実食ロシアン!



「じゃあ、さっそく食べようよ。そのかわり、一回、手にとったのは必ず完食ね」

「よし。和牛は兄ちゃんのものだ」

「おれも負けへんで」


 能天気な僕らと違い、何やら真剣な表情の蘭さん一人。二人も三人もいるわけないけど、蘭さん一人。


 ここからしばらく、蘭さん視点だ!


(現時点でのおむすびの数は二十。僕らは四人。一人五つの計算か。かと言って、五つも食べる必要はない。僕は二つで充分。なんなら夜ご飯まで我慢して、今は一つでもいい。ということはイチゴジャムをとる確率は十分の一、または二十分の一! 勝負は最初が肝心だ!)


「いただきま〜す」

「いただきま〜す」

「もらうでぇ」


(ハッ! しまった。これで残りは十七個。八.五分の一、または十七分の一!)


「ああ、うまかった。高菜だったな。じゃあ、次!」

 ペロリと一個めをたいらげた猛が言う。


(は、早いッ!)


「兄ちゃん、ちょっと落ちついて食べなよぉ。おむすびは逃げないよ?」

「にぎり飯は逃げないかもしれないが、和牛はとられる!」


「まあ、そうだけど。ああ、僕はオカカだぁ。並だな」

「おれは……シャケやな。シャケフレーク」


 一個めの具を開示しあう、かーくんと鮭児けいじ(三村)。


「鮭児、引き強いなぁ」と、笑うのは猛。

 かーくんが補足する。

「シャケは当たり。当たりはほかに鷄そぼろとツナマヨがある」


「並は?」

「オカカと高菜と塩昆布。数がいっぱいあるんだ」


「三個め。あっ! 鷄そぼろだ!」


(えっ? 三個? いつのまに?)


「よかったね。兄ちゃん。念願の肉。僕は二個め。ええっ? またオカカ?」


(は……速すぎる! 二口で一個のペース! 完全に出遅れた……)


 あわてるうちにも次々と消えるおむすび。流れるがごとし!


「あれ? 蘭さん、食べないの?」


 ふと気づいたように、かーくんがたずねた。三村と猛もおむすびに手を伸ばしながら、


「早よ食べんとなくなるで」

「そうだぞ。いらないのか? 四個め。ああ、塩昆布かぁ」


(か、確率が……確率……くすん……)


 ポロリと涙がこぼれる蘭だった。


「あはは。なんで泣くんだよ。変なやつだなぁ」


 ゴゴゴ……。

 蘭のなかで何かが壊れる音。


「あなたのせいです!」

「ら、蘭が怒った!」


 そのときだ。かーくんがこんな提案をしてきた。


「蘭さん、イチゴジャムが怖いんだね? わかったよ。じゃあ、僕が手にとったやつを半分に割って、片方を蘭さんにあげるよ」

「えっ? ほんと? いいの? かーくんが天使に見える」

「うん。そのかわり、ジャムが出ても半分こね」

「いりません!」

「ああっ、買収失敗!」


(買収……買収か。その手があった!)


 キラーン。

 蘭の目が光る。(あっ、視点人物には見えないはずだけど。まあいっか)


「猛さん。僕と手を組みましょう」

「えっ? どうするんだ?」

「僕のとったおむすびが和牛だったら、猛さんにあげます。そのかわり、イチゴジャムが出ても食べてください」

「いいよ」


 猛、即決!

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