第40話 【精霊になった少年】ネグリンノ・ド・パストレイオ(O Negrinho do Pastoreio)

 ネグリンノ・ド・パストレイオとは、直訳すると「牧場の黒人少年」という意味になる。彼は、奴隷どれいとして牧場ぼくじょうで働く14歳の黒人少年で、ブラジル南部のリオ・グランデ・ド・スル州や、国境を越えたアルゼンチン (Argentina) で聞かれる話の主人公である。その物語は、次のような話である。



 ある日、牧場主は隣人と競馬をすることとなり、そのレースの騎手に黒人少年を指名した。しかしながら少年は、周囲の応援もむなしく負けた。そして、牧場主は罰として少年をむち打ちにした。

 また、ある夜に牧場の馬が逃げたときには、牧場主の息子がすべてを黒人少年のせいにして、血が出るほどむちめた。それでも手負ておいの少年は、馬をさがし続けた。そんな彼を哀れに思った牧場主の夫人の援助えんじょのおかげで馬は見つかった。ところが、馬を見つけた少年の手柄てがらを面白く思わなかった意地悪な牧場主の息子は、再び馬を逃がし、もう一度黒人少年のせいにして彼を非難した。その上、牧場主の息子は、ほかの奴隷に対し、皆で少年を責めるように命令した。少年の仲間の奴隷どれいたちはこばんでいたものの、結局は命令に逆らうことができずに少年を暴行して、最後は蟻塚ありづかのなかに少年を放り込んだ。


 誰もが少年が死んでしまったものと考え、なげき悲しんだ。すると不思議なことに、蟻塚ありづかで死んだはずの少年が、かつて競馬で乗った馬にまたがり、みなの前に現れた。そして、牧場のすべての馬を連れ、何処かへ去っていった。こうして、牧場主は、すべての馬を失ってしまったという。



 この不思議な事件以降、奴隷どれいたちは物をなくしたときに少年にいのるようになった。すると必ず探し物が見つかったということだ。きっと、死んだ少年の魂が精霊となって、自由を奪われた奴隷どれいの守護者になったということであろう。

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