第2話

 さて、我が家にお迎えした毛玉スライムこと、命名【玉こんにゃく】略してタマ。

 餌(畑の雑草)が良かったのか、可愛がったおかげか。

 この一週間ほどで、バスケットボールほどの大きさになった。

 まさかとは思うが、メタボじゃないだろうな?

 生活習慣病とか腎臓病とかになったりしてないだろうな。

 そろそろ医者に見せるべきだろうか。

 そんなタマだが、今はウチの猫たち、黒猫のチーに人類をダメにするソファのように扱われたり、白猫のムーによって前足でちょんちょんとジャレられたりして、完全に玩具と化していた。

 先住猫たちとの関係はとても良好だ。

 良かった良かった。

 ついでに言えば、一週間前なっちゃんがカチ割った地面も結局怒られることは無かった。

 あの後、すぐに出てきた職員さんにちょっと事情を聞かれて、あたしとなっちゃんが説明して、終わりだった。

 ちなみに、地面は自動修復する魔法だか錬金術式だかが仕込まれていて、ギルドでことの次第を説明して、外に出た時には綺麗に直っていた。


 「タマー、金平糖食べる?」


 「テュケるる~!」


 祖母が茶菓子として買っていた徳用袋から金平糖を出して掌に出して、タマにそう声をかける。

 タマはタマで、甘いのが好きらしく猫ではないのに、猫みたいに甘えた鳴き声を出して祖母にスリスリしていた。

 

 「タマはほんとに甘いのが好きだねぇ」


 ヨシヨシ、と祖母が空いている方の手でタマをモフモフしつつ、ひとつしかない上に、初見さんならビビってしまうだろう巨大な口へもう一つの金平糖を乗っけた手を近づける。

 それをご機嫌に匂いを嗅いで、生えているもふもふの毛をひとつに束ね、手の形にすると食べ始めた。


 「テュケるる~♪ テュケるる~♪」


 犬猫にもそうだが、あんまり人間用の食べ物を与えるのもいかがなものか。

 あたしは、どこか世間ズレしているハイエルフの祖母へ、見かねて言葉を投げた。

 というか、孫と同じか少し年齢が下に見える祖母というのはどうなのだ。

 いつも買い物に一緒に出かけると高確率で、あたしが姉。

 祖母が妹。

 つまりは、姉妹か友達同士に勘違いされてしまうのだ。

 ちなみに、祖父は蜥蜴人族リザードマンである。

 基本、畑か田んぼか家畜小屋で仕事をしているので、ご飯時にしか姿を見せない。

 さて、読者諸君、もうお気づきであろう。

 あたしは、文字通り混ざり物の血で出来た人間だったりする。

 祖父母がこれで、一代隔てて人間が出てくるんだから遺伝って不思議だ。

 ちなみに両親だが、共働きなので今日のような休みの日でも仕事で家にはいない。

 母がハーフエルフ、で、婿に来たのが父だ。

 ここまで来ると、父も異種族なのだろうか?と気になるところだろう。

 その通り。

 父も異種族である。

 父は吸血鬼と人間のハーフ、ダンピールだ。

 ふふふ、凄いだろう。

 これだけ色々混ざって出てきたのが、あたしなのだ。

 ちなみに、あたしには妹が二人いる。

 一人は、祖母と同じハイエルフ。もう一人は父方の祖母と同じ吸血鬼だ。

 あたしと、蜥蜴人族の祖父を除けば、顔面偏差値が高い高い。

 なんだ、この家族。

 と、一員であるあたしですら思ってしまうほどだ。

 ほんと、なんであたしが生まれたのか、謎である。

 ハイエルフの祖母から与えられた金平糖を全て食べ終えたタマは、満足気に祖母になでなでされ、


 「はい、じゃあ今日はもうお終い。

 ないない、ね?」


 そう言われていた。

 すると少し物足りなそうに、祖母を見返す。

 しかし、もう一度、


 「無い無い、今日はもう無ーい無い」


 といわれ、しょんぼりしてあたしのとこまで来ると、何故かあたしの頭の上にぽんっと乗って、同じテレビを見始めるのだった。

 膝に乗ればいいものを、何故頭に乗るかというと、タマがあたしや両親or妹達or祖父母のいずれかの膝を占領していると必ずと言っていいほど、先住猫達がちょっかいをかけてくるのだ。

 そのため、タマなりに考えた末飼い主一家の頭の上を自分の場所と決めたようだった。


 そうして、しばらく旅番組なんかを見ていたところ、祖母があたし宛ての手紙を手にやってきた。

 どうやら午後の配達で、つい先程届いたようだ。


 「役所から?」


 まだ納税義務のない未成年なんだけど、なんだろ?

 宛先を確認して、あたしは封を開けた。

 それは、タマを飼い始めたため、出来るなら冒険者ギルドなどで開催されている、飼い方講座や一般人が行っているワークショップ等に出て正しい知識を身につけ、交流を深めてほしいという内容の手紙だった。

 なんなら、ついでにテイマーの講座も受けて君もテイマーに、なんて字が踊るチラシが数枚入っていた。

 

 「テュケ??」


 タマが興味津々に、チラシを一枚、金平糖や餌を食べる時みたいに操って抜き取り見る。


 「字、わかるの?」


 「るるる」


 頭の上でもふもふが左右に体を揺らした。

 たぶん、知らない、の意味だろうと思われる。

 

 そこであたしは時計を確認した。

 今日は休みである。

 つまりは休日である。

 昼休憩はしたので、そろそろタマを散歩に連れ出さなければならない。

 なんのためにタマを飼ったのか。

 当初の目的を遂行するのである。


 「よし、タマ。

 ちょっと外行こうか」


 と、あたしが言うとタマが逃げ出そうとする。

 あたしの頭から、飛び降りどこぞへと向かおうとしたのでとっさに捕まえると、


 「テュケーーーー!!」


 鳴き声をあげ、必死の抵抗にあった。

 しかし、猫とは違い爪がないだけ引っかかれる心配が無い。

 どうも、タマは外に連れ出されるのがあまり好きではないようだ。

 たぶん、前の主人達のように置き去りにされるのを恐れているんだと思われる。


 しかし、タマよ。

 生きることは綺麗事を並べ立てたり、逃げてばかりじゃいけないのだ。

 あたしだって、とてもじゃないが直視したくない現実を受け入れたんだから。


 「ほら、あたしの散歩減量に付き合おうねえ?」


 ぽんぽん、とあたしは毛玉を軽く撫でた。

 タマは、涙目でなにかを訴えてくる

 しかし、あたしはその訴えを泣く泣く無視する。

 こいつもかなりデカくなった。

 あたしと同じく適度な運動は必須なのだ。

 ちなみに、昨今はペットとしての需要が増えたからかスライム用の散歩紐がペットショップで売られていた。

 それは、魔法技術で加工されていて本来のツルツルぽよぽよボディのスライムでも、滑ったり外れたりしない輪っかに、犬用の散歩紐が繋がっているものだった。

 さすがに、犬用と違って加工がしてあるのでそれなりに値段が張った。

 おかげで、あたしの豚貯金箱も減量する羽目になってしまった。

 

 せめて豚貯金箱を減量した分は元をとりたい。

 タマは、隙あらば逃げようと機会を窺っているが、こちとら人間よりも身体能力が勝る家族と暮らして十五年の実績がある。

 魔法は使えないし、身体能力が一番劣る人間だが、悪知恵は働くのだ。


 「仕方ないなー。そんなに行きたくない?

 それとも紐が嫌?

 両方?」


 「テュケ? るるー??」


 なにやら考え始めた。

 その間に、散歩をするための装備を整える。

 くくく、こんなの怪力吸血鬼の妹のおしめを変えるより容易いわ。

 ちょっと、蹴られるだけで肋や腕を何度折った事か。

 その度に祖母や母に魔法で治してもらっていたり、身体強化の魔法をかけてもらっていたのが懐かしい。

 十歳の自分、頑張ったよなぁ。

 さて、ほい、完成。


 「テュケーーーー!!??」


 いつの間にか装備を整えられ、外に出ていたことに気づいたタマは、家に戻ろうとする。

 あたしは、泣く泣くそんなタマを文字通り引きずって午後の散歩にでかけたのだった。

 え、そういうのは意気揚々って言うんだって?

 あーあー聞こえなーい。

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