第22話

 対戦をするには、本来室内は不向きらしい。

 言われて、そりゃそっか、と思った。

 いわばテイムしたモンスター達の、魔法有りのなんでも相撲だ。

 もしくは取っ組み合い。

 火魔法、水魔法、風に雷。

 その他もろもろの攻撃魔法を室内でぶっぱなすのだ。

 そりゃ、不向きだ。

 しかし、専用の魔法術式を展開すればそう言った戦闘、この場合は試合とか手合わせとかになるが、それを行えるらしい。

 サッカーとかバスケットボールとか、そういったスポーツで地面や床に引かれている白い線。

 テープか粉かの違いはあれど、そういった線がこの場にも自動的に引かれていく光景を、あたしはすげぇなぁ、と眺めていた。

 魔法の展開とかは、今まで見てきたしそんなに珍しいものでもない。

 なんと言えばいいのか、舞台の裏側を見た時の感想に近かった。

 あー、こうやってやってるんだ的な、アレである。

 テイマーが所定の位置にたち、それぞれのモンスターは引かれた線の中に自動的に配置される。

 タマが不安そうにキョロキョロと周りを見回して、背後にいるあたしを見つけると、半泣きで駆け寄ってきた。

 しかし、


 「テュケるる~!」


 バゴんっ!

 タマは見えない壁、透明なそれに激突して跳ね返って転がった。

 かと思うと、すぐに体を起こして何が起きたかわからないとばかりに、あたしを見てきた。


 「タマ、ちょっとだけ、ちょっとだけだから。

 あの火竜ちゃんとあそぼっか?」


 あたしが見えない壁を通して、そう相手側を指さす。


 「テュケ?」


 タマがそれに従って、そちらを向いた。

 ちょうど中央に、こちらとあちら側を分断するように白い線が一本引かれていて、線の向こう側にリリアさんの火竜が、戦闘態勢をとっていた。


 「ルル〜?」


 タマが、おっかなびっくりといった感じで、中央に近づいていく。

 頃合を見計らって、手合わせは始まった。


 「火竜サラマンダー火炎球ファイアーボール!」


 リリアさんが先手を打つ。

 巨大な火の玉が、火竜の口から放たれタマへ向かってきた。


 「テュケ?」


 タマが、こてんっと体を傾げてそれを見ていた。


 「タマ! 逃げて! 避ける、避けるの!!」


 とか身振り手振りで言ってる間に、モロに喰らった!


 ちゅどーん!!


 壁のお陰でこっちには爆風や熱風来てないけど、これ、中にいたらたぶんヤバいやつだ。


 「アホーー!!」


 あたしが叫んでると、横で笑いを堪えていたイケメンが声を震わせて言ってきた。


 「ほんとに、初心者なんだね。

 でも、大丈夫。君、あの子に妙な魔法掛けてたろ?

 いや、魔法っていうよりスキル使っての効果付与だったけどさ」


 いや、たしかに頑丈になーれってやったけどさ。

 ついでに痛いの無い無いってのもしたけど。

 ちゃんと出来てるかも分からない。

 いや、ジーンさんから見たら、ちゃんと出来ていた、ということでいいんだろうか?


 「ほら、見てみなよ。タマちゃん、元気だよ」


 言われ、指を差される。

 そちらを見ると、火の玉が炸裂し発生した黒煙の中から、ぴょんぴょんとこちらに跳ねてくる丸っこい影があった。


 「テュケーー!! ルル~!!!!」


 今度は半泣きではなく全泣きだった。

 涙を滝のように撒き散らし、怖いよー!! と言わんばかりにこちらに突進してきた。

 そして、そのまま、また見えない壁にぶち当たった。

 パゴンっ!!

 お前は、少しは学べーー!!!!


 「テュケー! テュケるるー!!」


 助けてー!

 もう嫌だー!

 怖いのヤダー!!

 と叫んでいるようだ。

 見る限り、怪我はしていないようだ。

 あたしは胸を撫で下ろす。

 その横から、ジーンさんがタマへ声を掛けてきた。


 「うん、うん、タマちゃん、ごめんね。もうちょい頑張れるかな?

 ほら、火竜のご主人様、ここを見ている人達。

 皆を見るんだ。あの人たちは誰を見て嗤ってる?

 いいかい?

 ここでの君への評価は、全部君のご主人様への評価だ。

 この意味、わかるかな?」

 

 続いて、名前は知らないがジーンさんのワンコが鳴いた。


 「キャンっ!」

 

 タマがワンコを見て、どこか自信なさげに鳴いた。

 その後、タマはあたしを見て、それから、リリアさんを見た。

 そして、最後に周囲を見回した。

 吊られるように、あたしもそれらを見た。

 ほとんどが、呆れや嘲笑を浮かべていた。

 哀れみもあった。

 それらを一通り見たあと、タマはワンコとジーンさんを交互に見て、一声鳴いた。


 「テュケ!」


 「よし!

 いい返事だ。君は思っていたより骨がありそうだ」

 

 そんなやりとりをした後、ジーンさんが今度はあたしに向かって言ってきた。


 「そんなわけで、丁度いいし、ココロさん、君とタマちゃんには彼女――リリアさんへの教育的指導に協力してもらうよ」


 おい、待てや。

 今なんつったこの野郎。



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