バニシングツイン~二葉は私の中で生きている~

なのの

誰にも言えない恋

 生まれる前、私は、私達は、双子だった──


 バニシングツインという症状で、いつの間にか片方が消えて生きてる方に吸収される。


 発生確率は双子妊娠中の10%以上で特に一卵性双生児に多いらしい。


 私には分かる。


 そのもう一人が私の中で生きていると言う事を──



 *



『双子の妹が居れば、どんな感じだったかな』


 私は鏡を見る度に、そう考えざるを得ない。

 一緒にお風呂に入り、お互いに髪を梳かしあい、一緒に恋をする。

 きっと好きな人も同じ人で、奪い合って、お互い振られる。

 そして、改めてお互いが大事だと気づかされんだ。


「そうだよね、二葉ふたば


 私の名前は一葉かずは

 たぶん、双子だったからそう名付けられたと思う。

 だから、きっと妹は二葉ふたばだ。


 実は、時々夢に見る事がある。

 私に瓜二つの人物が現れ、私に警告する。


「────に、行ってはダメ」


 どこに? と、聞き返しても再び同じ事を繰り返す。

 それでも場所の所だけ、私の耳には届かなかった。


 それが2度や3度でもなく、頻繁に起こるようになったから友達の笹美ささみに相談してみた。


「夢の話なんだけどね、自分そっくりな人が現れて、どこかに行くなって言うの、それも頻繁に」

「どこってどこよ?」

「それが分からない、そこだけ聞こえないんだよね」


 そう言うと横から隆兵りゅうへいが会話に割り込んでくる。


「それってあれじゃねぇ?厚鳥湖のドッペルゲンガー!」

「ドッペルゲンガー?」

「そうだよ、自分そっくりなヤツが現れて背中をポンッと叩かれたら存在が入れ替わっちまうんだ!」

「中学生にもなって、まだそんな事信じてるの?馬鹿じゃない?」

「うっせーな、バーカ。馬鹿っていう方が馬鹿なんだよ!」


 厚鳥湖という名前に聞き覚えがあった私は、記憶を掘り出すのに随分と時間がかかった。

 その間に笹美ささみ隆兵りゅうへいの喧嘩はエスカレートして行くというのに、私はそれを無視して考え込んでいた。

 私と同じ様に考えていた正臣まさおみがその答えを思い出した。


「あ、そこって、今度林間学校で行くところだよね?」



 *



「ねぇ、厚鳥湖の事なの?教えて?」


 私は鏡に向かって話しかけていた。

 当然ながら、その答えは返ってこなかった。


 C棟は移動教室がない時は本当に誰もいないから丁度良かった。

 流石にこんな事をしてるのを誰にも言えない。

 諦めて、トイレから出ようと出口を見た瞬間、鏡は私に

 一瞬の出来事で見間違いかと思って鏡を見返すと普通に映っている。

 それから時間さえあればそのトイレの鏡に語り掛けたけど、一向に鏡は私を映し出すだけだった。


 諦めたのは林間学校に行く前日。


「もう、これで最後だからね」


 そう言うと、鏡の中の私は少し悲しそうにする。


二葉ふたば二葉ふたばなの!?」


 そう言っても反応は無かった。

 きっと気のせいだった。そう思う事にした。



 *



 林間学校当日となり、バスで移動して厚鳥湖の畔にある宿泊施設に荷物を置いた。

 それから入村式や昼食を経てオリエンテーリングが始まる。

 それは地図に示された場所に行くという宝さがしだった。

 厚鳥湖一周は、1時間もあれば周れる程で、そのどこかにお宝を隠したらしい。

 先生が眼帯を付けて、生徒に言い放つ。


「俺の財宝か?欲しけりゃくれてやる、探せ!この世の全てをそこにおいてきた!4人一組になって捜索に行くんだ!」


 生徒はワァっと沸き上がりながら散開する。

 実はこの世の全てとか言いながら、お宝はお菓子らしい。

 班ごとに渡された地図を持って私達は1つ目のチェックポイントを目指した。

 私達の班は笹美ささみ隆兵りゅうへい正臣まさおみ優斗ゆうとの5人。


 私達の班は順調だった、1つ目のチェックポイントをあっさり見つけ、2つ目のチェックポイントももうすぐだと言う所で、背中をぽんっと叩かれた。


「はーい、これで一葉かずははドッペルゲンガーと入れ替わり~~」

「んもぅ、何ふざけてるの、男子ー」

「あはは、牛になった、一葉かずはが牛になったぞ~、んも~」


 馬鹿な隆兵りゅうへいは置いておいて、私は先に進む事にした。


「もう知らない!」

「そうだよね、あんな子はよね」


 はっとして、優斗ゆうとを見るとだった。


『あれ?普通って何だろう?』


 漠然とした異様な雰囲気に私は少し恐怖していたのかもしれない。

 そんな馬鹿げた妄想を他所に、2つ目のチェックポイントに到着する。

 そこには先生が待機していた。


「ひーふーみーよー…うん、全員揃ってるな、じゃあ次はお宝の場所だぞ、張り切って行けー!」

「「おー!!」」


 チェックポイントで貰った二つの情報と地図から考えらえる場所がお宝の場所だった。

 正臣まさおみがいち早く「ここじゃないかな」なんてあっさり答えを出してしまう。


「さすが、正臣まさおみ君だね」


 私もそれには同意見だった。

 正臣まさおみは賢い。私達の中で一番、もしかするとクラスで一番かもしれない。

 成績云々じゃなくて推理力とかそういう事にずば抜けていたと思う。


「じゃあ、後は辿り着くだけね!行くわよ!」

笹美ささみ、そっちは反対方向だって」

「あはははは」


 そんな話をしながら森の中を歩いていると、不意に何か不安になった。

 人数を確認する。

 1,2,3,4。

 誰かが居ない。


「ねぇ、私達5人組だったよね?」

「ちがうよ?最初から4人だったよ、そうだよね?笹美ささみちゃん」

「うん、そうだよ。先生が4人一組っていってたじゃない?」

正臣まさおみも何か変に思わない?」

「思わないけど、どうしたの?」

優斗ゆうとも思わないの?誰か居なくなったって」

「誰だろう?ちょっと分からないけど」


 何だろう、この漠然とした不安。

 みんなの言う通り気のせいかもしれない。

 私だけ5人目を知ってるなんてのもおかしい。


 私達はその後、無事にお菓子をもらって、宿泊施設に戻る。

 私は気分が悪いと言って、トイレに行くと笹美ささみが付いて来た。


「さっき言ってた5人目って名前分かる?」

「あはは、あれはきっと気のせいだよ~」

「そう?私、なんだか変な感じがするの、私達仲良しの4人でしょ?ちゃん付も君付けもなしにしようって言うくらい」

「うん、そうだよ」

「ねえ、手鏡持ってきてる?」

「部屋に戻ればあるけど、何に使うの?」

「ドッペルゲンガーがもしいるなら、手鏡は弱点なのよ」



 *



 夕食はカレーだった。

 料理は殆ど女子がしてたけど、正臣まさおみも手伝っていた。

 後の一人は何処に行ったんだ!って怒った笹美ささみ優斗ゆうとを探しに行く。

 相変わらず、仲がよくて仲が悪いなぁって思いながらそれを見送った。

 二人は喧嘩するほど仲がいいというアレなんです。


笹美ささみ行っちゃったね」

「人手足りなくて辛いよねぇ、せめて隆兵りゅうへいがいてくれたら──」

隆兵りゅうへいって誰?」

「え………誰………だっけ……あはは、忘れて!」


 料理は母の手伝いで慣れているから、ぱぱっと手早くやってしまった。

 さてさて、笹美ささみは何処にいるのかなぁ、って探してると背後から気配がした。

 バッと振り向くとそこには笹美ささみが立っていた。


「もう~、驚かさないでよ、あれ?鏡は?」

「うん、カレー食べよ……」

「あ、うん……ねえ、鏡は?」

「うん、カレー食べよ……」


 私は後退りした。

 これは笹美ささみじゃないと直感が言ってる!


「あなた誰よ!」


 その時、ぽんっと背中を叩かれた。



 *



 気が付けば、キャンプファイアーの時間になっていた。

 カレーを食べ損ねたとおもっていたら、前方から走って来る生徒がいた。

 あわやぶつかると思うタイミングでするりとすり抜ける。

 あれ??

 状況が分からず、他の生徒の腕を掴もうとしてもすり抜けた。


 そして、大勢の生徒がキャンプファイアーを見つめている所で、私はキャンプファイアーに触ろうとした。

 そして、それもすり抜けた。

 キャンプファイアーの中に入っても大丈夫で、中で両手を挙げて上を見上げ「火あぶり体験!」なんて言ってみる。

 少し空しく思ってると、クスクスと笑う声がした。


「あんた本当に、能天気ね」

「ちがうよ、折角だからやってみただけだよ!」


 そこには本物の笹美ささみがいた。


「って、笹美ささみ!どこに行ってたの!?」

「どこってずっとここにいたわよ、カレー作り始めた頃から記憶がなくって」


 訳が分からないけど、無い頭で考える。その時、あの話を思い出た。


『背中をポンっと叩かれたら存在が入れ替わる』


 そうだよ、入れ替わったのなら私が居るハズだ。


「私の体見てない?」

「んと、調理場の方に居たと思う」

「みてくる!」


 *


「ね、居たでしょ」

「ちょっと、なにやってるのあれ」

「何って、キキキ、キスしてるよ!正臣まさおみ!それ、私じゃないよ!」

「あらあら、両手で恋人繋ぎって積極的ね、貴女のドッペルゲンガー」

「ドッペルゲンガーって、そうだ、鏡はどうしたの!?」

「さっき、私のドッペルゲンガーが調理場に持って来たみたい。どうも私のって馬鹿みたいなのよね」


 調理場を探すと確かにそこにあた。


笹美ささみ!ここにあったよ!」

「あっても、どうしようもないでしょ」

「そんなぁ~~~」


 諦めきれない私は、鏡を手に取ろうとするとスルっとすり抜ける。

 結局なにもできないのかーって言いながら鏡を叩こうとした、その時、私の手がすぽっと鏡の中に入り込んだ。


「へ?ナニコレ?」


 咄嗟に取り出すと、手が黒ずんでしまっていた。


笹美ささみいいい、なんか変になっちゃったー!」

「なによそれ、ちょっと!鏡を見て!」


 小さな手鏡の中から、もう一人の私が出てこようとしていた。

 それは明らかに、私だった。


「もしかして二葉ふたば?」

「うん、お姉ちゃん」


 きゅーん!

 お姉ちゃんって響き、最高!!


二葉ふたば、やっぱり居たんだね」

「うん、ずっと出てこれなかったけど、やっと会えたね」

「えーとさ、それ誰よ」

「さっきから、二葉ふたばって言ってるじゃない」

「すごいね、ドッペルゲンガーとお友達?」

「お姉ちゃん、そんな事言ってる場合じゃないよ」


 私の本体は正臣まさおみと抱きしめ合っていた。

 それだけじゃない、正臣まさおみの背後には優斗ゆうとの姿が。


「お姉ちゃん、行って来て!」


 そう言って二葉ふたばは私の背中を力いっぱい押した。

 その勢いで私は優斗ゆうとに向かって突進する。


 通り抜けると思っていると、私の黒い手が優斗ゆうとを押し退けた。

 すると突然に優斗ゆうとが苦しみだし、徐々に崩壊して行く。

 次第に骨だけになったと思えば、最後には風に吹かれて骨も粉みじんとなり、消えて行く。


 そのからの記憶は曖昧だった。

 急激に体に戻され、気を失っていたらしい。


 それから、隆兵りゅうへいは何処からともなく帰って来た。

 話を聞くとオリエンテーリングの最中にトイレに行って迷子になったとか。

 笹美ささみはあほの子じゃなくなったし、無事元通りかと思われた。


 22時の消灯時間を過ぎ、私はトイレに行った。

 真夜中のトイレだというのに、私は興奮している。

 もう一度、二葉ふたばに遭えるかもしれない。

 でも、鏡の前で百面相しても、その想いは届かなかった。


 諦めてトイレを出ると、そこには正臣まさおみが居た。

 正臣まさおみは私と付き合ってると思ってるらしく、まんざらでもない私はその関係を受け入れた。


 でも、鏡を見る度に思ってしまう。


 私の最愛の人の事を。


 了

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

バニシングツイン~二葉は私の中で生きている~ なのの @nanananonanono

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説