第24話 興信所再び

2022年4月3日


「一旦空けましょう!」と先生から指示があり、「承知しました!」と返事を送る。

 先生はこの後また彼から追いLINEがくると予想していた。

 どうなんだろう。彼は今自分でも「めちゃくちゃやってるわ」、と自覚があるように自身をコントロールできていない。気分もコロコロと変わりやすく、「やっぱご飯いいや」ともなりそうな気がしていた。「こちらから何も吹っかけなければ、彼の方から歩み寄って来ますよ!」と先生の言葉を励みにしばらくは彼からの連絡を待つことにした。


 次の日、先生とLINEで話をして、疑問に思っている事をまとめて聞いた。少しずつもやもやしていたものが解けた気がする。先生は彼の事を境界性パーソナリティに近いと言った。境界性パーソナリティ障害だとすれば今までのことも納得できる。ただ、自傷行為や自殺願望はなかった。彼は死ぬのを恐れ、生きる事に執着のある人だ。先生は、全てが当てはまる訳ではなくとも、傾向と対策は打てる。あくまでも参考にする程度でいい、と言った。


 そんな頃、興信所から連絡が入った。とうとう結果が聞けるというのだ。約2ヶ月待ったことになる。担当者の人から電話で「結果が出ました。成功報酬も発生しています。」と言われ、胸を撫で下ろす。もし調査してもらっても結果を出せなかったら調査してもらうだけになってしまう事もあるのだ。彼が既婚者かそうでないか、そう核心をつく何か結果が出たという事になる。それはすぐに先生にも報告した。

「興信所の調査結果も11日に渡していただけるようです。既婚確定なのでしょうけど。。」

「かしこまりました!

確定情報になるのは大事ですね。」


2022年4月11日


 11日になり、仕事帰りに興信所へ向かった。既婚者だという事はほぼ確定。でも現実を受け入れなければならない事にとても緊張していた。

「こんにちは。」

「こんにちは。どうぞお入りください。」

 部屋に通され、椅子に座るとすぐに担当者も資料を準備し、部屋に戻ってきた。

「今回、このような結果が出ました。」

 ゆっくり落ち着いた感じで話し始める。担当者は結論から先に伝えた。彼が既婚者だと。。やっぱり。。そうだった。。これでやっと色々な事がひとつに繋がった。


 彼と出会ったのは約1年前。お互いの病気から引き寄せ合うように求め合った。彼は始めから嘘をついていたんだな。私が独身だから、既婚者だとわかれば本気で好きになってくれないと思っていたのだろうか。でも、始めから出会いを求めていた訳ではない。あくまでも話し相手、話を聴いてくれる人を求めていたはず。違ったのだろうか。始めから下心があったのだろうか。真意はわからないが、人を騙したその罪は重い。


 私は昔から既婚者には本気にならない。既婚者だとわかって付き合おうとする人には何人も出会ってきた。でも何故か既婚者というだけで本気になれないのだ。少し好きになる事があって関係を持っても、すぐに冷静になり、気持ちも冷めてしまう。しかし、彼のようなパターンは初めてだった。好きの度合いが違う。ここまで好きになって病気の時に精神的に支えられたのに、既婚者というだけで冷める事ができるんだろうか。


 興信所は調査報告書を作成していた。その中には既婚だと決定付ける調査報告書や土地の権利書、彼と奥さんの写真等が入っていた。彼の奥さんは、綺麗でスタイルも良く明るい雰囲気、私は勝手にそんなイメージをしていた。大好きな人の奥さんだ、綺麗に決まっている。綺麗でスタイルもいい人なら仕方がない。それなら諦めもつく。しかし、全くそんな雰囲気ではない奥さんの写真を見て、どうして。。この人が彼の奥さん。。目を疑った。顔はエラが張っている感じで四角に見え、ふくよか。外で隠し撮りされている写真だったのだが、ノーブラなのか乳首のラインが明らかにわかる。ふくよかなせいか、胸が垂れて乳首が肘のラインにきていた。大人しそうな雰囲気。私の想像とまるで違う人だった。ノーブラで服装も普通、女性でいる事に努力をしなさそうな、美に興味のない感じ。好きに食べて太って胸も垂れて外出するのにブラジャーもつけない。何で?私は彼に会う時きちんと化粧して服装もコーディネートしてその時のベストの体制で会うというのに、この人はそんな努力もせずに毎日彼と一緒に過ごし大事にされているのだ。許せない。せめて綺麗にしていて欲しかった。


「事実を知ってどうされますか?大丈夫ですか?」

 興信所の担当者はまた親身になってくれた。気持ちの整理はまだつかないけれど、調査をした事に後悔はなかった。

「ショックでした。でも調べていただいた事に後悔はありません。どういう形であれ、前には進めそうです。何もわからない状態では気持ちを前に進める事ができませんでした。調査していただき、本当に有難うございました。」

「そうですか。良かったです。。」


 こうして興信所から帰ってきた。先生に報告する為に振り返ってまとめなければならない。




 


 


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