朝一番の優越

天西 照実

朝一番の優越

 残業をして、終電ギリギリに走り込む。

 いくつか駅を越せばポチポチと席が空く。すかさず座って貴重な睡眠時間に入る。

 たまに寝過ごすが、睡眠時間が多く取れたと解釈している。


 いつもの夜道、いつもの信号。

 アパートの階段には今日も砂埃が溜まっている。

 真っ暗な自分の部屋に帰り、照明をつける。

 堅苦しいスーツはすぐに脱がないと、自分の家に帰って来た気がしない。脱いでそのままシャワーを浴びる。

 それから適当に夕食を作る。レトルトとレンジを駆使した簡単なものだ。

 出来上がった夕食をパソコンデスクへ持って行き、パソコンの起動と共に食事を始める。

 夕食を食べながら、お持ち帰りの仕事をするのだ。

 これは無給労働。それでいい。

 だって勤務時間に含んだら、月給を時給に換算すると400円ほどになってしまうから……。


「不景気のせいだ」

 と、呟きつつ、持ち帰った仕事は、たいてい明るくなるまで終わらない。



「この資料で……終了――」


 仕事が終わると、部屋の窓を全開にする。

 毎日、同じように窓を開け、いつでも模様の違う空を見上げるのだ。

「今日も、いい空気だぁ」

 明るくなりかけの空を見上げて呟くと、僕はまた、出勤しなければならない時間まで蒲団に入る。


 こうして毎日同じように会社へ通い、大勢の人間の中で生活をしていると、自分のものや時間すら、他人に管理されているように思えてくる。

 ――だけど、この空気は僕のものだ。

 僕は、ちょっとした優越感に浸りながら、蒲団に包まり眠りに入った。





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