第20話 闇の道を歩むとも ⑦

 ロビンの一件からはや三日、ガリヴァーのクルー達は星に滞在して艦の補修と物資の補給に勤めていた。未発見の原始惑星なだけあってか、鉱石や水晶、薬草や食糧が豊富にありまさに今のガリヴァーにとって至れり尽くせりである。

 生態系や地形への影響が出ないよう調整していたらもう三日も経っていた。

 王様の捜索はどうなったかだが、副長とアチータがある方法で捜索を行っている。

 

「ヒデさん、物資の補充はどんな具合だ?」

 

 艦長席で各セクションの作業進行具合を見ながら地上で作業中のヒデへ連絡を入れる。程なくしてヒデから「あと一時間で終わる!」と返答が帰ってきた。

 

「終わり次第出発するか、王様の捜索は?」

 

 レーダー席で捜索中のアチータが答える。

 

「もう少し待ってほしい、今ちょうどいい歪みを発見したところだ」

 

 この惑星に来たその日、副長とアチータはエーテルの歪みを利用した捜索を提案した。曰くエーテルの歪みによって過去のロビンと通信ができたのなら、同じように歪みを利用して直近の時空にスキャンをかけれるのではないかと仮説をたてたのだ。

 そしてこの三日間でかなりの数の歪みにスキャンをかけてきた、歪みの法則をある程度理解してきて、この短い期間で論文も書いたらしいがそれは割愛する。

 三日目にしてようやく目的の時空に繋がる歪みを見つけたのだ。

 

「歪みはどこの時空と繋がってる?」

「今測定してる……よしでた、今から五日後の、ここから〇二一一三の方角だ……それとどうやら当たりを引いたようだ」

「見つかったのか!」

「ああ! やっと我が王の元へ馳せ参じる事ができる!」

「物資の積み込みが終わり次第出発する!」

 

 王様が見つかった、その報告は直ぐさま全クルーに伝わり、ドラゴニア人のクルー達の士気が上がって作業効率が捗ったのは言うまでもない。

 作業進捗の報告を聴きながら、リオは艦長席にぶら下げているクリスタルケースに目をやった。ケースの中にはロビンのネームタグが入っている。

 

「お前もしばらく付き合えよ」

 

 彼もきっと故郷へ帰りたかった筈だ。残念ながら生きて帰る事は叶わなかったが、せめて彼の遺品は故郷の遺族の元へ届けようと持ってきた。

 幸い、ロビンの骨格と同じ人種データは連盟のデータベースに存在しており、そこから彼の故郷と思われる惑星を特定できたのでエンシワ連盟に着いたら遺族も見つかると思う。

 物資の積み込みが終わりガリヴァーが発進する、目的地まではおそらく一週間はかかるだろう。

 

 

 ――――――――――――――――――――

 

 

 そして七日後、目的地に着いたものの王族の艦はどこにも見当たらなかった。二日もズレて到着したのだから当然だろう、ガリヴァーは早速広域スキャンをかけて星域全体をくまなく調べる。結果が出たのは五十分後、七千億キロメートル離れた所にある隕石群に隠れるように浮遊する艦を見つけたのだ。

 連盟のデータベースと照合して、それがドラゴニア国王が乗るロイヤルメローである事を確認できた。

 

「副長、ドライブチャージはいつ終わる?」

「あと六時間四十二分です」

「普通に通常エンジンの方が早くつくな。よし使い道のなかった風速魔砲を使おう」

 

 風速魔砲はただ加速するだけの魔砲だ、今まではエーテルドライブをした方が速くかつ長い距離を移動できたので通常エンジンで急ぐなんて状況が無かった。

 今こそこの魔砲を使う時。

 

「風速魔砲ダッシュウィンド発射シークエンス開始!」

「了解、風速魔砲」

「ちょっと待ってくれ!」

 

 突如レーダーとにらめっこをしていたアチータが声を荒げて制止をかけた。

 

「どうしたアチータ!?」

「ベクターの反応あり!」

「場所は!?」

「本艦より四百億キロメートル! 進行方向にロイヤルメローがある!」

「インターセプトコース!」

「これは……まさか」


 アチータの顔が見る見る青ざめていく、カンガルーの表情は読取りづらいが、彼女が非常に狼狽えている事は何故かわかった。

 

「この反応……クイーンがいる」

「ベクタークイーンだと!?」

 

 最悪の展開だ。よりにもよってベクタークイーンがロイヤルメローの方へ向かっている。今取れる最善の手は何か、経験の乏しいリオの頭の中をあらゆる作戦がぐるぐる駆け巡ってはどれも悲惨な結果を見出している。

 ロイヤルメローを囮にして逃げる方法がある。しかしこの場合だとクルーの半数以上を占めるドラゴニア人が一斉に艦を降りるだろう、下手をすると反乱を起こしてガリヴァーを乗っ取りかねない。

 ベクタークイーンと戦うのはどうか、まず間違いなく勝てない。無駄死にするだけだ。そうなるとアルフォースと地球へ援軍を送れない。

 だから取れる手段は一つだけしかない。

 

「このまま進むとして、アチータは急いでベクタークイーンと接触するポイントと所要時間を算出!」

「了解艦長」

「ガラドは医療部と保安部を集めてシャトルへ」

「はい艦長」

「機関部ヒデさん! エンジンとリアクターの調整急いで!」

「やってる!」

「副長は特殊保管庫の扉を解放」

「お言葉ですが艦長、何をするつもりですか?」

「ベクタークイーンの心臓の破片を活性化させる」

 

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