第15話 公然猥褻殺人事件

 きぬた良介りょうすけは喉を刃物で切られ、血塗れになった状態で自宅の玄関を飛び出した。瀕死の状態の砧はそこで何を思ったのかズボンを下ろし、下校途中だった女子中学生・椿つばき八重やえに陰茎を見せつけた。その後、砧は狂ったように陰茎をしごきあげ、八重の目前で射精したのと同時に事切れた。


     🍢 🍢 🍢


「砧良介は死ぬ前に何故あんな不可解な行動をとったのでしょう?」

 朝立あさだち元気げんきはおでん屋の屋台で蒟蒻こんにゃくに齧り付きながら、上司の工口こうぐち彰久あきひさにではなく、ギャル探偵の肉倉ししくらエリカに尋ねる。


「そんなのわかりきってるじゃん。砧は何者かに喉を切りつけられて、自分の命が残りわずかだということを悟っていたんだ」


「……なるほど。そこで砧はどうせ死ぬなら最後にやりたくてもやれなかったことをしたわけだな」

 工口は牛筋を噛み締めながらしたり顔で頷いた。


「え?」

 朝立は上司の発言にドン引きした様子で、箸から蒟蒻を落とした。


「あ、いや、私は違うぞ。私はほら、高校生以上じゃないとストライクゾーンじゃないから!」


「……警部、それ何の弁解にもなってないんですが」

 朝立は慌てる工口にますます引いてしまう。


「砧がやろうとしていたことはダイイングメッセージだよ」


「……ダイイングメッセージ?」


「砧は喉を切られて話せない状況だった。そこでジェスチャーで犯人を知らせることを思い付いたんだ」

 エリカは熱々の竹輪ちくわに豪快に齧り付く。


「当時、砧の家にいたのは婚約者の花菱はなびし美代みよと女中の松葉まつば菊江きくえの二人だけでした」


「何だ、センズリなんて名前の奴はいないじゃないか」

 工口が落胆したように肩を落とす。


「犯人、わかったんだけど」

 エリカの瞳がキラリと光る。


「本当か、エリカちゃん!?」


「犯人は女中の松葉菊江だよ」


「その心は?」


「二人はデロスペルマって花を知ってる?」


「……いえ」

「凄く卑猥な名前だな」


「小さくて可愛い花なんだけど、この花の日本名がマツバギクっていうの」


「……ええと、つまり?」


「砧は陰茎をしごきながら女子中学生に犯人の名前を伝えたかったんだ。松葉菊出ろ!スペルマ江と」


「なるほど。最後のエメラルドスプラッシュならぬ、白子スプラッシュってわけだ」


「……命を、否、精子を振り絞った最後のメッセージだったんですね」

 朝立は熱燗を煽りながら、しんみりと呟いた。そんな朝立の肩を、工口がポンと優しく叩いた。


「よし、松葉菊江を徹底的に調べよう。大将、カルピスサワー三つ!!」


 こうして事件は一件落着。今回も難事件であった。ふぅ。

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