9,アキコさんの指導

 アキコさんはすごかった。

 少し見ればわかる。

 アキコさんの魔法、無駄がないし華麗だし……。

 トノザキ先生の魔法もすごいと思ったけど、アキコさんは次元が違うように思える。

 アキコさん、何者なの?

 やっぱり本当に四聖の一人なの?

「さあ、もう一度、風属性で体を浮かせてみて」

 魔法研究室にいるアキコさんは真剣な目をしている。

「はい」

 大好きな魔法、しかも超一流の使い手に教えてもらえていることが嬉しくて仕方のない私は、力のすべてをアキコさんに見てもらうつもりで手に持つ杖を振った。

 足下に風が渦巻く。

 次の瞬間、私の体が研究室の空中に浮かぶ。

 魔法研究室は、天井は高く、スペースも広い。

 その中を私は遊泳し続けた。

「うん、いいね」

 アキコさんはそう言うと、自分の体も私に合わせるように浮かす。

 杖も何も使わず、いとも簡単に浮遊している。そして空中を漂う。アキコさんの風魔法、レベルが私とはぜんぜん違う。

「もう少し、気をコンパクトに溜めて吐き出すの。そうすれば風の流れが早くなるから」

 アキコさんの言葉に私はうなずく。

 自分一人では見えなかった私の良いところ、悪いところ、直すべき癖、それらをすべて、アキコさんは的確に指摘してくれる。

 こんな、すばらしい授業はないわ。

 私は天にものぼるような喜びをかみしめていた。

 隣にいるレンも同じように浮遊術をアキコさんに披露している。

「レン君の魔法はちょっと大雑把ね。まあ性格だから、そこは直らないと思う。その大雑把な部分を良いところとして伸ばしていくようにしなさい」

 レンも嬉しそうにアキコさんの言葉にうなずいている。

 そして、レンは私の横に来て、そっとこんなことをつぶやいた。

「……僕、アキコさんのことを好きになってしまいそう……」

 ほんと、男の子ってこれだから困るのよ。

 すぐに女の人を好きになってしまう生き物なのね。そんな馬鹿なことばかり言っているとミチカが悲しむよ。

「さあ、次は複合技に移るわよ」

 レンの言葉などお構いなしにアキコさんの指導は続く。

「氷魔法、できる?」

 氷属性……。

 水と風をかけ合わせる上級魔法だ。

 この魔法を簡単に操れる人などそうはいない。

 あのミチカでさえ、完璧にはこなせないはずだ。

「さあ、アオイちゃん、やってみて」

 アキコさんの言葉で私は思い切って杖をふる。

 何度も練習した氷魔法。けれど、いつも失敗ばかり。

 でも本当に稀だけど、こうして勢いをつけたとき、なぜか成功することがあるのよね。

「ブリザード!」

 氷の呪文を唱える。

 失敗しても良いんだ。

 思い切ってやるだけ!

 すると……。

 杖の先から氷の風が吹き出てきた。目の前にある魔法測定針に氷の膜が張りはじめた。

「うん、いいよ!」

 アキコさんの声が聞こえる。

 私は気を集中させ、氷魔法をかけ続ける。

 吹雪が魔法測定針に当たり、完全に氷の塊へと変化した。

「やった!」

 私は思わず声を出す。

 おそらく五回に一度くらいしか成功しない氷魔法を成功させたからだ。

「すごいよ! すごいよアオイちゃん!」

 隣で見ていたレンが興奮した様子で声をあげた。

 幸せな時間だった。

 こうして、アキコさんの指導で、大好きな魔法の勉強ができるなんて……。

 でも……。

 それも、もうすぐ終わる。

 次の魔法測定試験が終われば、私はもう学校をやめて、魔法を使わない普通の女の子になるんだから。

 そう考えると、さびしい気がした。

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