第29話
帰宅したあたしが、それを知った時。
すでに、かなり拡散されてしまっていた。
あたしはすぐにジーンさんへ、メールではなく電話した。
その日のうちに、というかアドレスを交換して二時間も経たずに電話をしたからか、少し驚かれた。
そして、相談する。
ジーンさんに拡散された動画をチェックしてもらったところ、とりあえずモザイク処理はばっちりだし、なんなら対戦のところしか上がっていないので、大丈夫だとお墨付きをもらった。
そう、マリーは対戦前後の動画はカットしたのだ。
それはナイスとしか言いようが無かった。
けれど、勝手にアップするのはさすがにどうかと思う。
「すみませんすみません。お手数をおかけしました」
電話越しに謝り倒すあたしの耳に、ジーンさんの苦笑が届いて電話を切った。
それから、あたしの背後で頭にタンコブを作って、正座しているマリーへ向き直る。
「勝手になにしてんの!!??」
「だって、拡散と再生回数増やせると思って」
「せめて、一言連絡寄越せ!!」
「情報は新鮮な方がいいんだよ!
ほら、姉ちゃん、これ見てよ!!」
そう言ってマリーが見せてきたのは、炎上しまくっている掲示板やSNSだった。
モザイク処理をしても、負けたのがどこの誰かわかったようで、リリアさんがテレビ出演をしていたこともあり、また陰で嫉まれていたということも相俟って、彼女の経歴が嘘っぱちであるとか、好き勝手かかれていた。
ネット怖い。
初めてバズった! とマリーはご満悦である。
あたしは拳を振るい、マリーにさらに二つほどタンコブが増えた。
「姉ちゃん、どうしたの?」
そこに寝ぼけ眼で、末の妹のエリーゼが現れる。
マリーがエリーゼを抱きあげて、家族共有のデスクトップパソコンの前に座らせると、動画を見せた。
それも、処理してないやつを、見せた。
「ほら、見てみ?
ココロ姉ちゃん、あの番組で殿堂入りした子に勝ったんだよ」
「おおー! 姉ちゃん凄い!!」
エリーゼ、あんたもその番組見てたのか。
そういえば、中々録画されてる番組が消されなくて残量圧迫してたんだよな。
エリーゼが見た後に、録画残量がだいぶスッキリしていることがあるのはそういうことか。
それからエリーゼは椅子を降りると、茶の間で猫ズのフミフミタイムを満喫していたタマのところまで行って、
「タマも凄い!!」
と、猫たちに混じってタマを褒めた。たぶん、もふもふもしてると思う。
うん、凄いというか、タマはよく頑張ったと思う。
さて、それはそれ。これはこれだ。
事前に許可は得ていたと言っても、ほんと拡散のされ方と動画の再生回数がかなりえげつないことになっている。
「身バレしたらどうしてくれんの?」
「今更でしょ、姉ちゃん何言ってんのさ。
それに、今はお姫様のアンチが騒ぎすぎてそれどころじゃないと思うよ?」
「お姫様?」
「無謀にも姉ちゃんに喧嘩吹っかけてきた、このエルフの子のテレビ番組内での呼称だよ。
で、すんごい評判悪かったし、この子」
「……よく喧嘩だってわかったね?」
「そりゃわかるよ。最初から動画観たし。
この子、なにが気に食わなかったのかは知らないけど、めっちゃ姉ちゃんのこと下に見てたし、こう口調というか声音というかがすんごい他人を馬鹿にしてる感じだったし。
すんごい観ててイライラした。
あー、そうそう、動画撮影してるって姉ちゃんがカミングアウトした時の表情は、もうなんとも言えなかったなぁ。
観終わった瞬間、ざまぁって呟いちゃったよ」
さいで。
こいつも中々いい性格してる。
「でもさ、姉ちゃん良かったね」
「なにが?」
「動画チェックしたのが、
あと、お父さん達がパソコンに疎くて」
まぁ、たしかに。
これ、下手したらイジメられたのかってことになって話がややこしくなってた可能性がある。
いや、まずうちの大人たちは観ないだろうなって確信してこのパソコンに保存したんだけど。
マリーが観る確率も低いと判断してたし。
まず、宛先をあたし宛てにしてたから、まさか開くとは思ってなかったし。
そういえば、そうだ、勝手にあたし宛ての動画データを観たことも怒らなければ。
「それには大いに感謝してる、でも」
あたしはマリーの頭をガシッと掴み、そこそこ凄みをきかせて続けた。
「たとえ家族とは言え、プライバシーは守ろうか?」
マリーは、愛想笑いを浮かべたかと思うところ、あたしの手からするりと逃げる。
「あ、こら待て!!」
「見られる方が悪い!!
そもそも姉ちゃんだって拡散する気だったんでしょ?!
なんでそんなに怒るのさ!?」
そして、それがいつもなら
するのだが、あたしはでも途中で妹のことを怒るのをやめた。
言葉を口にすること、あたしは初めてそんな当たり前のことが怖くなったのだ。
「?」
マリーが、あれ? という顔であたしを見てくる。
「姉ちゃん?」
「ほんとに嫌だからさ、もう二度と勝手にやんないでよ」
「どしたの、姉ちゃん?」
「別に。
あとさ、こういうのは抑止力にもなるんだよ。
いつばら撒かれるかわからない隠し撮り写真みたいなもので、今後リリアさん達が変なことして来ないようにするために使おうと思ってたの。
本当に使う気は無かったんだよ」
これは本当だ。
いつどうなるかわからないという圧力になる。
まぁ、たぶん、だからこそあたしは階段から突き落とされかけたんだろうけど。
「なるほど、悪い人たちが使う手だ!
脅しってやつだ!」
あたしはそこで会話をさっさと切り上げると、手紙を台所で夕食の支度をしていたお母さんに渡した。
別にばあちゃんでも良かったけれど、見当たらなかったからお母さんに渡した。
何が書かれていたのかは、あたしは知らない。
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