第26話 ただ真っ直ぐに

 73匹の魔物を倒したところで、データリンク装置には新しい魔物の群れが表示されていた。


「がう~!」


「気にしない! 突撃~!」


 わたしは魔物の群れに目もくれず、真っ直ぐと目的地に向かう。

 そうしていれば、スピードを緩めず大きく旋回したチトセが、一撃必殺で魔物の群れを狩り尽くしてれる。


 赤い印が光ったり消えたり、データリンク装置は大忙しだ。

 ただ、だんだんとチトセの魔物撃破より、新しい魔物の登場の方が早くなってきた。


《敵さんたちぃ、なんとなくこっちの作戦に勘付いたみたいだねぇ。魔物がどんどんやってくるよぉ》


《気をつけて、クーノちゃん!》


 フィユとリディアお姉ちゃんが注意してくれた直後だった。

 データリンク装置に映ったいくつかの赤い印が、こっちに突っ込んできているのを確認。

 赤い印の位置を目でたしかめれば、鳥と牛を混ぜたような魔物数匹が見えた。


 すかさず無人戦闘機たちは散開、わたしを援護してくれる。

 それでも全部の魔物を倒せるわけじゃない。


 わたしはユリィのスピードを緩めず、ぎりぎりまで魔物たちを引きつけた。

 引きつけて引きつけて、魔物たちが闇の魔法を放った瞬間、少しだけ手綱をひねった。


 手綱からわたしの意思を受け取ったユリィは、翼をたたみ、体をかたむける。

 そして、飛んできた闇の魔法の隙間を抜けた。

 まるで雨を避けるみたいだ。


「ユリィ! 大丈夫!?」


「がうがう!」


「そっか、無傷だったんだね! すごいよユリィ!」


「がうがう~!」


「ううん、このまま突っ込む! チトセを信じよう!」


 背後を飛び抜けたさっきの魔物たちは、もうチトセに倒されているんだ。

 これならいける。

 どれだけ魔物たちの人気者になったって、わたしの隣を飛べるのはチトセだけなんだから。


《11時の方向、低空から新たな魔物よ!》


《やらせない!》


 チトセは高度を取り、高空から急降下、新たな魔物たちを蜂の巣にする。

 この隙にわたしの背後に迫った魔物たちは、無人戦闘機たちが邪魔してくれた。


 急降下で高度を下げたチトセは、今度は急上昇し、わたしの背後の魔物たちを倒す。

 再び高空に舞えば、チトセは間髪入れず急降下、わたしの目前を飛び抜け魔物たちに襲い掛かった。


 魔物たちはわたしに近づけず、わたしは魔泉の中心に近づいていく。


「もう少し!」


 ここまで来ると、視界は真っ青だ。

 なんだか体の奥底まで魔力が染み込んでいるような気分。

 無人戦闘機たちも強すぎる魔力に耐えられず、青い世界からの脱出をはじめている。


《あと少し!》


 戦闘機がひらりひらりと飛び回った後は、霧しか残っていない。

 この短時間で、チトセは何匹の魔物を倒したんだろう。


「もうちょっと!」


 不思議と感覚が研ぎ澄まされてくる。

 そのおかげなのか、わたしはデータリンク装置に頼らず魔物の位置が分かった。

 7時の方向に、13匹の魔物が近づいてきている。


《クーノの邪魔はさせない!》


 轟音も無人戦闘機も置き去りにした戦闘機がユリィとすれ違う。

 振り返ると、13匹の魔物が光の弾に撃ち抜かれる瞬間が目に映った。

 これでもう背後に敵はいない。


 視線を元に戻せば、空の彼方までそびえ立つ魔力の柱が、わたしたちを青く染めている。

 それは、これ以上は近づいちゃいけない、幻想の世界へと通じる魔力の塊だ。

 でも大丈夫。これ以上に魔泉の中心に近づく必要はないんだから。


「ここだ! ユリィ!」


「がうっ!」


 わたしの叫びを聞いて、ユリィは急上昇。

 その間に、ユリィはお腹に抱えていた爆裂魔弾を放り投げた。


 宙を舞った爆裂魔弾は弧を描き、魔泉の中心に落ちていく。


 魔泉に背中を向けた頃、ついに爆裂魔弾が魔泉の中心で破裂したらしい。

 空の彼方までそびえ立っていた魔力の柱は強く輝き、辺り一面が光に覆われた。

 その光の眩しさに、わたしたちは目を開けることもできない。


「うわわ!」

「がう!」


 何も見えない時間は、どのくらい続いたんだろう。

 数分続いたかもしれないし、数秒だったかもしれない。


 ようやく光が消えたと思えば、魔力のカーテンは消え失せていた。

 さっきまで青一色だった世界には、花びらのような魔力の欠片が漂うだけ。


 空を見上げれば、キレイな白ノ月が、空にぽっかりと穴をあけているみたい。

 東の空は、いつの間に明るくなっている。


「魔力のカーテン……弱くなった……?」


「がう……?」


 いまいち状況が掴めないよ。

 何がどうなったのか分からず、わたしはキョロキョロするだけ。


 そんなわたしのもとに、たくさんの人たちからの遠話魔法が届いた。


《航宙軍の龍騎士がやった! 本当にやりやがった!》


《あれだけの魔力が一瞬で……これは現実!?》


《こちら、第1炎龍隊のエヴァレット、だ。よくやった》


《こちら第3飛龍隊! 魔力のカーテンが弱まった! すぐに援護に向かう!》


《騎士団だ! 俺たちも地上から支援する!》


《せっかくのチャンス! 行け行け!》


 次々と聞こえてくる遠話魔法に、やっとわたしは状況を理解した。

 わたしは魔泉の活動を弱めることに成功したんだ。

 みんなの声が遠話魔法に乗って届いているのが、何よりもの証拠だ。


 無線機からは、リディアお姉ちゃんとフィユの声が聞こえてくる。


《やったわね! さすがはクーノちゃんとチトセちゃんよ!》


《もうぅ、二人は強すぎるよぉ》


 えへへ~、こんなにみんなに褒められると、さすがに照れるよ~。

 ニヤニヤしちゃう顔を手で押さえながら、わたしはチトセの戦闘機を探した。


 直後、チトセの戦闘機がユリィの隣にやってくる。

 チトセはコックピットから手を振り、無線機を通して言った。


《信じてたよ、クーノ》


 その言葉に、わたしはすかさず返す。


「わたしも、チトセのこと信じてたよ!」


 襲い掛かってくる魔物たちをチトセが倒してくれたから、わたしはあそこまで行けたんだ。

 魔泉の活動を弱めるのに成功したのは、わたしたちが揃っていたからこそ、だよね。

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