bitter chocolate

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 「この学生は数学科じゃないですか。うちは生物の、しかもフィールドの研究室ですよ?」




 渡された履歴書のコピーに、博士は思わず眉根をよせた。


 それに、人事課長が相変わらずな仕事用の笑顔で応える。彼がこの顔をするとき、それはこの決定に意見の余地がないことを示している。


 「申し訳ありません、先生。なにしろ学生不足なんです。このたびの紛争はおもいのほか長引いていて」


 博士は思わず舌打ちした。

 「この国の未来を担う若者たちだ」

 いま助手公募をかけたのだって、ついこのあいだやってきたばかりの学生が徴兵されたからなのだ。


 「まぁまぁ、先生。たまには畑違いのニンゲンに接してみるのも大切です」

 有無をいわせぬ笑みで、痛いところをついてくる。これだから、


 「少なくとも彼は、先生のその人間ぎらいを治すくらいは留まることができるでしょうから」


 ……これだから、経営科のニンゲンはきらいだ。


 「なにしろ、兵役免除ですから」

 「免除? なにかしでかしたのか?」


 一抹の不安が過ぎる。


 「いやぁ」

 人事課長はにこやかに微笑んだ。


 「未来を担う若者だから、でしょう」

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