第6章 それぞれの世界、ひとつの空

第25話 魔法が使えないなら、無人戦闘機を使えばいい

 ライラを飛び立ち、闇夜を駆け抜け、わたしたちは魔泉の上空までやってきた。

 魔泉の反対側では魔法が飛び交い、龍騎士団・騎士団が魔物と戦っている。


 わたしの目の前には、今まで遠くから眺めるだけだった魔力のカーテンが広がっていた。

 これからわたしとチトセは、この青い光の波、空に揺れるカーテンに突入するんだ。

 空気が少しずつ不安定になるのを感じながら、わたしは楽しさ全開。


「視界が真っ青だね!」


「がう」


「魔法、どんどん使えなくなるね!」


「がうがう」


「こんな空、はじめてだよ!」


「がう~、がう~、がう」


「え? 爆裂魔弾が重い? もうちょっとの我慢だよ!」


 ユリィがお腹に抱える大きな爆裂魔弾は、魔泉封鎖作戦にとって大事なアイテムだ。


 魔泉の活動を止める方法はふたつある。


 ひとつ目は、魔泉の中に強い魔力を放り込み、魔泉の魔力に干渉することで、魔泉の活動を一時的に弱めるという方法。

 この方法だと、魔泉の活動を弱められる時間は数分だけで、魔泉を完全に封鎖することはできないみたい。


 ふたつ目は、大規模な石化魔法で魔泉の入り口を完全に閉じちゃう方法。

 こっちの方法なら、魔泉の活動を数日は停止させられるし、その数日間で魔泉を完全に封鎖することもできるらしい。

 でも、魔泉活動中は魔法が使えないから、大規模な石化魔法を発動することはできない。


 じゃあどうするの? ということで、魔泉封鎖作戦ではどっちの方法もやることになった。

 ユリィが抱える爆裂魔弾は、大量の魔力を詰め込んだ爆弾みたいなもの。

 これを魔泉の中に投げ込むのが、わたしとユリィの任務なんだ。


「もうすぐで魔力のカーテンに入るね!」


 今日は白ノ月が満月だから、魔泉の活動はとっても活発だ。

 魔力のカーテンは、本当にカーテンがあるみたいに分厚くなっている。


「フッフッフ、こんな日に、たった数人のわたしたちが魔泉に突っ込んでくるなんて、『紫ノ月ノ民』もびっくりするはずだよね!」


「がうがう!」


 奇襲が成功することを信じて、わたしとユリィは魔力のカーテンに突入した。


 一面が真っ青な光に支配された瞬間、ユリィの体が上へと持ち上げられる。

 どうやら魔力のカーテンは、水と風の中間みたいな性質らしい。

 まあ、慣れちゃえば真っ直ぐ飛ぶのに苦労はしなさそうだね。


 魔力のしぶきをまとい、カーテンを切り裂きながら、わたしたちは魔泉の中心に向かった。

 途中、魔力のカーテンの外を飛ぶフィユの言葉が、無線機から届けられる。


《そこまで行くとぉ、眷属さんも印をつけられないよぉ》


「そうみたいだね!」


《当然だけどぉ、攻撃魔法も使えないからねぇ》


「分かってるよ~!」


《なんかぁ、楽しそうだねぇ》


「もちろん! だって、魔力のカーテンの中だよ!? 普通じゃ飛べない場所だよ!?」


《そうだねぇ、クーノはそういう子だったねぇ》


 フィユはいつも通り苦笑する。

 だから、わたしもいつも通り、未知の空を楽しむんだ。


 少しして、1機の戦闘機と十数機の無人戦闘機が、猛スピードで魔力のカーテンに突入してきた。

 あれはチトセの戦闘機と、チトセが連れる無人戦闘機たちだ。


 無人戦闘機十数機のうち8機は、ユリィの周りを囲むように飛ぶ。

 これでドラゴンと無人戦闘機のパーティーが完成だね。

 無線機からはチトセのクールな声が聞こえてくる。


《クーノ、その無人戦闘機を使って》


「うん!」


《無人戦闘機が敵の位置を知らせてくれるから、データリンク装置から目を離さないでね》


「は~い!」


《もし敵が近づいてくれば――》


「無人戦闘機とチトセが落としてくれる、でしょ!」


《そう。援護は任せて》


「えへへ~、お任せするよ~」


 魔法は使えなくても、航宙軍の〝かがくりょく〟は使えちゃう。

 だからわたしは、戦闘についてはチトセに任せることにした。

 わたしはただ、ユリィの背中に乗って楽しく未知の空を飛ぶだけだ。


 チトセと無人戦闘機に守られながら魔力のカーテン内を突き進めば、フィユと一緒に魔泉を監視しているリディアお姉ちゃんからの報告が入る。


《敵がクーノちゃんに気づいたみたいだわ。龍騎士団・騎士団と戦闘中だった魔物数十匹が、そっちに向かってるわよ》


 さすがに隠れきれなかったみたい。

 さっそくわたしは、データリンク装置に視線を落とす。

 データリンク装置には、こっちに迫る大量の赤い印が光っていた。


「魔物が近づいてきた!」


《反応は73。まあまあな数だね》


「でもでも、チトセの敵じゃないよね!」


《もちろん》


 そう言って、チトセは戦闘機を加速させる。

 轟音を鳴らし、たくさんの無人戦闘機を引き連れたチトセの戦闘機は、躊躇なく魔物の群れに突っ込んだ。


「やっちゃえチトセ!」


 片手を上げたわたしの応援、聞こえたかな?


 チトセの戦闘機と無人戦闘機たちはミサイルと光の弾を連射した。

 73匹の魔物たちは次々に霧と化し、データリンク装置に光る赤い印は一気に減っていく。

 あっという間に魔物の群れは壊滅寸前だ。


 それでも、魔物全体の数と比べれば、73匹なんてたいした数じゃないのだけど。

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