勇者さま! 勇者さま! 個性的なお仲間はお好きですか?

黒玲白麗

始まりの街 アスタート編

プロローグ 勇者はこうして生まれた

 俺の名前はルノ。17歳の元村人の現勇者だ。元々俺は前世の社畜サラリーマンの記憶を持っている以外はどこにでもいるようなごく普通の村人だったのだが、何の冗談かつい先日王城にて王様から勇者認定されてしまった哀れな少年だ。


 なぜ俺が勇者認定されたかというと、この世界では15歳になると教会に行き、そこで神様からの祝福を貰い自分の能力値が見られるカードが渡される。


 まあ俺の場合は15歳の時に風邪を引き祝福が受けられず、16歳の時は山に山菜を取りに行った時に運悪く魔獣と出会い走れメロスばりのマラソンを魔獣と繰り広げ、村に帰ったら祝福を授けるのがもう終わっていた。


 だから俺はやっと3回目で異例の17歳で、祝福とカードを貰う事ができた。

 ちなみにカードとは、所有者に最も合っている職業や、神様から貰った祝福の種類や特性を見る事ができる古くから存在する便利な魔道具である。確か初代勇者が作ったんだとか。


 またこのカードには所有者の現在のレベル、体力、筋力、知力、技量、魔力などのステータスが記されており、ステータスの読み方として、低い順からE、D、C、B、A、S、EXとなっており、一般的には村人や非戦闘職は大体E〜Dで、良ければCといったランクであり戦闘職はC〜A、稀にSランクが出たりする事もある。


 まあすっごい努力すればどの職のランクも上がるからあんまり関係ないと思うけど。あと職業は極めると進化する事もあるらしい。


 風の噂によれば昔、近くに住んでいた1つ下の従姉妹のアルンが【魔術師】を【魔導師】に進化させたと聞いたな。


 でも俺はその話を聞いてちっとも羨ましいとは思わなかった。・・・・本当だぞ。まあ何で俺が羨ましがらないかというと職業にもランクが存在する。


 例えば剣を使う職業なら低い順から【剣士】、【騎士】、【聖騎士】、【剣聖】、【剣神】といったランクになっている。


 ちなみ大体の職業はランク1から最大ランク5までが存在する。もしこの中のランク3の【聖騎士】になろうものなら国から仕えないかという打診がくる。


 もしランクが一番低い【剣士】なら衛兵になろうが、冒険者になろうが自分の自由だ。


 だが高ランクの【剣士】の上位互換である【聖騎士】や更に上の【剣聖】はなんかは、大体が国に仕える事になる。だって国から打診されて断ったら後が怖いしね。


 だからなるべく俺は、人生を自由に生きる為に普通の職業がいいな。本当に。前世みたいに上に逆らえない社畜は絶対に嫌だからな。


 そんな事を考えながら教会で祝福を受けて、カードを貰った俺は、職業が【勇者】と書かれていた。


 俺は一度目を擦り、深く深呼吸を3回繰り返して、もう一度カードを見た。しかし無常にもそこには【勇者】と書かれていた。


「はああァァァあー⁉︎」


 俺は思わず叫んでしまった。その叫び声を聞いて駆けつけてたシスターにカードを見られ、勇者と発覚し、国に伝えられ、教会に捕まり、王城で勇者認定を受けて晴れて俺は、勇者になった。


 うん。なっちゃった。


 その時に王様から、魔王を倒して世界を救って! 魔王を倒したら良いものあげる! みたいな事を言われ、支度金としてほんの少しのお金と普通の鉄の剣と地図を渡され、その日のうちにGOサインを出され王城から旅立った。


 つってもいきなりお前は勇者だから魔王を倒せって言われても無理だわ。だって俺、村人だよ? 今まで剣を振った事も、持った事もない村人だよ? なんなら剣を使うよりも、いつも使ってる鍬や鎌を振った方が戦闘力が上がるかもしれない村人なんだよ?


 なのにゴブリンにすら勝てるかどうかの俺に魔王を倒せとか何その無茶ぶり? 俺を殺す気かな? うん。今思うとあの王様、なんか生え際後退してたし、威厳ゼロだし、人類みんな困っているとから言ってたけど、王様見るからに、ふっくりしてたし、指にもいっぱい宝石を着けてたしな。


 ・・・・よし。あの王様、魔王倒したら全力ケツバットの刑に決定だな。とそんな事を考えても仕方がないからまずは、冒険者になろうかな? 


 どうすれば冒険者になれるかわからないからとりあえず地図に描かれている《始まりの街 アスタート》に行ってみよう。RPGゲームとかは大体始まりの街がチュートリアルだったし。


 さて行き先も決めたし、俺は《始まりの街 アスタート》に向けて日が落ちてきて暗くなってくる空を見ながら街道を歩き始める。


 あっそういえばバタバタしていてカードを良く見ていなかったと思いカードを取り出した。


「ステータスオープン」


 ちなみにカードは普段は何にも書かれていない黄色カードだが、所有者が《ステータスオープン》と唱えるとカードに所有者の能力値が見える仕組みになっている。能力値を見えない様にする時は《クローズ》と言えば能力値が消えて、何にも書かれていないカードに戻る仕組みだ。


 さてさて俺の能力はどうかな〜?


「ファ⁉︎」


 カードに書かれた能力値を見ると俺は驚きのあまり暫く呆然となってしまった。

 俺は夢かと思いもう一度カードを見ると、


【名前】ルノ (17)

【職業】勇者

【祝福】???(一定のレベルアップにより解放)

【能力値】

《レベル》1

 《体力》B

 《筋力》B

 《知力》B

 《技量》B

 《魔力》B

【称号】《普通の勇者》

【装備】鉄の剣

【所持品】金貨1枚 銀貨5枚 皮の鞄


 と書かれていた。普通はどんな戦闘職でも、優れた能力値はCから始まるのだが俺は最初から全ての能力値B。普通ではありえない事が書かれていて勇者とはやはり特別な職なんだろう。


 あとこの【称号】の所にある《普通の勇者》とは何かと、《普通の勇者》を詳しく見るとこう書かれていた。


『普通の勇者。何もかもが平凡な人に与えられる称号。またの名を、平凡・オブ・平凡。神に認められし平凡(笑)』と書かれていた。


 ・・・・うん。怒る前にこの【称号】の効果を確かめておこう。どんな効果なんだ?


『【称号】《普通の勇者》の効果は全ての能力値がBから始まる』


 案外しっかりとした効果だな。しかもこれって勇者のおかげで能力値オールBじゃなくてこの【称号】のおかげなのでか。なら怒るのも筋違いかな?


 ってあれ? なんか続きがあるぞ? どれどれ、


『ちなみにこの効果は神の憐れみによって与えられた効果である。別名、神の慈悲(笑) by.天使♡』


 ・・・・? まず神に認められし平凡って何? お前は勇者は勇者でも元村人だからってか? 勇者になっても体から村人らしさが滲み出てますってか? その上、使えそうな【称号】に至っては神に憐れまれて凄い効果貰ったとか、最後に至っては天使絶対馬鹿にしてんだろ! ふ、ふ、ふ、


「ふざけんな! 何でこんな称号⁉︎ 嫌がらせかよ!つーか最後の一言はいらないだろ! あと天使に至ってはいつか絶対ボコす‼︎ それにしても俺、なんか悪い事でもしましたか? 神様‼︎」


 そこはもっと雷鳴の勇者とか爆炎の勇者みたいなカッコいい【称号】が欲しかった・・・・。


 なのについた【称号】は《普通の勇者》。凄い効果も神様の憐れみからの慈悲とかもういろいろと魔王退治始める前からメンタルボロボロだよ。

 

 まだ魔物と戦ってすらないのに味方の援護射撃でフレンドリーファイヤだよ。


「もう村に帰りたい」


 思わず弱音が口から出るくらい疲れたよ。特に精神が。まあ凄い効果をくれたと思えばいいか。


 とそんな風に思考をプラスに変えて気を取り直していつアスタートに着くのかと、そしてどんな街なんだろと頭を切り替えて、まだ見ぬ街に期待で胸を膨らませながら俺は夜の街道を歩いて行く。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

勇者さま! 勇者さま! 個性的なお仲間はお好きですか? 黒玲白麗 @sharurau

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ