我が家に猫がやってきた
月代零
猫と暮らせば
隣の部屋がうるさい。もう耐えられない。
……引っ越そう。
それが、猫を飼うことになったきっかけだった。
以前から、いつか猫と暮らしたいという漠然とした憧れはあったが、いつ実行するかなどは、全く考えていなかった。
転機は2020年の4月、新型コロナウイルスが猛威を振るい、緊急事態宣言が出された頃だった。
誓って言うが、「巣ごもりの時間が増えたからペットを飼おう」という、流行りのアレではない。
始まりは、当時住んでいたアパートをを引っ越そうと決意したことだ。
その部屋に住み始めた当初から、隣からはしばしば騒音が聞こえてきた。壁が薄いというのもあったが、主に夜中から明け方にかけて、テレビや音楽、ゲームのBGMなどがシャカシャカ聞こえてくる。
そして、最も耐えがたきは大声で歌われる歌だった。
その歌は、某国民的青い猫型ロボットのアニメに出てくる、かのガキ大将キャラのような、音程を外しまくった、騒音としか呼べない代物だったのだ。高音を出せない男のくせに、キーの高い女性歌手の歌を歌うんじゃねえよ。
隣の住人は、緊急事態宣言が出されてからずっと家にいるのだろうか。その騒音が、毎日のように昼夜問わず聞こえてくるようになった。(作者はサービス業に従事しているので、平日昼間に家にいることもある)
管理会社にも何度か訴えたが、全く改善されない。
うるさくて眠れない。
緊急事態宣言下でも、こちらはいつも通り仕事に行かなければならないのだ。寝不足で苛立ちを抱えたまま出勤し、またあの歌を聞かなければならないのかと、どんよりした気分で帰宅する。
やがて緊急事態宣言は解除され、騒音の頻度も減ったが、それでいいというものでもなかった。もう耐えられない。
かくして、その部屋を引き払うことにし、引っ越し先探しを開始した。
軽量鉄骨と木造はダメだ。いくら家賃が安かったとしても。どんな隣人に当たるかはガチャでしかないが、ハズレでも耐えられる壁でなくては。引っ越し代だってバカにならないし、長く住める部屋を探そう。
そうだ、どうせならペットを飼える部屋にして、憧れだった猫との暮らしをしよう。
そうして、ペット可の物件に引っ越し、猫を迎えた。
もちろん、事前に本などで猫の買い方を勉強した。必要なものを揃え、動物病院の場所もチェックした。
ペットショップで買うのではなく、保護猫をお迎えしよう、というのは当初から決めていた。。
保護猫とは、何らかの理由で飼い主がおらず、保護された猫のことである。捨て猫や野良猫、多頭飼い飼育の崩壊、ネグレクトや飼い主の病気など、理由は様々だが、皆ずっと安心して暮らせる家を探している。
ペットショップで買うのと比べると、保護猫は自分の好みの猫がいるか、選択肢が狭まる。だが、うちの場合は「猫を飼いたい」という前提があるだけで、柄や品種などに特にこだわりはなかった。
何かのきっかけでツイッターでフォローしている、保護猫活動をしている方のアカウントがあった。その方は、里親募集をしている猫たちの日々の様子や性格などを発信してくれていて、猫の飼育経験がない私でも、猫との生活がイメージしやすかった。
そして、この子なら猫飼い初心者でもいけるんじゃないかと目星をつけた子に施設で面会し、トライアル期間を経て、正式に我が家に猫がやって来た。
実際に飼ってみると、猫は思った以上に可愛かった。写真で見たり、猫カフェで愛でるのとはまた別格だ。うちの子が一番。
しかし、可愛いだけではない。生き物と暮らすことは、予想以上に大変なこともある。ウンチは臭いし、病気になったらお金がかかる。その点は覚悟が必要だ。
それでも、やっぱり可愛い。毎日ご飯をあげてトイレの掃除をして、近くで見ていると、引っ掛かれてもシャーシャー威嚇されても、可愛く思えてくる。
猫は良い。もふもふした毛並み、つぶらな瞳、柔らかくて温かい身体。全てが尊い。
うちの猫は、甘えたり膝に乗ったりはしてこない。機嫌が悪ければシャーシャー怒って、猫パンチをかましてくる。それでも可愛い。そこにいてくれるだけでいい。
猫は良い。全ての猫に幸あれ。
我が家に猫がやってきた 月代零 @ReiTsukishiro
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