第7話 【不気味な魔女】ブルーシャ(A Bruxa)

 ブルーシャとは魔女の婆さんのことである。彼女はブラジル全土に現れるという。

 ブラジルの魔女は、我々が「魔女の婆さん」と聞いて連想する姿そのものである。すなわち腰が曲がり、あごがしゃくれていて、鷲鼻わしばなであり、ホウキにまたがって空を飛ぶ。もちろん魔術も心得こころえていて、黒いやフクロウに変身し、どんなに狭い隙間からも人々の家に侵入できるという。その性格は残忍ざんにんで、「イヒヒヒ……」といやらしい声で冷笑れいしょうし、子ども、特に男の子の生き血を求めてさまようといわれている。

 ブルーシャは、ブラジルの魔女らしく、ブラジル特産のカサーシャというサトウキビで作った酒を好んで飲むという。また、ブラジルでは、魔女は左利きであるとされているので、もし左手にカサーシャのグラスを手にした老婆を見かけたら、それはブルーシャかもしれない。しかし、そのような光景に出くわしても、決して「あ、ブルーシャだ」などと言って、老婆を指差さないほうがいいと思う。老婆が本物の魔女であったなら、正体を見破ったあなたに襲い掛かってくるかも知れないし、普通の老婆であったなら、魔女のお婆さん呼ばわりされたことに腹を立てて、あなたを𠮟りつけてくるだろうから。

 さて、このブルーシャの誕生には秘密がある。7人姉妹の末娘で、生まれてから7日目までに長女によって洗礼せんれいほどこされない子が、ブルーシャになるそうだ。ブルーシャになった少女は、常に老婆の姿をしているわけではない。普段は普通の女の子の姿をしているが、金曜日の夜になると恐ろしい老婆へと変身するという。ブルーシャの姿でいる時間は、金曜日の夜から翌日の朝までである。その時間を過ぎれば、元の女の子に戻るという。

 この魔女は、ブラジル国内では広く知られている。したがって、夜更かしをする子どもを持つ親は「早く寝ないと魔女がくるぞ」と子どもを脅かせ、寝かしつけることもあるという。親からすると役に立つ存在である。

 ブラジルでは、10月31日のハロウィンのことを「 Dia das Bruxas (魔女の日)」ともいう。その日の過ごし方は日本と似ていて、一部の子どもや若者がパーティ目的で魔女やお化けの仮装をして騒ぐ。つまりは宗教行事ではなく、商業イベントということである。

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