第19話 闇の道を歩むとも ⑥
「へぇ〜、アチータはドラゴニア出身かあ。俺かなり昔だけどドラゴニアに行ったことあるんだ、自然が多くて良いとこだよな」
「あぁ、私の故郷は特に田舎の方だったから森が家みたいなものだったな」
「そうそうあそこはまだ残ってるか? ユーラ自然公園」
「あそこはかなり昔にベッドタウンに開発されて無くなっている」
「そっかー」
ロビンと通信が繋がっている部屋へ赴いたリオだが、中の二人はドラゴニアの話題で盛り上がっていて中々声を掛けづらい。一応交代の時間なのだが。
「ところでアチータ、そろそろ交代の時間じゃないのかい?」
「あぁそうだったつい話が弾んでしまったな」
「いい女との会話はいくらでも弾ませたいね」
「悪いね、次はいい女じゃなくて」
「いたのか艦長、すまない気づかなくて」
アチータと交代してリオがロビンとお話し係となる。スピーカーを置いたデスクに座り、コーヒーを用意して副長から貰った諸々の資料に目を通し始めた。
「おいおい艦長さん、見えないけどあんた話する気ないだろ?」
「あるあるって、えーと何の話だっけ?」
「まだ始まってないって! 俺の寂しさを埋めてくれよぉ」
この男、無駄にコミュニケーション能力が高い。もう二日目になるが既にガリヴァークルーの皆から好かれているそうだ。聞き手としての能力が高いのと彼自身の陽気な性格が疲れたクルーの心を癒したのだろうとドクターは分析していた。
「とりあえずそっちにつくのは予定通り明日だな」
「明日かぁ、楽しみだなあ」
「おう楽しみにしとけ、ただ星の周りのエーテルが不安定でな。時空の揺らぎも検知されたそうだから救助に時間かかるかもしれない」
「一年待ったんだぜ、あと一日ぐらい余裕だって」
「そりゃそうだ、せっかくだからロビンもガリヴァーのクルーになるか?」
「…………」
不意に無言になるロビン、通信不良か彼自身に何かあったのかと身構えるが、しばらくしてまた彼自身の陽気な声が再び聞こえてきた。
「あぁ……すまねつい考えちまった」
「そんなにクルーが嫌なのかよ」
「いやそういうわけじゃねえて、まあクルーについてはなってやるよ。どうしても俺の力が必要らしいみたいだからな」
「はー! そういう態度とっちゃう? じゃあもう帰ってやろー」
「おうおう帰れ帰れ! あばよ親友!」
帰りはしない。
なにはともあれ、件の惑星についたのはそれから十八時間後の事であった。惑星の大きさは直径約一三〇〇〇キロメートル、大気組成は窒素が多く酸素が少なめと地球とほぼ同じだ。また陸地はさほどなく、ほとんどが海で構成されている。
知的生命体は確認できず、どうやらまだできたばかりの原始惑星のようだ。
「副長、知的生命体の反応が無いってどういう事だ?」
「文字通りです、この星から知的生命体は探知できません」
「それはやはり、エーテルが乱れて云々が原因か?」
「おそらく」
「直接降りれるか?」
「可能です」
「よし、ガラドは救助隊を編成して格納庫へ集合、ドクターと俺も同行する」
「艦長もですか?」
「親友の俺が出迎えてやんねえとだろ?」
いつから親友になったのかとその場にいた全員の脳内にツッコミが入ったことを彼は知らない。
ガラドの編成した救助隊と共にシャトルへ乗込み、ガリヴァーから発進する。エーテルの安定した所を選んで進み大気圏を突入した。
「大気圏を突破した、アチータ、ロビンと通信して正確な位置を聞いてくれ」
「それが、さっきからロビンとの通信が途絶えてしまっているんだ」
「なんだって?」
エーテルとはなんとめんどうな、ここにきて肝心のロビンと通信ができないとは。予め聞いていた周囲の特徴を頼りに上空を飛び回る。
三時間程飛び回ってようやくそれらしい島を見つけた。
海面まで降下し、島の周囲をぐるりととんでいると不意にガクンとシャトルが大きく揺れて海面下に沈み始めたのだ。
「何がおきた!?」
「シャトルに何かが巻きついて!」
レーダーを確認、それから船外カメラを動かして外を見ると、海の中から二十メートルもある巨大な(見た目が)イカの足がシャトルを掴んで海の中へ引きずり込もうとしていた。
シャトルの光子魔砲では水中で威力が減衰して決定打にはならない、外にでて直接叩こうにも足がハッチを塞いでいる。
ゆえに取れる手は一つしかない。
「副長! 指定した座標に氷結魔砲アイスコフィンを発動!」
「はい艦長。氷結魔砲アイスコフィンの発射シークエンス開始、詠唱コード入力完了、エーテルリアクターの稼働安定、魔砲形状の指定確認、発射します」
衛星軌道から青い光が柱のように降りてくる、光の柱はシャトルの後方に落ち、海面を一瞬で凍結してしまった。同時にシャトルを縛るイカの足の拘束が緩んで自由を取り戻す。
直ぐに飛び上がりしばらく様子をみると、カチンコチンに氷漬けされた巨大イカが浮かび上がってきた。
「ふー、この魔砲指定した座標に氷を作る魔砲なんだけど、全然使い道がなくてさあ、やっと使えたぜ」
ついでに食料も確保である。
危機も去った事なので、捜索を再開するのだが、なんと目星をつけた島が正解だった。海岸線をぐるりと回っていけば、錆び付いたシャトルが見えてきた。
おそらくロビンの乗っていたシャトルだろう。
「さあご対面だ。確かロビンはシャトルを家にしてたんだよな」
ガラドを先頭にしてシャトルへ赴く、ガラドを除く保安部は周囲へ散開して安全の確保、残ったリオとガラドとドクターがロビンのシャトルへ。
「随分ボロボロだな」
「というより完全に風化しています」
海の近くにあったからだろうか、ロビンのシャトルは破損が酷く住むにはあまりにも適さない。
ガラドが慎重にドアに手をかけてこじ開ける。ギィという重苦しい音と共に錆がポロポロと下に落ちていく。
どうにも何かがおかしい、ロビンはここへ一年前に落ちたと言っていたが、どう見ても一年やそこらの風化ではない。明らかに数十年は経過している。
「うっ……埃がひどいですね、皆さんマスクを着用してください」
ドクターの指示に従って防護マスクを被る。これで多少は呼吸が楽になった。
埃まみれのシャトルを進むがどうみても人が住んでる気配はない。半ばまで進んだときある物を見つけた。
「あ、これ通信機じゃないか?」
「ふむ、そのようですな」
「ネームタグもありますね、ロビン・デフォー」
デフォーはロビンのファミリーネームだ。ロビンの文化には苗字の概念があるらしく、三日前に教えてもらったばかりなので覚えている。
やはりここがロビンのシャトルで間違いない。
「通信機は動きそうか?」
「いえ、中の部品が劣化して崩れています。治すにはガリヴァーに持ち帰らないと」
ロビンはこの通信機でさっきまで会話をしていたはずだ、それなのにこの劣化具合。
更に奥へ進むと寝室のドアがあった。もしかしたらここにと思いドアを開けて中へ。
「あっ……ロビン……なのか?」
「うっ」
「なんと」
いた、おそらく、目的の人物が。やや手狭な寝室のベッドに彼がいた。仰向けになり眠るように、いや実際に彼は眠っているのだ。目覚める事の無い永遠の眠りを。
ベッドで横になっている彼は白骨化していたのだ。ヒューマノイド型の骸骨は胸の前で祈るように腕を組み、穏やかに眠っていた。
「俺たち、間に合わなかったのか」
「それでもボク達が彼と最後に会話したのは数時間前です、例えあの後すぐに死んでいたのだとしても、こんなに早く白骨化するなんて有り得ないです」
驚愕するしかない三人だったが、そこへ副長から通信が入ってくる。
「艦長、やはり彼がロビンで間違いないかと」
「どうしてだ?」
「この星の周りはエーテルが不安定で時空が歪んでおります。その歪みを通って通信波が届いたのだとしたものと」
「つまり、俺達は過去の人間とやり取りをしていたって事か?」
「はい、そして通信ができなくなったのは今まで存在していた歪みが消えたからかと」
エーテルが引き起こした気まぐれな奇跡が、この三日間を産んでいたという事になる。ならば彼は明日に助けられるという言葉を信じたのに、実際には数十年も経ってからという裏切りにも等しい行為を受けた事になってしまう。
「くそ、どうして気づかなかったんだ!」
「リオさん、多分ロビンさんの方は気づいてたんだと思います」
「ドクター?」
「これを」
それはロビンの枕元に置かれていた、保存が効くように瓶に入れられ大事に密封されている。入って居たのは小さな板、その板には一言文字が掘られていた。
写真を撮ってアチータにデータベースを調べてもらい、翻訳してもらう。
程なくして翻訳された文字は。
「未来を生きるガリヴァーの親友達へ、良い旅を」
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