第36話 サイコパス

2022年5月20日


 昨日彼と会った時の事を思い出す。彼は表情一つ変えずに平気で嘘をつき、私を騙している。既婚ダミーや独身ダミーの時も器用にキャラを変える。まるで同一人物とは思えず、別人のようだ。いつしか、私は友人との間で彼のことを、サイコパスのサイコと呼ぶようになった。最もサイコパスの定義は彼とは違うが、人として違和感のある彼に対してサイコパスと結びつけた。本当は彼よりも私の方がサイコパスなのではないかと思う時もある。彼は嘘をついているだけで、嘘がバレそうになったら逃げる。小さい子どものようだ。私は彼の嘘を知っていながら騙されたふりをして傍にいる。殺す価値はないにせよ、もし法に触れないなら殺してしまってもいいとも思っている。それができると面白いだろう。彼の奥さんは発狂するだろうし、その姿も見たい。今までの事を全部話す。彼の性癖や行動も全て明るみになる。日本中で猟奇的な私と彼のニュースが取り上げられ、しばらくは世間の的となるだろう。面白過ぎる。殺しても捕まりさえしなければもっと楽しめるのに。。


 今日も、彼との会話が始まる。

「おはよ。」

「おはよ。撮影日は7月4日になったよ。準備がんばるねー。」

「あらら。」

「あらら?」

「準備期間短なったんちゃう?」

「んー。7月って決まってたし。。入ってすぐではあるけどね。」

「身体しぼるんやろ?」

「軽くね。ストレッチと軽く筋トレ。」

「やっぱり家で撮影?」

「私の要求が、家では叶いそうにないから。場所借りるか、ホテルになるかも。」

「どんな要求?」

「妖艶とか。。」

「どんな格好するん?」

「ヒールだけ履くとか。上だけ着るとかぐらいしか考えてないよ、まだ。」

「網タイツとか?」

「かなあ。」

「やらし。」

「こんなんどーかな?」

 私は全身が薄いタイツになっている写真を送った。

「エロいやん。。ガーターベルトとかは?」

「いいかもね、ガーターベルトも。以前履いて欲しいって言うから買ったやつがあったけどサイズが合わなくて知り合いにあげたから買い直さないとね。」

 私はヌードでもエロさはどうでも良かった。彼はそれでもエロチックに持っていきたいようなので、話を合わせたに過ぎない。

「あげる友達おるんやw お股のとこだけパックリあいてる編みタイツとかやらしそう。」

「さっきの写真の、どっちもあいてるよ。」

「股開いてよ。」

「脱いで?」

「そのタイツ、お股パックリ開いてるんやろ?」

「恥ずかしい。」

「開いてるやつ履いてるなら、写真も撮らせるんやろ?カメラ男も絶対にそこに入れてくるわ。」

「入れたくなるかな?」

「入れさすんやろ?」

 彼がバカみたいに興奮して言ってくるのがわかる。私も話に乗っていく。

「やきもち妬いてくれるなら、しようかなw」

「そら妬くわ。」

「誘惑しまくって、させんとくわ。可哀想かな?一秒だけしてもいい?」

「1秒で済むわけないやん。するかどうか聞いてみて。」

「聞けるわけないやん。してって言ってるようなもんやわ。」

「したいならゴムつけてやって。」

「なんで?」

「生でさすん?」

「いや、なんでかと思って。」

「やりたがってるか、探って欲しかっただけ。」

 どういう事かわからない。生ではして欲しくないという事なのか。

「生でするの彼氏だけ。。」

「でも。。セックスするんやろ?」

「どうかなあ。相手あっての事やし。。」

「やりたそうにしてない?」

「さあ。」

「したいかどうか聞いてよ。」

「嫌よ、それは。したいって言ったらどうするん?」

「させるんやろ?僕はやきもち妬く。。」

 そうだ。やきもちを妬かせないと何の意味もなかった。

「したいって言われたらさせるわ。やきもち妬いてね。」

「だから今聞いてよ。」

 しつこい。彼はオナニーがしたいだけ。

「聞くのは嫌。写真メインだから。」

「そのときゴムなかったら詰むやん。万が一あったらあかんからゴム用意しといてねって。」

「私が買って持っていくわ。」

「やらし。」

「念の為。」

「絶対セックスすると思う。」

 ここでどうかな?と返事するとまた同じような話がぐるぐる繰り返される。さっきから同じような話を繰り返している気がする。

「楽しんでくるからやきもち妬いといて。」


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