第9話 スケープゴート(改)
2013年7月
俺の目の前で季節限定の桃のパフェを嬉しそうにすくっているのは高専の先輩の成瀬真奈美だ。
「季節限定メニューとはいえよく毎日飽きないもんだ。」俺が言うと、
「イヤイヤ、それがまたいいんじゃないですか。」と真奈美は笑う。
彼女は人気マンガ「GANTZ大阪編」のヒロイン「山咲杏」をリアルにした様なコケテッシュかつ高専離れした垢抜けた存在だが同時に「美人の上沼恵美子」と異名を取る位、面白く、周囲の者を飽きさせない。
アスペルガー症候群の一種である俺は女と関係を持つと、同時にいつ別れるかを考えてしまいう難儀な性分のため同じ女とは3月と続かない事が多いのだが、こうして彼女と一年近くも付き合っているのは、真奈美のオープンな性格が気に入っているからだ。
そして彼女が始終ご機嫌なのは先週、千葉大のデザイン科への編入試験に合格してからというもの断っていた好物のフルーツパフェを毎日の様に食しているからだ。
俺達の通う《高専》は一般的には5年制の工業高校の様なところをイメージしがちだが、高校との一番大きな違いは「高専」が大学と同じく高等教育機関である事だ。
そのため高校とは違い校則らしき縛りは殆どなく、服装も自由だ。また1年次よりバイク免許を取得して、かつバイトをする者もいたりする反面、留年率が2割と高校と比べて高いのもまた然りで、自己管理さえできれば何をしていても特に何も言われない。
だが、4年生となり、研究や実習で忙しくなる頃になると、中学時代に自分よりも下位の成績だった者が指定校枠やAO入試で有名大学に入り、青春を謳歌する様子を見るにあたり、選択を誤ったと嘆く者も出て来る。
だが嘆く必要はない、高専では成績上位者には「殆どの国立大学」に比較的楽に編入する道が開かれており、東大でさえも毎年、十数人の編入生を受け入れている位だ。
大学編入試験の時期は卒業研究との絡みもあり、春から秋にかけて行われるのが一般的であり、また受験科目も少ない。要は大学の授業についていけるかどうかを見る為の試験になるからだ。
因みに真奈美が合格した千葉大工学部の編入試験の受験科目は数学と英語の口頭論述のみで、出願時にTOEICのスコアシートを添付するだけだった。
また一緒にTOEICを受けた俺のスコアが965点と彼女よりも200点近く高かった事に真奈美は悔しがったが、アメリカ留学中には電磁波の人体に及ぼす研究で、高校生科学フェアで最優秀賞を取った事で、複数のアメリカの大学から奨学金付で誘いの来ている俺としては、来年度このまま高専に残るか、アメリカの大学に行くか大いに悩ましい所だ。我が敬愛する池上遼一師匠のクモ男を描いた漫画では輸血によって主人公の持つ超人的な能力が、他人に転移するという設定があり、時間経過と共にその能力の効果が切れ、輸血を受けた人物が生命力を使い果たして死ぬという話があったし、またダニエル・キイスの古典SF「アルジャーノンに花束を」でも知覚障害のある男性に、知能向上手術を行い、一時的に天才となった青年が最終的に、バットエンドを迎えるという話があるが、サソリの能力を得たとはいえ、それがいつまで続くのかわからないし、生まれながら脳神経に奇形のある俺の場合も色々考える時がある。
この後、真奈美と共に四十九日を終えた真奈美の叔父のマンションに向かった。
真奈美の叔父は自衛隊の幹部で先々月のGWの深夜、参議院会館での会合より帰宅する途中、見通しの良い国道を横断中にバイクに撥ねられて帰らぬ人となっていた。
加害者は世田谷区に住む無職の中年男性だったが、深夜の議員会館に無職の男がどんな用事があったのか不思議だが、当人も何も覚えていないと言う事だった。
同じ会合には親父も参加予定だったが、俺の虫の知らせによる仮病によって、その会合をパスしたことは不幸中の幸いだったと言えるだろう。
実際、ここ最近、国家公務員の不審な死が相次いでおり、ネットなどでは、しきりに陰謀論が展開されているが、どう言う訳か知らないがこの件についてマスコミでは殆ど取り上げようともしない。
実は俺の親父と真奈美の叔父とは古い知己でありまた良きライバル関係にあった。
真奈美の叔父が購入していたマンションは元麻布の中国大使館に近い坂の中腹に位置し、ルーフバルコニー付100平米の3LDKの南東角部屋だった。
また引越ししたばかりのマンションには5000万円のローン残債が残っていたが、無事ローン保険でそれが相殺されたためか、真奈美の叔母はホッとしたと言っていたのが印象的だった。
ただ叔父が大事にしていたマニュアルミッションの古いBMWだけは流石に叔母も要らなかった様で、真奈美が形見分けとして貰う事になった。
その車は俺と同じ1995年式のBMW320iS、バブルの頃に六本木のカローラと呼ばれたボクシーなセダンだ。
そしてボンネットを開くとBMWのMパワーと記されたエンジンカバーが姿を現す。初代M3のエンジンを南欧の税制規制に合わせ4気筒2000cc以下にディチューンしたエンジンを搭載した物を叔父が欧州から持ち帰ったモノだった。
5ナンバー枠の車の方が狭い都内では取り回しがし易いと言う事、BMWの地元であるバイエルン州は古代ローマ帝国の領内だった為、BMWはドイツ車でありながらラテン気質だと生前叔父は嬉しそうに語っていたと真奈美は言うが、電子制御のハリボテみたいな車が増える中、この旧車は俺の好みにも合っていた。
夢の島のマリーナまで真奈美に送ってもらう。
真奈美のとこの親父サンがクラッシックなMGBを所有しており、真奈美もミッション車には慣れており、首都高を新木場迄スムーズに走らせ、夢の島のマリーナに車を運んだ。
一応マンションには盗聴器が仕掛けられて居なかったが、俺は念の為、車も調べてみたが異常はない。
そして敵勢力の本来の狙いは親父だったのだが、当日ドタキャンをして不在だったところを同じ位の背格好の真奈美の叔父が現場近くを歩いていた事から間違って殺したというのが、俺の見解だった。
何故ならやろうと思えば俺にも同様な事が出来るからだ。
アメリカで反日活動の調査をしていた如月蜜子をレイプしようとしていた韓国系アメリカ人に遭遇した俺は突然、奴を俺のコントロール下に置ける様になり、そのまま下半身剥き出しのまま、走っているバスに突っ込ませた事がある。
俺と同じタイプが居るのか、それともマインドコントロールの為の新兵器があるのかはわからないが、これまで万能感に溢れる超人だと思い込んでいた自分が、実はとても小さなそして無力なのだと知った。
サソリ男 ボン @bon340
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