第24話

Chap.24


 すぐにゴールデンウィークが始まり、俊と春花はあちこちに一緒に出かけた…というのはもちろん親達がそう思っているということだが、この前の土曜日のハイキングに始まったこの「デート」の嵐を大人達は何やら感動して眺めているようで、怪しまれたり止められたりはしなかった。

 登下校も一緒で、休み時間もしょっちゅう一緒にいるようになった二人のことを、学校でもみんなが当然「付き合ってる」と認識し始めていたけれど、改めて「付き合ってるの?」と訊かれたらなんて言えばいいんだろうという疑問は、常に春花の頭の片隅にあった。「うーん、まあね」?「そういうんじゃないよ」?それとも「さあ、私にもよくわかんない」?

 俊に訊いてみようかと思っても、そう思った次の瞬間に「やっぱりやめとこう」といつも蓋をしてしまうのは、照れくさいからだと思っていたけれど、本当はこの温かくて柔らかい、出来立てのカスタードプディングのような関係が壊れてしまうのが少し怖かったからかもしれない。

 『お隣』で俊は絵本作りのためのスケッチに熱中し、みんな——春花も含めて——俊の上手さに目を見張った。

「すっごい…。なんでこんなに見たものをそのまま写しとれるの」

 ある晩、描くところをライブで見たいとユマにせがまれて俊がささっと描いた夕食後のテーブルのスケッチを眺め、春花は羨望のため息をついた。絵を描くのは好きだけれど、どうしてもこんなふうに見たものをそのまま忠実に写しとることができないのだ。

 俊がちょっと笑って肩をすくめた。

「逆に言えば俺は見たまましか描けない。ルカみたいに自分の目を通したオリジナルって感じの絵は描けないんだよ」

 自分の目を通したオリジナルって感じの絵だって…。春花は苦笑した。

「…それ、つまり下手って意味だよね」

「違う。そりゃ写実性を競って点をつけるなら俺が高得点でルカはそうでもないかもしれないけどさ、絵ってそういうもんじゃないだろ。俺は昔からルカの絵好きだよ。線が柔らかくて、かわいい感じで。」

「なんか、いい感じ」

 二人きりになった時、ユマがうふんと笑って頬杖をついた。

「俊と春花が話してる時、すごくいい感じがするんだけど」

「そ、そう?」

 ドギマギして意味もなく手近に置いてあった鉛筆を取ってひねくり回す。ユマがまたうふふんと笑う。

「メラニーっていう邪魔者もいなくなったし、恋人宣言も間近って感じ」

 メラニーには口論したあの木曜日以来一度も会っていない。エルザによるとランチタイムに二度来たそうだけれど、俊も春花も湖の家にはいなかった。ゴールデンウィークでこっちを訪れる時間帯が変わったのが幸いだった。

「それなんだけどね…」

 春花は自分も頬杖をついて口を開いた。気になっていたことだ。

「アリと話した時、俊ちゃんが、メラニーのことを恋愛的な意味では全然好きじゃないって言ったでしょ。あれ、本当だと思う?」

「嘘だと思うの?」

「だって…。どう見たってメラニーを好きみたいに見えたのに。一緒にいて楽しそうだったし嬉しそうだったし、それにメラニーのこと美人って言ってたし…」

 ユマが賢しげにちょっと小首を傾げてみせる。

「まあ、公平に言って、メラニーも見た目はそう悪くないからね。男子って、相手の女子がよっぽど嫌いじゃなければ、寄って来られるとデレデレして嬉しそうにするもんだよ。見た目が悪くなければなおさら。好きとかじゃなくったって。きっと俊もおんなじだよ」

「……」

 これが小学生の言うことか。

「…それも学校で観察しててわかったの?それとも本に書いてあったとか?」

 おずおずと質問すると、ユマはにこりとした。

「観察。それに私に寄ってくる女の子もいたりするから、男子の気持ちもわからなくもないんだ。やっぱりね、正直言って、あんまり好きじゃない子より、普段からいい子だなって思ってる子とかかわいい子とかが寄ってくる方が嬉しいもんだよね」

「ははあ…なるほど…」 

 春花は目を丸くしてただ頷いた。そうか、そういうものなのか…。

「それで、春花は?」

「え?」

「春花は俊が好き?」

 ざっくばらんなユマの話の影響か、春花は素直に頷いていた。

「うん、好きだと思う」

 言ってから自分でちょっと驚いた。より正確にユマに伝えたくて、考え考え言葉を続ける。

「ただ…私今まで恋愛なんてしたことないから、これが恋愛として好きってことなのかははっきりとはわからない。でも、例えば、ハルを好きっていう気持ちとは違うのはわかる。俊ちゃんに、この前、『俺はハルじゃないし、ハルの代わりになろうと思ってるわけじゃない』って言われたけど、ハルの代わりだなんて思ってない。なんていうか…ハルには感じなかったような気持ちが、こう、起こって…」

 俊と一緒にいる時にたまに感じる、引き寄せられるような気持ちをなんとか説明しようとしばらく奮闘したけれど、言葉が見つからず撃沈した。

「…うまく言えないけど」

 気持ちを表現するってほんとに難しい。

 そういえば…。ふと気づいて訊いてみる。

「ユマは誰か好きな人がいるの?」

「うん。ボート部の先輩」

 ユマはためらうことなくさらっと答えた。

「中等部のボート部の三年生なんだ。だから大会前の合同練習の時とかしか会えないんだけど、会えるとすっごく幸せ。私もあんなふうに漕げるようになりたい。最高に綺麗なんだよ。速いだけの人なら他にもいるけど、でもあんな綺麗に漕ぐ人は他にいない。漕いでる時の空気がね、他の人たちと全然違うんだ…」

 柔らかいランプの光の中、赤いゴムで縛った金髪のポニーテイルを肩の片側に垂らし、頬杖をついてうっとりと宙を見上げているユマを見て、春花は微笑した。ほんのり染まった頬。さくらんぼのような唇。今のこの瞬間を柔らかい色を使った水彩画に描いて、『恋をする少女』とタイトルをつけたいと思った。


 この数日の間に『失くしたものたちの世界』にも何度か足を伸ばしたし、フランツのお気に入りのパン屋さんにも連れて行ってもらって、例のバーベキューの時のパンとチーズの他にも、色々なパンやチーズを味見させてもらった。

 そのお店ではハチミツも売っていて、それを味見させてもらった春花は、これこそが世界一、いや、宇宙一のハチミツに違いないと本気で思った。パン屋さんの田舎の親戚の広い広いオレンジの果樹園で採れるハチミツだという。今までもハチミツは普通に好きだったけれど、これは…!クマのプーの気持ちがよくわかるようになった。これだったらいつも壺をキープしておいて毎日食べたい。そう正直に言ったら、その日以来俊に時々プーと呼ばれるようになった。

 カッサにも金曜日にもう一度行った。もちろんきちんとブレスレットをつけて『扉』を通った。

 今回はまず俊も一緒に植物園に行き、またシェルダンに案内してもらって温室を回った。その後シェルダンに連れられて魔法数学の研究者に話を聞いたり、魔法化学の研究所を訪ねて面白い実験を見せてもらったりした。実験に夢中になった俊は、いつものようにあれこれ質問してすっかり時間を忘れて、気づいた時には図書館で過ごす時間がなくなってしまっていたけれど、そう後悔してもいないようだった。

「また来週来られるかな。ちょっと早く、そうだな、水曜くらいとか」

 『扉』の建物の俊呼ぶところの『出発ロビー』で順番を待ちながら——この日は大学生のグループと時間がかち合ってしまった——俊が言ったので、春花は注意した。

「来週はもうゴールデンウィークじゃないもの。来るとしたらまたこの前みたいに週末じゃなきゃだめだよ」

「ああ、そっか…」 

 俊が苦笑して額をこすった。

「毎日花祭りの休暇の話聞いてるから、つい…」

「わかる」

 春花も笑って頷いた。

 明日から九日間、『お隣』では花祭りの休暇だ。このところユマが毎日のようにその話をしているので、なんだか自分達も学校がないような気がしてきてしまう。

「今夜、楽しみだね」

 今夜は花祭りのイブであちこちで花火が上がったりするそうだ。それを湖のボートの上から見ようという計画を立てている。そしてその後はユマ曰く「徹夜で遊ぶ!」ということになっている。

「リオも来られるんでしょ?」

 俊がリオを見ると、リオがにこりと頷いた。

「寄らせてもらうよ。アリも帰ってくるんだろう?」

「うん。リオにもっと色々メッセンジャーの試験について訊きたいって言ってるらしいよ」

「知ってる。この前連絡をくれてね。試験を受けてみたいと思ってるみたいだよ」

「えっ。じゃあ、お医者さんになるのはやめちゃうのかな」

 春花は少し残念に思った。とびきり素晴らしいお医者さんになれそうなのに。

「いや、そんなことはないんじゃないかな。医者には後でもなれるわけだしね。メッセンジャーという仕事を何年か経験してみて、そのあと医者になったっていいわけだから」

 リオが微笑んだ。

「この間の話を聞けば、医者になる決心が固いことはわかるよ」

 春花も頷いた。


 バーベキューの時アリの話を聞いて決心したことを、春花はすぐに実行に移した。あの時の医師に手紙を書き、それを持って病院まで行ったのだ。自転車で一時間くらいかかった。途中で何度も引き返したくなったけれど、花達が頭上から、足元から、エールを送ってくれた。

 病院の大きな自動ドアが開く。あの日のことを思い出してしまいそうな頭に、何も考えるな、何も思い出すな、と必死に言い聞かせながら受付に行く。 病院の匂い。

 大丈夫。さっと手紙を渡して帰るだけだもの。大丈夫。

 動悸がして、なんだか半分意識がないような、嫌な夢の中にいる時のような感じがする。

「あの、すみません」

「はい?」

 受付の若い女の人が顔を上げた。医師の名前を書いた封筒を差し出す。

「これを竜ヶ崎先生に渡していただけませんか」

 女の人は、えっという顔をして隅に小さな花束の絵柄が入っている淡いピンク色の封筒を見、次いで春花の顔を見て、それからああなるほどねと言いたげな顔つきでにっこり笑った。

「はあい、わかりました。お渡ししときますねー」

 ウィンクでもしそうなおどけた口調で言われてなんだか心外な気がして、春花は思わず、

「あの、そういうんじゃありません」

「え?」

「あの、この前兄が交通事故に遭ってこの病院で亡くなったんです。その時私、竜ヶ崎先生にすごく失礼なことを言ってしまいました。それで、あの、謝りたくて」

 喉がつまってしまってそこで言葉を切った。視界が涙でぼやける。

「……」

 女の人は表情を改め、さっきとは打って変わった真面目な口調で、

「…わかりました。必ず先生にお渡しします」

 と言ってくれた。

「ありがとうございます」

 涙がこぼれないように頭を下げて、早足で一目散に出口に向かった。外に出て白とピンクのハナミズキが隣り合っている植え込みのところまで来て、大きく息をつく。心臓がどきどきして、気分が悪かった。自分で言った言葉が頭の中をぐるぐる回った。

 この病院で亡くなったんです。

 この病院で亡くなったんです。

 この病院で亡くなったんです。

 必死の抵抗も虚しく、記憶の底から映像が浮かび上がってくる。

 白い布が見える。

 いやだ。思い出したくない。思い出したくない。助けて。

 ぎゅっと目をつぶったその時、ざっと風が吹いて、何かが頭に軽く当たって足元に落ちた。びくっとして見ると、少し茶色くなりかけたピンク色のハナミズキだった。

 ついた吐息が大きく震えて、喉がごくりと動いた。

 ありがとう、と心の中で呟いて、ハナミズキをそっと拾い上げ、ゆっくりと自転車置き場に向かう。

 汗にうっすら濡れた額に風を感じながら歩いていくうちに、動悸と気分の悪さは少しずつ治まってきた。リュックとハナミズキを自転車のカゴに入れ、ロックを外し、ハンドルを握って大きく息をつく。息の端が少し震えたけれど、心の中はしゃんとしていた。

 大丈夫。

 もう一度息をついて、晴れた青空を見上げ、自転車を漕ぎ出す。

 来ることができてよかったと春花は心から思った。

 

 花祭りの前夜の湖には、花火の上がるかなり前から、いくつかボートが出ていた。あちこちの舳先に灯った温かい黄色のランタンの灯りと水面に映った揺れる光が幻想的だ。

 アリが自分はお酒を飲んでいるから遠慮しておくと言ったので、ユマと春花、リオと俊と分かれて——俊は漕げないし、ユマに訓練してもらっているとはいえ春花もまだまだビギナーなので——、四人は二艘のボートを湖の真ん中あたりまで漕ぎ出し、テーブルから失敬してきた葡萄やチョコレートをつまみながらあちらの空こちらの空と打ち上げられる花火を楽しんだ。

 こちらの花火は日本で見慣れたものとはずいぶん違っていた。

 まず、あの「ドーン!」という音がない。打ち上がる時の「ヒュー…」という音も聞こえない。

 すうーっと何かが空を上っていく気配のようなものがして、そして微かなポンッというような破裂音と共にパッと花火が開く。

 火花はずっとカラフルで色彩もくっきりしており、花火の形も実に様々だ。美しい青い羽を——その青も一色だけではなく実に様々な青だ——持つ蝶々の群れだったり、大輪の美しい赤薔薇だったり、七色の虹だったり、銀色の飛沫を上げる噴水だったり、金色に燃える太陽だったり。

 そしてそれらの火花がキラキラ、チリンチリンというような音をたてて煌めき、だんだんその音が小さくなっていってゆっくりと火花が消えていく。

 不思議な幻を見ているような思いで、春花は次々に打ち上げられる花火を見上げていた。

 ねえハル。

 なんだか幻を見てるみたいだね。儚いような、本当はそこにないような、でもあんなに綺麗なくっきりした色で、キラキラ輝いて、チリンチリンってウィンドチャイムみたいな音がしてる。綺麗だね…。

 一度、ふと隣のボートの上で花火を見上げている俊の横顔に目がいった。キラキラと輝く大きな大きな銀色の三日月から次々とこぼれ落ちてくるありとあらゆる色の星を見上げている横顔に、色の光がちらちらと揺れている。  ちょうど落ちてきた銀色の星が上を向いた俊の額に重なって見えて、春花は微笑んだ。

 プリンス・シュン。


 どれくらい時間が経ってか、もう花火が打ち上げられなくなった。

「終わったみたいだね。行こうか」

 ランタンを灯し、オールに手を伸ばしながらリオが言う。色とりどりの光の絵が消えたあとの空には、ゆっくりと流れる薄い雲に時折隠れながら、ちょっと太った半月がぽつんと浮かんでいた。

「お先にどうぞ」

「ありがとう」

 ユマがボートを漕ぎ出す。

「綺麗だったね…」

 まだ少しぼうっとしたまま春花が言うと、ユマがいたずらっぽく、

「やっぱり俊と春花を一緒のボートに乗せるべきだったかもなあ。ムード満点だったのに」

 と言ったので、春花は苦笑してみせた。

「そしたら花火どころじゃなかったよ、きっと。湖の真ん中に着く前にボート転覆してたかも」

「まあ、暗いからね。ボートに慣れてない同士じゃちょっと危ないよね。よし、今度俊のことも特訓しよう。ボートが漕げない男子なんてカッコ悪いよ」

 ユマにビシビシしごかれている俊を想像してくすくす笑ってしまった。

 ボートがゆるやかに船着場に近づいた時、春花は月明かりの中を向こうから歩いてくる人影に気がついた。すらりとした、ロングヘアの女の子。

「…メラニーが来てる」

「えっ」

「今船着場まで来た。腕組みしてこっち見てる」

 俊ももう気づいているはずだ。後ろのボートを振り返ってみたい衝動を堪える。胸がどきどきし出した。

 何しにきたんだろう。花祭りのお休みだから一緒に旅行に行こうとか…、デートしようとか…、一緒にバレエに行こうとか…。俊ちゃん、どうするだろう。私に何かできることあるかな。それともやっぱり何も口出ししないほうがいいんだろうか。そうだ、この前のこと、謝った方がいいのかな。言いすぎてごめんなさい、って?

 ユマがいつものようにスムーズにきっちりとボートを船着場の所定の位置に漕ぎ着けた。

「久しぶりね、春花」

 月明かりと船着場の足元にぽつぽつと灯る淡い黄色の明かりに照らされて、メラニーの赤い大きな口がくっきりと微笑む。ブラックジーンズに白いシャツ。そういえばメラニーがモノトーン以外の色を身につけているのをまだ見たことがないなと春花はふと思った。  

「うん、久しぶり」

 普通に話しかけてくれて、少しほっとする。

 船着場に立つと、足元が少し揺れる感じがする。足をしっかり踏ん張って、背の高いメラニーを見上げる。メラニーは微笑んだまま内緒話をするように少し顔を寄せ、ひそひそ声で言った。

「ねえ、『死者たちの世界』にはもう行った?」

「え?」

「死んじゃったお兄さんに会いにいったかって訊いてるの」

「…?」

 呆気に取られた春花を見て、メラニーは楽しそうに笑い声を上げた。

「ああ、そうか。ごめん、忘れてたわ。お客さんたちは『死者たちの世界』には行かれないんだったわね。かわいそうに…。お兄さんに会いたいでしょうにねえ。とっても仲がよかったんでしょ?」

 メラニーは同情するような口調で言ったけれど、つり上がった大きな目は春花を見据えて意地悪そうに輝き、赤い口は微笑みを浮かべたままだ。

「こんなに近くにいるのに、会いに行けないなんて残酷ね。私だったら辛くて死んじゃうわ。そうだ、明日にでも私が代わりに会いにいってあげる。お兄さん、ハンサムなんでしょ?会うの楽しみ。何か伝言はある?」

 そこへボートをつなぎ終えたユマが上がってきた。怪訝な顔をして二人を見る。

「何の話?」

「『死者たちの世界』の話よ!」

 メラニーが高らかに言って、ユマの顔色が変わった。

「だめ!」

 春花に飛びつくようにして両手を伸ばし、春花の両耳を覆う。

「聞いちゃだめっ」

「春花が『死者たちの世界』に行かれなくて、大好きなお兄さんに会えなくてかわいそうっていう話をしてるのよ!」

 メラニーは春花から目を逸らさずに、喉も裂けよと声を張り上げる。ユマの手を通過して、一語一語がはっきりと春花の耳に届いた。

「あんたは『死者たちの世界』に行かれない!私はいつでも会いたい時にあんたの大事なお兄さんに会えるけど、あんたは絶対に会えないの!どんなに会いたくてもね!いい気味だわ!うんと悲しんで泣けばいい!」

「黙りなよ!」

 ユマが怒鳴る。

 背後でどかどかと足音がして、

「このクソ女!」

「俊っ」

「放せよ!ぶっ殺してやる!」

 メラニーがくるりと向きを変え、長い髪を揺らして去っていった。ユマの両手を耳の上に感じながら、月の光の映る艶やかな黒髪が遠ざかっていくのを春花はただ見送っていた。

 





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