第20話

「柚希、元気になりましたね」

「ごめんごめん、色々と昨日は引きずっちゃってさ……!」


 次の日、柚希の様子はいつも通り明るい雰囲気になっていた。


 本人は切り替えると言い切っていたが、ただでさえ繊細な問題である上、面倒な目に遭っている以上、簡単なことではないはず。

 完全に切り替えられているかは分からないが、それでも外から見ればいつも通りの明るさに感じるだけの様子になっていることが相当すごい。


(相変わらず強い女だな……)


 侑人はかなり些細なことも気にする性格である上に、小さな失敗も何年経っても忘れることが出来ずに、しばらく引きずってしまう。

 一度失敗したミスを二度と繰り返しにくいという利点もあるのだが、いつまでも切り替えられない性格に自分でイライラするので、幼馴染のこういった部分に尊敬してしまう。


 そう考えると、明るい性格や気持ちの切り替えのうまさなど、挙げれば挙げるほど侑人と柚希は対極の性格と言える。

 これほどかけ離れた性格でありながら、もう十年以上一緒に関わっても特に仲違いしていないのだから、人の相性はよく分からない。


「侑人、昨日はありがと! 何か一日経ったらスッキリしたわ!」


 柚希が侑人の席まで来て、そんなことを口にした。


「切り替えが早いのは、お前の良いところだからな。まぁ、客観的に見ても見てくれは悪く無いし、いい相手が居るさ」

「いやぁ、しばらくは男要らんわ……」

「す、すまん。配慮に欠ける発言だった」


 励ましのつもりで言ったが、柚希は渋い顔で首を振った。

 人との関わり方は柚希の方が圧倒的にうまいのに、何か偉そうな言葉になってしまったと瞬時に感じた侑人は、すぐさま詫びを入れた。


 ただでさえ、結愛とそれなりにうまくいっている状況でこんな言葉を掛けられたら、紹介した身だとしても、嫌味を言われているように感じる可能性がある。


 これまで恋愛なんてどうでもいいと思っていたやつが、安易な励ましや言葉がけをするのはご法度ということが、また何年も引きずることになるであろう失敗経験として、また一つ刻み込まれた。


「そ、そんなにマジで謝らないでよ。ったく、本当に真面目過ぎるんだから……」


 柚希の方としては何も気にしていなかったようで、侑人が謝ってきたことにびっくりした後、やや呆れた顔をしている。

 だが、そんな表情もすぐに笑顔になって、柚希は何も言わずに侑人の方をじっと見ている。


「ど、どうした?」

「いや? 何でもないけど」

「何でもないのに、そんなじっと見られると不安なんだが……」

「別に何もしないよ。侑人は結愛を大事にすることだけ考えてりゃあいいの!」


 侑人の肩をポンと叩きながら、そんなことを言い残して、柚希は自分の席に戻って行った。



 放課後。結愛と集まった時も、話は柚希の話題となった。


「柚希から色々と話を聞くことが出来ました。付き合っていた方と大変なことがあったようですね……」

「すみません。真島さんには『明日聞く方が良いのでは?』と言っておきながら、あの後、ちょっと聞いてみたんです」

「その辺りも色々と話してくれました。私たちの事、気遣ってくれていたみたいですね。『結愛に心配かけてるぞ』って言われちゃって、何も言えなかったって言ってました。こちらこそ、色々とすみません」

「まぁ、柚希が前向きになれてるみたいので、結果的にOKですよね」

「そうですね!」


 柚希の話がある程度解決したのだが、この話を侑人としてはずっと気になっていることがあった。


「真島さんは、柚希が付き合っていた人の事って知ってたりしますか?」


 柚希が付き合いだした時から、気にならないわけではなかったが、わざわざ自ら探るほどではなかった。

 だが、この一件でどんなやつだったのか更に気になってきている。


「見たことはありますけど、話したことはないですね。かなり真面目そうな印象で、外から見る限りはそんな悪い印象はなかったのですが……」

「真面目なタイプ……だったんですか?」


 色々と予想外な答えだった。

 柚希の性格からすれば、真面目な相手などつまらないと思いそうだと勝手に思っていたし、別れ際の揉め事から考えてチャラ目のやつだと勝手に思い込んでいた。


 しかも、やり取りは無かったとはいえ、真島さんの目から見て真面目そうで悪い印象を持っていなかったとのこと。


「勉強もそれなりに出来るとの話を聞いたこともありますし、見た目とかもきっちりされている方でしたからね。……内面は分からないものですね」


 結愛の「内面は分からないもの」と言う言葉が、侑人としては結愛が指している「男の内面」という意味と、「柚希の付き合った相手がきっちりとしたタイプで、予想外だった」という二重の意味で心に響いていた。


「確かに、分からないものですね……」

「柚希としては、仲良くなってそんなに時間が経たずして付き合ったことを後悔してるみたいですね。『もうちょっと様子を見るべきだった』って言ってましたね」

「そ、その辺りは柚希らしいちゃらしいのか……」


 幼馴染とはいえ、色々と聞くのはどうかと思って避けていた柚希の恋愛事情だが、侑人の知らないことが数多くあるようだ。


























  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る