第30話 【蓮になった少女】ヴィトーリア・ヘジアの伝説(A Lenda da Vitória-régia)

 ヴィトーリア・ヘジアの伝説は、南米インディオのトゥピ族に伝わる不思議な物語である。



 昔、あるインディオの村にはナイア (Naiá) という少女が住んでいた。その少女は、月が好きで、いつも眺めていた。その月には言い伝えがあって、月の名はイアシ (Iaci) といい、女の子を星に変える不思議な力をもった精霊せいれいだという。


 少女ナイアは、毎夜、月をながめては、いつか自分も星にされて夜空に連れて行かれることを夢想むそうしていた。しかし、いつまで待ってもナイアが夜空に連れて行かれることはなく、幾年いくねんも過ぎていった。そんなあるとき、余りにも長い間待ち続けたからであろうか、彼女は湖に照らされた月の姿を見て、「とうとう月が自分を連れに、地上に降りてきた」と思い込んでしまった。そして、湖面こめんに輝く月に近づこうとして湖に飛び込み、溺死できしした。


 この哀れな話を聞いた月は、少女が自分を愛してくれたことに心を動かされた。そして彼女の魂をオオオニバス(はすの花)に変えた。



 オオオニバスが、夜に美しい白い花を咲かせるのは、月を思う彼女の魂がそうさせるからだといわれるようになったのは、このような伝説からである。

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