夕方ですねぇ」
ラボラトリーではエンシワ連盟で独自に発展した医療技術を学んでいたところだ。連盟というだけあってあらゆる種族に対応した医療部門が存在しており、一通り見て回るだけでも数ヶ月はかかりそうだ。
「はぁ」
自然と溜息がでる。毎日のことだ、毎日同じ場所で同じタイミングで、ドクターはこうして夕焼け空を見あげながら溜息をつく。
ラボラトリーで勉強をしている間は余計な事を考える余裕がない、しかしこうして一日が終わるとその余計な事が頭を駆け巡って憂鬱になる。
「リオさん、どこに行っちゃったんですか」
二ヶ月前のあの日、全てを知ったのは全てが終わってからだった。
――――――――――――――――――――
二ヶ月前、ガリヴァーからロイヤルメローへ移ってから数十分後のこと。ブリッジに通されたドクターとヒデは副長のバックアップデータからリオがガリヴァーに残った事を聞いた。
「リオさんが……囮に?」
「そうだ、おそらくガリヴァーの性能ならクイーンと戦ってもしばらくはもつと考えたのだろう」
膝を床についたドラゴニア国王が力無く頭を垂れる、ドラゴニアの慣習で膝を付いて頭を下げる行為は自身の名誉を落としてまで謝罪するという意味があるらしい、いわば土下座だ。
国王が直々に膝をつく行為はそれだけで大きな意味をもつが、生憎今のドクターとヒデに響くことはない。
そこでフォローとばかりに復元されたガリヴァー副長が説明を加える。
「国王のおっしゃる通り、艦長はガリヴァーの性能なら充分クイーンと渡り合えると判断しました。結果はご覧の通り大成功と言っても過言ではありません」
「大成功だと!?」
ヒデが副長へ掴みかかろうとするも、副長はあくまでデータにすぎず見えてる姿も光子魔法で再現されてるにすぎない、ただのホログラムなのだ。ヒデの伸ばした手は虚しく副長を突き抜けて空を切るだけだ。
「大成功なものか! 副長てめぇなんで止めなかった!」
「システムですので艦長の命令に意見を申す事はあっても、止めることはできません。連盟の規約に反する命令であれば別ですが」
幸か不幸か、リオは連盟の規約に反する行動や命令を出したことがないらしい。
ヒデの目は次にアチータへと向けられた。
「アチータ、お前ブリッジにいただろ! 何で気付かなかった!?」
「何か様子がおかしいとは思ったが、まさかこんな事にとは」
「ふざけるな! 様子がおかしいと思ったのなら」
「やめてくださいヒデさん!」
「止めるなドクター!? そもそもこいつらと会わなければ」
「済まない、ヒデ」
国王と同様、アチータもまたその場に膝を着いて頭を垂れる。
「お詫びのしようもない、しかしもし気付いていたとしても、おそらく止めはしなかっただろう」
「なんだと!?」
「それが国王を助ける最善の策なら!! 止められる筈がないだろう、私はドラゴニアの騎士なのだから」
「騎士だからなんだ! リオはな!」
「落ち着いてくださいヒデさん! 誰も、誰も悪くないんです!! 誰も、悪くないので、誰も責めないでください」
「ドクター」
彼女の涙ながらの訴えでようやくヒデの頭も冷えたのか、爪がくい込んで血が出るくらい拳を握ったヒデがワナワナと震えながら立ちすくむ。
「わかっているんだ、でも、でもリオはまだ十八歳なんだぞ、ワシより二回りも下で未来もあったのに」
「ボク達は……運が悪かったんです」
「そんなわけがない、エーテル界に放り出されたワシ達をリオが引っ張ってくれたからここまで来れたんだぞ。不運なわけがない」
「ごめんなさい、そうですね」
静まり返ったブリッジで呼吸する音すらか細く感じられる時間が続く中、レーダー担当席から報告が入った。
「W.E.Sガリヴァーの反応が、ロストしました」
レーダーの故障でないのは誰の目から見ても明らかだ。
それが意味する事を悟った瞬間、ヒデとドクターは……いやアチータもガラドもガリヴァーに搭乗していた全てのクルーが、涙と慟哭でロイヤルメローを満たした。
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