第30話

 「ココロって、ちゃんと怒れるんだ」


 学校の教室。

 昼休み。

 あたしとなっちゃんは雑談に花を咲かせていた。

 話題はもっぱら、この前の勉強会のことである。

 というか、あたしの愚痴だった。

 あたしの席で、ひとつの机を挟み、前の席にはなっちゃんが背もたれに腹をくっつけ、座っていた。

 その席の本来の主は、ほかのクラスに行っているらしく今はなっちゃんがその席の主になっていた。


 「そりゃ怒るよ。殺されかけたのに怒らないってマゾか変態でしょ」


 「そこは聖人君子じゃない?」


 「そうともいう」


 「でもそうだよね〜。階段から落ちて頭でも打とうものなら、脳挫傷とかで死んじゃうこともあるもんね〜」


 実行犯のエリスちゃんは、頭が割れて中身が出てたらしいから、よっぽど変な打ち方をしたんだろうな。


 「あと、能力スキルの扱いが結構やっかい。

 もう、下手なこと口に出来ないからさ、ストレス溜まる」


 「あー、だろうねぇ。言いたいことが言えないんだもんねぇ」


 「それはそうなんだけど、ほら軽々しく罵倒できないというか」


 あたしは説明に困って、ノートに説明文を書く。


 『死ねだの消えろだの、罵ることが出来なくなった』


 その文を見て、なっちゃんがなにか納得したように返してくる。


 「はえー、大変なんだ」


 「そ、めっちゃ大変。それも能力の発動条件がいまいちわかってないってのもあるし」


 「ヒントとか勉強会で教えてもらわなかったの?」


 ヒントはいくつかあった。

 でも、できたり出来なかったりと不安定なのは変わりない。


 「ヒントねぇ。

 まぁ、少しだけならあったけど。

 でも、わからないことの方が多い」


 「ほかの同じ能力スキル持ちの人に聞いたりとかは?

 レアって言っても、ゼロじゃないでしょ」


 まぁ、それはそうなんだけど。

 【言霊使い】だったかもしれないお兄ちゃんは、家出中の行方不明だし。

 他にそう言った人物に心当てなどない。

 だから、


 「それがゼロッぽい」


 あたしは、人差し指と親指でゼロの形を作って答えた。


 「マジか」


 「嘘ついても仕方ないし。

 昔は沢山いたっぽいけど、今はあたし以外確認されてない」


 「なんでそんなことわかるの?」


 「ネット上の超有名百科事典に書いてあった。

 最近情報が訂正されたっぽくて、役所に届出を出した日に【言霊使い】の存在が確認されたって書かれてた」


 さすがに、個人情報とかは載っていなかったけれど。

 でも、あ、これあたしの事だ、とすぐにわかってしまった。


 「あー、なるほどー。

 でもあそこ嘘も多いよ?」


 「知ってる」


 それでも何も調べないよりマシというだけの話だ。

 さて、ここで話題は変わる。というか戻った。

 なんの話題に変わった、いや、戻ったのかと言うと、妹が拡散してしまった動画の件だ。

 なっちゃんもSNS上で流れてきて、その関係で観たらしい。

 そして、映っていたモザイク処理のされていない二匹のモンスター。

 そのうちの一匹がタマであるとすぐに気づいたらしい。

 なっちゃんの本題は、勉強会の土産話よりもこっちだった。

 一体全体なにがあったのか、説明を求められたので一から話したのだ。

 

 「それにしても、なにがそんなに気に食わなかったんだろう?

 この火竜の飼い主」


 「うーん、たぶん、ジーンさんと話してたこと、それ自体が気に食わ無かったっぽい」


 「えー、それだけかなぁ」


 なっちゃんは納得がいっていないようだ。

 そのためか、自分の携帯を取り出すとジーンさんについて検索しだした。

 そういえば、あたしは【言霊使い】については検索したけど、ジーンさんについては何も調べてなかった。


 「有名な人なら嘘でも本当でも、なにかしらネット上に情報あるとおもうんだよねぇ。

 あ、あったあった」


 なっちゃんが、検索して出てきた画面を見せる。


 「あー、なるほどー、そういうことか」


 紫の珍しい目をしてるから、それなりの血筋の流れを組んでるんだろうなぁとはおもっていたが、なんとジーンさん王族の一味だった。

 あ、一味っていうと反社会的勢力みたいだから一員か。

 この国を統べる王族の一員だった。

 ロイヤルファミリーというやつだ。

 紫色の瞳は王族の証と千年前から決まっている。

 カラコンとかで紫のやつあるけど。

 まぁ、それはそれとして。

 ジーンさんは現王様の末弟らしい。

 末弟で、王位継承権は辞退したらしく現在爵位持ち。

 いわゆる王弟というやつだ。

 お坊ちゃまじゃねーか。

 なにテイマーなんて仕事してるんだ。

 王族らしく外交とかしてれば稼げそうなものなのに。

 まぁ、上に十人近い兄がいれば民間に入るという選択肢も出てくるのか?

 でも、起業するとかなんかそういう商売の方がいい様な気がする。

 雲の上の存在やんごとなき身分の人の考えることは理解できない。

 

 「玉の輿でも狙ってたのかね?」


 なっちゃんが再度画面に映し出されたジーンさんの経歴に視線を落としながら、そんなことを呟いた。


 「さて、どうなんだろう?」


 可能性は高い。

 要するに、リリアさんは一般庶民が血筋のいいジーンさんに近づくな、という意味もこめて行動していたのかもしれない。

 たまにいるのだ。

 そういう、明後日な方向に気をきかせるために動くタイプが。

 ましてや、王族には神様の血が入っているとされている。

 千年前に降臨した神様、そして、その伴侶であったとされるエルフの血が。

 一部のエルフの高慢ちきな態度などはこれに由来していたりもする。

 あと、ただ単に性格の問題だったりもする。

 そのエルフそれぞれだ。


 「それにしても、ジーンさんが王族だったとは」


 「やっぱりオーラとか違った?」


 「うーん? ただのイケメンだった」


 「そっか。

 サインとか貰わなかったの?」


 「王族って知ったの、たった今だよ。

 最初から知ってたら、勉強会でサイン貰って通販サイトで高値で売ってたよ。

 なっちゃんだって、勉強会の時にジーンさんのこと気づかなかったでしょ」


 本当にそんなことをしたら大問題になるだろうけれど、言うだけならタダだ。

 それに冗談半分だ。

 今のところ、冗談半分なら【言霊使い】の能力は高確率で発揮されないとわかっている。

 そう、今のところは。


 「まぁねー。爺様や婆様みたいに忠誠誓わされた世代でも、そういう教育受けた世代でもないから、王様の顔だって興味ないからうろ覚えだし」


 あー、わかるわ、それ。

 あたしは、なっちゃんの言葉にうんうん頷いた。

 同意しか出来なかった。

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