◎第04話・なすべきこと
◎第04話・なすべきこと
翌日。
アントニー邸の扉は粉々になってしまったので、修繕のできる村人を呼んで直してもらうことにした。
その間、アントニーに命令が下った。
「ディレク村の様子を見たい。案内と説明をお願いできるかな」
「もちろんですとも!」
アントニーはかなり気合が入っている。やはり昨晩の事件のせいか。
ハウエルは内心で少しだけ罪悪感を抱いたが、それはそれ。
「ローザ、トンプソン、同行してほしい。何か内政をうまくやるための手がかりが見つかるかもしれない」
「はい、承知しました!」
「御意」
四人の巡察者は、本拠地の城下町、もとい城下「村」へ向かう。
土地は決して豊かとは言いがたい。作物もそれほど多くはない。村の広場には、行商がまばらにしか営業していない。村人の身体もあまり肉付きが良くない。
「現状がこれか」
「左様。我々行政も手を尽くしてはおりましたが、決め手に欠け、なにせ税収が少なきものでして……」
「鉄鉱は加工の途がうんぬんだよね。分かっている、分かってはいるんだ」
しばらく回ると。
「おや?」
鍵付きの農具庫を開けてもらい、見回すと何かを見つけた。
「銃だな」
いわゆる火縄銃である。たった五丁。
「狩りのためか、いや、害獣駆除にも?」
「仰せの通り。しかし資金不足で、この五丁しかこの村にはございませぬ。他の村も似たようなものですな」
「むう、火縄銃か……値段が張るんだね」
「然り。有事の際は、飛び道具は弓弩が主となりますな。弩ですら、決して安くはありませぬもので」
「いまは事が起きないことを願いたいね」
彼はため息をついた。
「しかし火縄銃か。高価、高値なんだな……」
若き領主は、妙にうなずきながら農具庫を出た。
ハウエルが執務室に戻ると、冊子が何部か届いていた。
「あ、それ、主様の王都のお屋敷から届きましたよ!」
「ほう」
「貴族向けの広報ですって。今までは『滝の砦』に届けていたものを、これからはこの城に届けるようにするって、使用人の方が言ってました!」
コスミーが明るい声で説明する。
ハウエルも一応爵位持ちであるので、王都に滞在用の邸宅を持っている。貴族の家にしては小さく、古くて傷んでいるが、使用人が何人か住み込みで働いている。逆にいえば、使用人は「何人か」しか雇う余裕がなかった。
また、王都では近年、活版印刷を採用しているため、少なくとも公的な書籍の類は印刷物として発行される。そのため広報も、貴族の各戸に配れるほどには作れるというわけだ。ハウエルの家に複数部届くのは、どうやら先代、つまり彼の父が何か働きかけたようで、いまとなっては詳細はよく分からない。
もっともこの広報、あくまで貴族向けであり、例えば現代日本の、普通にいう広報とは性質が全く異なる点に注意が必要である。民間向けの広報はまだ存在しないのだ。
ともかく。
「広報か。どれ」
彼は目を通す。
政策の報せ、貴族向けの手続の案内、物資調達の関連での、ギルドの宣伝やその動静。
そして。
「懸賞金!」
彼は小さくその言葉を口にした。
凶賊やその組織――ものによっては武装勢力と呼べるほどの戦力を持った賊軍――または重大な犯罪者、政治犯など、王都の一員として討つべき相手、その特徴などが、ずらりと並んでいる。
そして、荒天領付近の賊も例外ではなかった。
「おお……」
思わず口をつく感嘆の言葉。
この付近には凶賊が多いようで、特にたくさんの賞金首が説明されている。
しかし、どれも一定の戦力を持っていることが書かれている。村の自警団では果てしなく頼りない。
村々で守勢の戦いをするなら、村のまあまあまともな守備設備が機能し、勝ち目はあるが、自警団の側から攻め入るとなると、厳しいものがあるだろう。
しかし懸賞金は欲しい。ついでに賊の貯めていた財産と、できれば戦力としての賊そのものを取り込めれば万々歳だ。
金策は主に懸賞金から。
彼は独りうなずいた。
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