EPISODE2 『変だな、音がしない』

 「おーい!」

 向こうから歩いてきたやつに声をかけられる。声の主を確認するとショッカクだった。

 「朝からなんだよ」

 「残念、もう昼だよ」

 「はぁ!? うるさい、細かいな!!」

 「カリカリするなって。ちょっとこれを見てほしくてさ……」

 そういうショッカクは腕に何かを抱えているようだった。あぁ、いつもの落ちてくるソレか、そう思った。

 「それ、落ちてきたソレか」

 「そうなんだ。だけどちょっと、変なんだよ」

 「変? 何が」

 思わず聞くと『よくぞ聞いてくれた!』みたいな顔をされた。ちょっとムカついた。

 「このソレ、実はさ……」


 「ふーん、なるほど。話は分かった」

 そうショッカクに伝えて耳につけているヘッドホンのスイッチを切る。普段このヘッドホンをしていないと色々な音を拾いすぎてしまうから、自分自身で音の取捨選択ができるようにしているための物だ。落ちてくるやつの音を聞くとき以外、ほとんどヘッドホンのスイッチを入れっぱなしにしているから、スイッチを切るたびに流れ込んでくるたくさんの音の情報になかなか慣れない。少し頭がキインッとなって、慣れるのに時間がかかる。


 「ごめん、大丈夫……じゃないよな」

 ショッカクも、オレのこの体質をわかっているから、少し申し訳なさそうにしている。でも別に、それはショッカクが気にすることじゃないし、仮に気にされたところで治ることも無いんだから、割り切ってほしいと思う。

 「慣れるのに時間が少しかかるだけだ。別に気にしなくていい」

 そう伝えるとショッカクはちょっとだけ息をのんで、それから『りょうかい』と一言だけ言った。たぶん、オレの言いたいことがちょっとは伝わったんだと思う。


 「……、もう慣れた。それ貸せ。」

 ショッカクが抱えているソレを受け取った。途端に眉間にしわが寄ってしまった。あまりにもそれは、妙だった。こんなもの、今まで落ちてきたことが無い。

 「……おい。これ、なんだ」

 「いつもみたいに落ちてきたんだ」

 ショッカクの眉も少し寄っていた。


 もう一度。今度は顔にもっと近づけた。変だった。だって、おかしい、これは何にも……。

 「なんも聞こえてこねぇぞ、これ」


 例えばソレは、チリリンッという、鈴のように優しくきれいな音色。


 例えばソレは、ドカンッ、ドカンッ!という、激しく鳴り続ける爆発音。


 例えばソレは、キィーンッ!!という、頭が痛くなるような耐え難い高音の機械音。


 そういった類の物どころか、ソレからは本当に何も聞き取れなかった。オレが落ちてきたソレの中で初めて感じた“無音”かもしれない。


 「な? やっぱりこのソレ、変だよな?」

 ショッカクがオレに問いかけてくる。オレはその言葉に無言で頷いた。こんなことは初めてだ。いつもは静かでも、確かに音はするのに。静か、と、無音、は全く違う。これは完全に“無音”だった。

 「他のみんなにも聞いてみようか」

 ショッカクがまた、オレに問いかけてくる。今度はちゃんと返事を返した。

 「そうだな。オレら二人でこの結果だ。きっと何かがおかしいんだ」

 そうして二人並んで歩きだした。


 それにしてもこの、変なソレはなんなんだろう。

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