EPISODE1 『なんだこれ、感じないぞ』

 空を眺めていると、いつものようにソレは落ちてきた。アノコがよく集めているやつ。


 いつもアノコはこの“落ちてきたもの”を大事そうに抱えて、一つ一つ丁寧に肩掛けカバンの中にしまっている。いつの日か落とした人が取りに来るかもしれないと、ちゃんとその日がいつ来てもいいようにと一つ一つを丁寧に。内心ボクは『よくやるなぁ』なんて感心している。だってソレを取りに帰ってくる人なんてほとんどいないから。この世界の事なんてみんな、気が付いていないか、見えないふりをしているかの二択なんだから。


 落ちてきたソレに近づいてみる。周りを見回しても近くには誰もいなかった。まぁ、いいか。たいてい一番初めにこれに触れるのは、いつだってボクなんだから。


 「あれ? なんだ、これ」

 何の変哲もない、まぁるい形のソレ。……うん、たぶん、まる。球体……とでも言えばいいのか。少なくともモジャモジャの塊とかではないし、星形とかハート形とかわかりやすい形でもない。何とも言い難い、抽象的な形。それに近づいて、両手で触って持ち上げてみた。


 形もそうだったけど、このソレ、いつものと違って何かがおかしい。触ってみても、熱くも冷たくも無い。それどころか重くも軽くも無い。持ち上げている割には実体を伴っている感覚が無い。触っている感触がつかめない。でも確かに“ある”。その理由は明白で、手を突っ込んでみてもその物に手が貫通することは無かった。跳ね返されるわけでもない、なのに貫通しない。こんなもの、今まで触ったことが無い。


 例えばソレは、時に焼けつくような熱さを持っている。火傷してしまうのではないかと思うくらい、激しい熱量。


 例えばソレは、時にすべてを凍らせてしまうような冷たさを持っている。誰も寄せ付けずに凍えることを選んだ冷たさ。


 例えばソレは、時に持つのをためらうほどに棘を持っていたりする。傷つくのは明白で、だけど一体、傷つけたのは誰だったのだろうか。


 他にもたくさん色んなものはあったけど、こんな何も“感じられない”ソレは今回が初めてだった。あまりの不可解さに自然と眉が寄ってしまう。

 「熱くも無い。冷たくも、重たくも、軽くも無い……」

 ソレを持ったまま、うーん……とうなりつつ、首をかしげてしまう。どうしたらこんなものが生まれるのだろうか。しかもなぜそれが、ここに落ちてきたというのだろう。


 ボク一人だからわからないのだろうか。みんなにもこれを一回見てもらった方が、話が早いかもしれない。


 ボクはその不思議なソレを抱えたまま、一人その場から離れ歩き出した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る