第4話


 竜之介は琥珀の手をとった。

 告白されては泣かれる日々におさらばできると喜んだ。琥珀もまた同じ悩みを持つものとして自分に惚れることがないと分かっているからこそ安心して手を取れた。


 琥珀は竜之介の手をとった。

 告白されては言い寄られる日々におさらばできると喜んだ。竜之介もまた同じ悩みを持つものとして自分に惚れることがないと分かっているからこそ安心して手を取れた。


 始まりは偽りだった。

 偽りでしかなかった。


 一日、一週間、一ヵ月。

 時が刻めば刻むほどに、居心地の良さに二人の心は溶けていく。甘く優しい世界に癒されていく。


 気が付けば。


「琥珀が……可愛い……っ!」


「竜之介さん……カッコイイぃぃ!」


 分かり易く互いに惚れこんでしまっていた。

 周囲の目を欺くために仲睦まじい演技を続けたが、なによりも二人っきりの時間に見せた自分しか知らない顔に惚れこんだ。気を張ることのなく、だからといって気軽過ぎることもなく、戦友だからと尊重し合う関係に、二人の心が惹かれ合ったことは別段不思議なことではない。


 ない、のだが。


「待てよ」


「もしも好きだなんてバレたら」


「俺が惚れないから一緒に居てくれているのに」


「周りの女の子と一緒になったら」


「琥珀に捨てられる!?」

「竜之介さんに嫌われる!?」


 始まりはだれにも言えない恋だった。


「琥珀……夏休みになったら海とか、どうだ?」


「いっ! いいと思う!!」


「(バレてないよな!? 大丈夫、大丈夫。だって恋人だから! 海とか普通行くから!!)」


「(海! 海! 竜之介さんと海っ! はっ! 駄目、駄目よ。ここで必要以上に喜んだら怪しまれる……!)」


「偽物だけど恋人だから海とか行かないとなっ!」


「そ、そうね! 海とか恋人っぽさが出るから最高だと思う!」


「(っぽさ……! いや、落ち込むな。当たり前じゃないか、琥珀は俺のことなんとも思ってないんだから、ぽさを求めるに決まってるじゃないか)」


「(偽物……偽物……っ! どうして偽物……っ! ああ、でも偽物じゃないと一緒に居られなくなるぅぅぅ!)」


「……ははは」


「……あはは」


「はははっ」


「あははっ」


「(好きって言いてぇえええ!!)」


「(好きですって言えればぁぁ!!)」


 それが発展したところで、

 やっぱり誰にも言えない恋だったとさ。


 めでたしめでたし。

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付き合ってからが本番とは言うけれど。 @chauchau

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