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 *


 そして出勤日二日目にして青年はあろうことか、


 「ぼく、ここに住むことにしたんです!」


 「はぁ⁉︎」

 毛布と愛用のマグカップを研究室に持ち込んできたのである。


 いやいや、ありえない! たしかに研究室を根城にする学生も少なくないが、彼がここに寝泊まりなんて、目の届かないあいだになにをしでかすかわからない。


 研究室には数種の希少な高山植物が、ことにタカーイカールの固有種、ベニツガザクラの原種であるアカツガザクラが栽培されている。

 万が一にでもティーカップをわる気安さで温室に手をだされたらそれこそ世界紛争だ。


 「この研究室では、その…寝泊まりは認めない」

 「だって、帰るとこないんですよ、ぼく、あ! じゃぁキャンプします! あ、でもテントがないなぁ、まだ夜は寒いし、」

 「キャンプ⁉︎」


 いつ空襲があるかもしれない。野宿など正気の沙汰ではない。


 「大学の、あの、教会の裏なら、」

 「キミ、家に帰りなさい」

 「家なんてないですよ、だってここにくる、て、決めたんですから!」


 履歴書の住所はにせものなのか⁉︎

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