第47話 【ブラジルで人気No.1】サシ(O Saci)

 サシは、もともとインディオのトゥピ・グアラニ族に伝わる妖怪であったが、1921年にブラジルの有名な民間伝承を集めて、子供向けの創作物語を書いたモンテイロ・ロバト (Monteiro Lobato) の著書『 O SACI 』で紹介されたことにより、ブラジル全土に知られるようになった。ロバトの創作物語は小学校の教科書にもるほどで、ブラジルで最も有名な妖怪といえば、サシである。


 ロバトの創作の元になったサシの民話は、ミナス・ジェライス州やサンパウロ州でよく聞くことができる。また隣国のアルゼンチン、ウルグアイ、パラグアイでも聞くことができるので、広く南米に知れ渡った妖怪ということになる。


 サシは黒人の少年の姿をしているのだが、足は1本しかなく、パイプを吸っており、サンタクロースのような三角形の赤い帽子をかぶっていると伝えられている。この赤い帽子はサシの弱点で、これを奪われたサシは、奪った者の言うことを聞くようになるそうだ。帽子がサシをあやつるリモコンのようになるというところが面白い。サンタクロースのような帽子と黒い肌から、オランダの「黒いピート (Zwarte Piet) 」に似ているという者もいる。


 さて、サシは3種類おり、一番有名なのは、サシ・ペレレ (Saci Perere) である。そのほか、サシ・トリケ (Saci Trique) とサシ・サクラ (Saci Sacura) という仲間がいる。サシ・トリケの肌は褐色かっしょくであるという。そしてサシ・サクラは足が2本で、赤い目で、肌がサシ・ペレレのように黒くはないが、サシ・トリケほど薄くないらしい。


 サシは、いたずら好きで魔法を使う。たとえば、竜巻に変身して森に入った人を驚かせる。また、サシが森のなかで口笛を吹くと、それを聞いた人は方向感覚がなくなり、道に迷ってしまうそうだ。森で人を迷わせるという特性から、カイポーラやクルピラと混同する地域もある。特にブラジルの北部で混同されることが多いようだ。


 ミナス・ジェライス州のウベラーバ (Uberaba) 、セアラ州のフォルタレーザ (Fortaleza) 、エスピレントサント (Espírito Santo) 州のヴィトーリア (Vitória) 。そして、サンパウロ州のグアラチンゲタ (Guaratinguetá) 、エンブー (Embu) 、サン・ジョゼ・ド・リオプレト (São José do Rio Preto) とサン・ルイス・パライチンガ (Sao Luiz Paraitinga) では、10月31日をサシの日と制定して祝っているという。


 最も盛んに祭りをするところは、サンパウロ州サンパウロ市から200キロほど離れたサン・ルイス・パライチンガにあるタウバテ (Taubaté) という町である。この町は、サシの童話を書いた作家ロバト(1882-1948)の生まれ故郷である。この町の人々はサシの日になると町外れまで行き、片足だけで飛びはねながら町中を1週して帰ってくるそうだ。そのころ、町の中心部では様々なもよおし物があり、色々なおもちゃの露店ろてん、人形劇、サシのお話大会、ゲーム、音楽のショーなどで祭りは盛り上がる。夜ともなれば、町のレストランで郷土きょうど料理が振舞ふるまわれ、カボチャ料理や乾燥肉かんそうにく、トウモロコシのお菓子などを皆で食べるのだという。


 サシの日の10月31日はハロウィンであり、ブラジルでは別名「 Dia das Bruxas 」、すなわち「魔女の日」ともいわれているが、地元の妖怪を大事にしようという思いから、この町では、この日を「サシの日」としたそうだ。このような活動が行われていることはとても楽しい気分にさせられる。

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