第16話 みんなに褒められた

 平和になった古都上空を飛んでいれば、師匠とエヴァレットさんがやってきた。

 エヴァレットさんは感情を見せずにわたしたちに教えてくれる。


《戦いは終わり、だ。龍騎士団の本隊は、謎のドラゴン部隊の登場で苦戦していた、らしい。ここまで魔物が来たのも、それが理由》


《謎のドラゴン部隊ですかぁ?》


《それ、ウワサなら聞いたことある。異端認定されて龍騎士団を追い出された龍騎士たちが、『紫ノ月ノ民』で部隊を作って飛んでるってね。そんな奴らに苦戦するなんて、やっぱり本隊は弱い連中だったじゃない》


《彼女らはベストを、尽くした。ルミール、うぬぼれるな》


《は~いはい》


 本音だだ漏れの師匠は、エヴァレットさんに怒られて口を尖らせた。

 謎のドラゴン部隊についての話を切り上げたエヴァレットさんは、今度はわたしたちに言う。


《とにかく、よくやった。航宙軍、期待以上の戦果、だったぞ》


「えへへ~」


「がう~」


 英雄に褒められて、さすがのわたしも照れるしかなかった。

 ユリィも満足げに尻尾を振っている。


 そんなわたしたちのそばまでやってきたのは、彼方の空から戻ったフィユだった。


《クーノとチトセはすごいねぇ。もう仲良しだねぇ》


「うん! これでぼっち卒業だよ!」


《ぼっちの自覚、あったんだねぇ》


 そりゃ、ぼっちの自覚くらいはあったよ。

 ただ、ぼっちであることを気にしてなかっただけ。


 フィユがケラケラと笑う一方、師匠は少し遠くからわたしを見つめていた。

 どうしたんだろうと思っていると、師匠の誇らしげな声が聞こえてくる。


《9歳のクーノを龍騎士に誘ったあたしの目に狂いはなかったみたいね。クーノは逸材、あたしが今までに見てきた中で最高の龍騎士よ。最高の問題児でもあるけどね》


「師匠! 褒めるなら最後まで褒めてよ!」


《最後まで褒めたつもりよ。あなたの能力は龍騎士団じゃ問題児になるぐらい、すごいってことなんだから。そんなクーノが航宙軍に配属されてどうなるかと思ったけど、なんだか想像以上にしっくりきてるみたいじゃない》


「うん! わたし、航宙軍でチトセと一緒に飛ぶの、楽しい!」


《なら良かった》


 どことなくお母さんのような口調で笑う師匠。

 そう、師匠はわたしのお母さんのような存在なんだ。

 だからこそ師匠に褒められるのは、実はチトセに褒められるよりも嬉しい。


 嬉しさのあまりニヤニヤしていると、師匠の真面目な声が聞こえてくる。


《クーノの欠点は、釣り合う仲間がいなかったこととアホな性格。でもチトセが登場したことで、欠点はアホな性格だけに。ってことは、もしかすると、チトセと一緒のクーノはエヴァレットよりも……》


「ねえ師匠! なんか、わたしのことアホな性格って言わなかった!?」


《言った。だって事実でしょ。いくらお空大好きでも、魔物と戦う空まで楽しいとか言っちゃう子、アホに決まってるじゃない》


「じゃあじゃあ、師匠だってお空で戦うの大好きなアホだよ!」


《何を今更。私もクーノと一緒のアホですよ~》


「むう……」


 なんにも反論できないので、わたしは頰を膨らませる。

 頰を膨らませていると、地上からの言葉が届いた。


《こちら騎士団。助かったぞ龍騎士団。英雄たちの活躍は当然として、異世界人と、その異世界人と一緒に飛んでいた竜騎士もなかなかの腕前だった。感謝する》


 なんだか今日はいろんな人に褒められるね。

 チトセと一緒に飛ぶ空は、やっぱり楽しい空だよ。


 一連の話が終わると、今度は無線機が鳴りはじめた。

 無線機の向こうにいるのはリディアお姉ちゃんだ。


《2人の戦い、ずっと見てたわよ。まだ一緒に空を飛ぶのは3度目なのに、相性ばっちりだったわね。特にクーノちゃん、すっごく楽しそうだったわ》


「リディアお姉ちゃんの言う通りだよ! わたし、チトセと一緒に空を飛べて、すっごく楽しかった!」


《フフ、もしかするとクーノちゃん、チトセちゃんのことを運命の人だと思ってるわね》


「おお~! リディアお姉ちゃん、超能力者みたい!」


 リディアお姉ちゃんはなんでもお見通しみたいだ。


 ところで、さっきからチトセが一言も発しない。

 どうかしたのかな?

 何かチトセに話しかけてみよう、と思った時、リディアお姉ちゃんが一歩先にチトセに話しかける。


《良かったわね、チトセちゃん》


《何が?》


《はじめてクーノちゃんと出会ってから、チトセちゃんったらクーノちゃんの話ばっかりしてたものね。私、ちょっと妬いちゃったぐらいよ》


《なっ!?》


《そんなチトセちゃんがクーノちゃんとお友達になれて、お姉ちゃん嬉しいわ》


《い、いい、いきなりストレートかますのやめてよ!》 


 なんだかチトセが焦り出した。

 わたしには気になることがある。

 気になることがあるなら、本人に尋ねるしかない。


「チトセ、わたしの話ばっかりしてたの!? ホント!?」


《うっ、ううう、うるさい! 知らない!》


「え~」


 結局、チトセから答えを引き出すことはできなかった。


 まあでも、答えなんてなくても、チトセと一緒に飛ぶ空が楽しいのはたしかなんだ。

 こうして隣り合って空を飛んでいるだけで、わたしは楽しさでいっぱいなんだ。

 なんだかんだわたしの隣から離れようとしないチトセも、きっとわたしと一緒に飛ぶ空を楽しんでくれているんだ。


 チトセ、フィユ、リディアお姉ちゃん、エヴァレットさん、そして師匠と飛ぶ空。

 わたしは今、こんな空が永遠に続けばいいのに、なんて思っていた。

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