日本国防軍女性士官候補生〜IF戦記、中国が日本に攻めてきたら。その時、手を差し伸べてくれるのは外国の誰でもな、日本人自身だった〜

愛LOVEルピア☆ミ

第1話 移動軍学校エスコーラ

 国防軍、移動軍学校エスコーラ。エスコーラ自体が学校を指しているので重複しているが、馴染みがないポルトガル語なので違和感は殆んど無い。一般学校とは違い士官候補のみを選抜している。成績から選りすぐるだけでなく、どこに気持ちが向いているか、それを重要視した。


「二百人位かしら」


 険しい目付きをした女が大体の数を読む。海のものとも山のものともわからない、国防軍の移動学校に大事な娘を差し出す親は少ない。肩の下あたりまである髪に、平均的より少しだけ大きな胸、身長は並。全体に均整がとれた美形だ。

https://kakuyomu.jp/users/miraukakka/news/16817139555094752420


「騒ぐな、校長が来る」


 廃校になっていた高校の跡地に整列している。担任だと名乗った女性は黒い軍服を身に纏い、日本語を喋りはしたが日本人ではないように見えた。テレビで目にした四ツ星の軍旗がグラウンドにはためいていた。演台にラフな格好をして、肩から黒いコートの上着をかけた女が登った。これまた褐色の肌で明らかに日本人ではない。

https://kakuyomu.jp/users/miraukakka/news/16817139555051107955


「お前達が栄えある一期生だ、前例なんて何一つない」


 名乗りもせずに突然喋り始めて皆を一人ずつ睨んで行く。まるで肉食獣にでも狙われているような寒気を感じた。


「あたしゃね、日本がどうなろうと知ったこっちゃないんだよ」


 国防軍の士官学校校長としてあるまじき台詞が飛び出す。よくぞ言ったものだ。統合幕僚長が耳にしたら顔を真っ赤にして卒倒しただろう。


「けどね、あいつが力を貸してくれって言うからそうしてる。お前たちに問う。何のために戦おうとしている? 国の為か? 何かの使命感か? それともいっそ、自分の趣味か?」


 理由はそれぞれだろう、だが今はここに居る。場違いなところに迷いこんでしまったのではないか、困惑する生徒が多数。


「あたしは好きな男のために命を懸けてるだけだ。漠然とここに居る奴はとっとと帰れ!」


 生徒がざわつく。難関の試験を突破して来てみれば、馬鹿みたいな校長が一人で盛り上がって居た。


「騒がしい、黙らんか!」


 教師ではなく生徒が一喝した、視線が集まる。彼女は平然とした顔付きで前を向いたままだった。


「お前、移籍元と名前はなんだい」


「松濤第二学園、佐々木悠子」

https://kakuyomu.jp/users/miraukakka/news/16817139555094790502


 臆することなく申告した、言ったところで知っているはずもない無名の私立高校だ。後ろで長い髪を一本にまとめ、極めて姿勢が良い。そのせいか、或いは元から相なのだろう、日本人離れした胸が目立つ。


「ほーう、冴子のとこか!」


「理事長をご存知でしたか」


 意外すぎる反応、生徒は黙って成り行きを見守る。教師連中もだ。割り込む勇気もなければ面識があるものも居ない。


「あいつはね、棒姉妹だよ。はっはっはっ」


 意味が解ったもの、解らなかったものが反応ですぐに見分けがつく。悠子の左右に居る二人は半々だった。


「悠子、お前を一期生の主任生徒にする! こいつら纏めな」


「承知した」


 あまりにもおざなりな決め方に反抗心をもつ。それはそうだろう、何ら能力を示すことなくそうしたのだから。いくら適切だとしても不満はあっておかしくない。


「あたしが決めたことに文句がある奴がいたら、即刻立ち去れ!」


 耐えきれずに数十人が抜けていった、教師はそれを止めようともしない。残ったものは不満を押さえ込んだ。これが一般社会ならば普通のことだが、学校という特殊な場所だと考えると説明が足りていないのは褒められたことではない。


「ああいうのはな、最初から居ない方が長生きするさ。あたしはレティシア・レヴァンティン、移動軍学校エスコーラの校長だ。同時にエスコーラのプロフェソーラでもある、忘れても良いけど必要なときには思いだしな。以上だ」


 最後の最後に挨拶があり、それで終了。教師に連れられ教室に入る。古い鉄筋コンクリート造りで雨漏りはしないが快適さは皆無だ。


「悠子、やるわね」


「佐々木さん凄いです」


「二人とも黙って座っておれ」


 適当な椅子を見付けてそれぞれが居場所を作る。担任がやって来た。見かけるものは全て女性なので、エスコーラは女性のみなのだろう教師も生徒も。教壇に手のひらを叩きつける。


「貴様等の担任教師、結城千尋(ユウキチヒロ)だ。主任生徒立て」


 ハーフなのか偽名なのか、日本人らしい名前を名乗る。佐々木悠子(ササキユウコ)が起立した。四つのクラスがあり壁が取り払われている。開放的と言えるようならそう表しても良い。


「私はお前を通して生徒に命令する、生徒の不服従はお前の責任だ。解ったか」


「承知しました」


 即答した。質問の一つもせずに鵜呑みにする。結城は少し口元を吊り上げ声を張った。


「自己紹介といこうか」


 悠子は一人で前に行くとくるりと振り返る、そして視線を端にやった。


「前列左端から起立して移籍元と名を名乗れ!」


 やけに堂に入った感じで指差しをして目線を合わせる。順に申告を繰り返し、悠子の左右にいた者の番になる。


「松涛第二学園、星川夕凪(ホシカワユウナ)よ」

「松涛第二学園、綾小路百合香(アヤノコウジユリカ)です」


 時間は掛かったが、結城も悠子も真面目そのものの顔で黙って聞いている。最後の一人が名乗り終えると視線を教師に戻した。


「結構。編制を行う、クラス別けだ。当初は五つの予定だったが、早速減ってしまった、四つに別ける」


 ザクッと頭数で別けるのではなかった。結城は悠子を近くへ招き、一枚の紙を手渡す。そこには全ての名前と成績が書かれていた。


「お前が仕切れ」


「はい」


 一瞥して二百の名前があることに気付く、脱落者を省かねば正確には編制出来ない。結城はそれと知ってそのまま渡したのだ。どう対処するか見ものだと。


「夕凪、来い」


「何よ悠子」


 目つきの鋭い彼女、胸位まである髪を揺らして前へ進み出る。二人は親友の間柄だ、それも並大抵ではない。夕凪は悠子だけ居れば良い、そのせいで他の全てを人型の動物とでも考えているフシすらあった。


「これを四つに別ける、不在者を削除しろ」


 結城が目を細める。ペンを取り出して夕凪が次々名前を消していった、何かをみて確かめることもせずに。数十秒で作業が終わる。


「はい、一人声が小さくて合致しているかわからないのいるわ」


「解った、そこで待て」


 同じ学校をまとめてクラスに入れながらも、なるべく地域をバラバラにしていった。考えをまとめると次はそれぞれを振り分けていく。当然、夕凪と百合香は悠子と一緒のクラスだ。


「結城女史、編制を完了致しました」


「ご苦労。そいつは?」


 視線は夕凪を向いている、どうやって名前を選別したかを知っておきたかったのだろう。


「完全記憶の持ち主です。私が必要とします」


「なるほど。補佐を認める。星川夕凪を補佐生徒に据える」


 頭脳としての特別待遇をここで認めてしまう、他にどれだけ有能で適切な人物が居るかも確かめずにまた。


「綾小路百合香、軍事知識を幅広く持ち合わせております。彼女も必要とします」


 趣味で始まり、傾倒していった。腰まである長い髪におよそ日本人と思えないほど大きな胸、自信の無さそうな態度ではあるが、結城は既に悠子を信頼していたので詳細を問わない。

https://kakuyomu.jp/users/miraukakka/news/16817139555094703967


「補佐を認める。綾小路百合香を補佐生徒に据える」


「来い、綾小路」


「あ、はい」


 身内贔屓と言われてもおかしくは無い、だが夕凪の行動を見てしまっていたのでもしかしたらと思って誰も異議を唱えない。相手を批判することは出来ても、己を誇ることが出来ないのが日本人だ。自信の喪失は近い歴史に由来している。


「クラスの長を定めろ。それを主任生徒の直下に付ける、補佐生徒は主任生徒の頭脳、長は手足だ。以後、主任、補佐と呼称する」


「長の自薦他薦を採る、申告せよ!」


 計ったかのように四人が立ち上がった。多くも無ければ少なくもない。夕凪が悠子に聞こえるように立候補者の名前を呟く。


「他には居ないか。よし、四人を長に据える」


 それぞれを名指しすると一から四組を割り振った。自身は一組に入る。


「聞け。貴様等は全員少尉候補生として扱う、不明な点は調べて覚えろ。支給品を渡す、体育館跡まで全員取りに来い、以上だ」


 結城がそう締めくくったのを見て百合香が小さく助言を行う。


「佐々木さん、敬礼です」


「うむ。生徒敬礼!」

 

 見よう見まねで合わせる、教師も軽く返して教室を出て行った。支給品を回収する。衣服や階級章、身分証明書の類だった。流石にいきなり武器などを渡されはしなかった。宿舎としてホテルを充てられる、廃校に集合させられたにしてはやや意外だった。

 四人部屋をあてがわれる、悠子らは三人で部屋を使うことになる。優遇されたわけではない、主任宛に多くの荷物が送られて来たからだった。


「随分と自由主義なのね」


 一般の高校だったら細やかな説明がどっさりとあるはずなのに、エスコーラは違った。結果を示して後は自分で考えろ、丸投げされてしまう。


「一般的な内容ならば問題ない。制度的なものだが、松涛第二学園と類似する部分が見受けられる」


 即ち意思を示せばそれが受け入れられる、例外を常に検討するのだ。規則はある、しかしそれを変えることも可能だ。


「士官、将校は考えることがお仕事ですからね。明日は軍服で登校するようにさせるかどうか、とかも指示しなきゃですよ?」


「そうか。当然と考えていることも周知、確認せねばならんな」


 各地から集まってきているので制服はバラバラだ。軍服と戦闘服を支給されている、軍服は婦警のものを流用したのが解る。左にある記章が付け替えられていた。



 教官に訓練をつけられる。それは主に精神的なものが多かった。今から肉体を強化しても時間が足りないばかりか、性差があるので満足に行かないと校長のレティシアが判断したからである。度胸と機転と知恵で統率を行う、自分の生き様をそのまま言葉にしたかのようだった。


「クラス長は残れ」


 悠子が訓練終了の宣言の後に言い渡す。その場の勢いで主任を決めたようにみえて、レティシアは正しかった。佐々木悠子は百数十人の同輩を見事に統率している、一部では強い信頼すら得ていた。


 彼女が最初に出した上申、それは軍服は儀式、礼典などの場合に着用。戦闘服は戦闘が予測される場合に着用、これだった。通常の訓練は移籍元の制服、セーラー服で行うと決めた。市街地でどちらが目立つかを考えた際、より迷彩効果が得られると真面目に教師に述べたのだ。結果、それは受け入れられた。


「次の日曜日は休暇だ。だが各班毎に現在地の把握に努めるようにさせろ」


「外出して土地に慣れてくださいね。あ、姫路市は中国軍が居るので注意ですよ?」


 悠子の言葉を百合香が言い直す。地理の把握は常に心がけなければならない。


「主任、近隣に自宅がある者は帰宅させても良いでしょうか?」


 物事の良し悪しが判断できるかは経験がモノを言う。同じことが起きれば何の問題もないが、世の中そのようなことは滅多に無い。


「北村候補生、士官足るもの己が行動を決めるのだ。そうすべきと考えたなら、本人の責任でそうさせるが良かろう」


 否定も肯定もしない、それぞれで考えろと言う。夕凪も百合香もそれには言及しない、どちらでも良いのだ。クラス長の質を見極める意味でも口出しは少ないほうが好都合だ。残る三人は特に何も無いようだ。「解散」主任の一言で散っていった。


「悠子、私たちもふらつく気かしら?」


 違うと解っていてそう尋ねる。バラバラに行動するつもりなど頭から無い。


「綾小路、このあたりの自衛隊の関係本部はどこだ」


「はい、兵庫地方協力本部です。一佐が本部長ですよ」


 一佐、世界では大佐と呼んでいるのでそちらのほうが耳に馴染むかもしれない。一つの大きな集団の頂点がそれにあたる。


「そうか。ではそこへ行くぞ」


 関連情報収集や連絡を一任する。顔出し程度にと考えて、相手の反応を確かめる意味でも自身が直接行こうと前々から考えていた。



「お嬢ちゃん達、ここ遊び場じゃないんだよな」


 いつもなら門衛など置かれていない、だが戦時とのことで二人の陸士が制服姿で立っていた。セーラー服の三人組を目の前にして、少し困った表情を浮かべる。


「あ、私たち国防軍少尉候補生です。訪問の連絡を入れてあるんですよ?」


「え、ああ……君達が? 女子高生じゃないか」


 おいおい冗談じゃないぞ、そんな台詞が顔に書いてあった。何も言わないが夕凪が心中で悪態をついているのが悠子にはわかった。


「はい、そうです。でも士官候補なので上官にあたっちゃいます、ふふ」


 ニコニコしながら言われても陸士は取り次ごうとしない。この話だけで終われば、陸士たちも可愛い子が来てたなで日々の風景になる。だがそこで悠子が一歩前へ出た。


「少尉候補生主任生徒佐々木悠子だ。貴官らの任務は何だ?」


 無表情、冷静沈着に問う。それが不機嫌になっているように見えてしまったのだろう、嫌そうな顔をされた。


「警備だな」


「異常があれば上官へ報告せよ。職務を遂行するのだ」


 話し声がするので中から三曹が現れた。三十代の青年で思慮分別がつく年代、だが彼も迷惑そうな顔をした。


「少尉候補生殿、軍服でいらして頂ければ良かったのですが」


 慇懃無礼な態度をとる。この先もずっとあちこちでこうなるだろうことを暗示させるものだった。ここで夕凪が口を開く。


「国防軍候補生は、自衛隊法165号に準拠する戦闘服装市街地用装備として、当該部隊長の許可、制定を以てしてこの服装を軍服と認めているわ。不審あらばエスコーラに問い合わせるようにしなさい」


 と明言した。三曹は夕凪を睨みつけて「どうぞこちらへ」渋々中へ招く。招かれざる客、視線が突き刺さる。だが悠子は胸を張って堂々と歩いた、何の躊躇いも無く。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る