チエコ先生とキクちゃんの水平思考クイズ【48】過去編の上映【なずみのホラー便 第137弾】

なずみ智子

過去編の上映

【問題】


 塔子(とうこ)さんの夢に、見知らぬ五人の成人男女が現れました。

 その五人の男女は、瞳や髪、肌の色は様々なうえ、服装にも全く統一感はないうえ、古めかしさすらも感じさせました。

 五人は自分たちの所属を名乗り、塔子さんを小さな映画館へと案内します。

 一刻も早くふざけた夢から覚めることを願い……いいえ、この手の中にナイフが現れたなら、こいつらも刺し殺してやりたい塔子さんでしたが、夢の主導権はこの五人に握られてしまっているのか、そのまま座席に座らされました。

 やがて始まったのは、悪夢など通り越した”過去編の上映”です。

 さて、塔子さんが強制的に見せられた”過去編”とはいったい誰の過去編であったでしょう?



【質問と解答】


キクちゃん : 塔子さんは自分の恥ずかしい過去という名の悪夢を、すなわち黒歴史を巻き戻されて見せられたのかと思いました。でも、塔子さん自身の過去編なら問題文で「誰の過去編であったでしょう?」という問い方はしませんよね。この強制上映された過去編とは、塔子さんが知っている人物の過去編でしたか?


チエコ先生 : YES。


キクちゃん : その人物とは塔子さんの家族ですか?


チエコ先生 : NO。


キクちゃん : 友人もしくは知人の関係にある人ですか?


チエコ先生 : NO。


キクちゃん : うーん……塔子さんはその人物のことを知っているけれども、家族でも友人や知人でも恋人でもないと……そもそも、その過去編に塔子さん自身は登場していましたか?


チエコ先生 : NO。登場していないわ。彼女の姿は一瞬たりとて、スクリーンに映し出されてはいない。


キクちゃん : となると、塔子さんはつい最近、その人物のことを知ったということですよね? ……チエコ先生、違う角度より改めて質問をしてみます。そもそも、塔子さんは夢に出てきた五人に対し「刺し殺してやりたい」と激しい殺意まで抱いていますよね。初対面の相手、そもそも実在するか定かでない相手を夢の中でここまで明確に憎めるものなのかと。ずばり……この五人は実在人物ですか?


チエコ先生 : YES。正確に言うなら、実在していた五人ね。


キクちゃん : 実在していた? だから「服装にも全く統一感はないうえ、どこか古めかしさすらも感じさせました」とあるんですね。この五人は幽霊ですか?


チエコ先生 : キクちゃんの言う幽霊が怨霊や悪霊を指しているなら、NOかしらね。それらとは違う役割を果たす存在だとするとYESよ。


キクちゃん : 違う役割? ということは、人を守ったり導いたりする霊だということですね……。問題文中に「五人は自分たちの所属を名乗り」とありますし、もしかして、この五人は”誰か”の守護霊ですか?


チエコ先生 : YES。守護霊だけど、主護霊・指導霊・補助霊・支配霊にざっくりと分類されるわね。中にはご先祖様が守護霊といったケースもあるだけど、甘くなってしまわないように何の接点もなかった人たち……というか霊たちがチームを組んでいるケースが多いみたいね。それに守護霊の数は人によって異なっているわ。”誰か”についている、この五人は五人だけのチームなのか、それとも他に大勢いる中の代表として五人だけが出てきたのかまでは不明だけど。


キクちゃん : その”誰か”と塔子さんの関係を解明するのがこの問題を解く鍵になりますね。塔子さんは、五人の守護霊たちすら刺し殺してやりたくなるほど、その”誰か”を激しく憎んでいますし……塔子さんはつい最近、その”誰か”に酷い目に遭わされましたか?


チエコ先生 : YES。でも、その「酷い目に遭わされましたか?」という質問が、塔子さんの自身の身に”直接”かかっているとするならNOね。もう一度、質問を練り直してみて。


キクちゃん : 塔子さんは自身の身には直接的な危害は加えられていないないと。しかし、問題文中には「一刻も早くふざけた夢から覚めることを願い……いいえ、この手の中にナイフが現れたなら、こいつらも刺し殺してやりたい」とあって……ん? 「こいつらも」? もしかして、”こいつらも同じ目に遭わせてやりたい”ということですか?


チエコ先生 : YES。


キクちゃん : 塔子さんの自分の身近にいた大切な人を、ナイフで刺し殺されたのですか?


チエコ先生 : YES。


キクちゃん : その犯人こそが、五人の守護霊がついている”誰か”ですか?


チエコ先生 : YES。


キクちゃん : 塔子さんは、自分の大切な人を殺した犯人の過去編を見せられたのですね?


チエコ先生 : YES。塔子さんは、母親と妹を刺殺されたのよ。彼女たち二人はただ道を歩いていた。その姿がたまたま、ナイフを所持し「誰でもいいから殺してやろう」と、自分より明らかに弱そうな者を……すなわち女子供を探していた犯人の目にたまたま留まってしまった……それだけのことで命を奪われてしまった。ちなみに、塔子さんが強制的に見せられた犯人の過去編だけど「劣悪な家庭環境で愛情も与えられずに育ち、学校では同級生だけでなく教師からの壮絶な虐めにも遭い、働く年になってからも相手は違えども同じことが繰り返しされて、完全な人間不信になり、事件当日も自暴自棄で……」といった内容だったわ。


キクちゃん : いくら壮絶な内容の過去編とはいえ、大切な家族を突然に奪われてしまった塔子さんからすれば、「だから何だと言うの?」としか思えなかったでしょうね。


チエコ先生 : そうよ。塔子さんもキクちゃんと同じことを思ったわ。「だから何だと言うの? 壮絶な過去があったから、何をしてもいいって言うの? 壮絶な過去があったから、何の関係もない私のお母さんと妹は殺されても仕方がなかったと言いたいの?! それとも、同情して赦せって言いたいの!?!」とね。五人の守護霊たちが被害者遺族である塔子さんに夢を通じてコンタクトを取り、過去編を見せてきたのは、同情による憎しみの軽減を狙ったのか、それとも自分たちの力が及ばなかったことの弁明であるのか、どちらかは分からないけどね。


キクちゃん : 完全に逆効果といいますか……何を見せられようが、これから先も塔子さんの憎しみは絶対に消えることはないと思います。塔子さんの悲しみも苦しみも一生癒えることはないとも。むしろ時間が経つにつれ、それらはより一層深くなっていくかと……。



(完)

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