第7話 怪盗&探偵の会話
「さて……『珍しい宝石ばかり狙う泥棒』か……。どうやって調べようか?」
「そうね……。とりあえず、パソコンで調べてみましょうか」
エピカはそう言ってキーボードをカタカタと操作する。
俺たちは、昨日アクシオから頼まれた宝石泥棒について、調査を始めることにしたのだ。
「何か見つかったか?」
「うーん……それが、あまりめぼしい情報は出てこないのよね……」
エピカはそう言いながら、マウスを操作する。
「……そうなのか?結構有名どころの宝石だと思うけど……」
「ええ……。やっぱり、情報が規制されてるのかしら……」
エピカはそう言って、ため息をついた。
「まあ、仕方ないか……。……そういえば、珍しい宝石って例えばどんなのがあるんだ?」
「ストノス、知らないの?あんなに原石好きなのに……」
「……まあ、俺が興味があるのはあくまでも原石だからな。珍しさとかは、特に気にしてなかったんだよ」
「どこまでも原石バカなのね……。呆れたものだわ」
エピカはそう言って、またため息をつく。
「悪かったな……。それで、何があるんだ?」
「えっと……『世界三大希少石』っていうものがあるんだけど……」
「ほう……」
***
俺はエピカから『世界三大希少石』について教えてもらった。
まず一つ目が、『アレキサンドライト』。
これは俺もよく知る宝石だった。昼と夜の光によって色が変わる不思議な宝石だ。昼はグリーン、夜は暗赤色になる。
珍しい宝石だとは知っていたが、ここまでとは……。確かに、これなら狙われてもおかしくはないな……。
二つ目に選ばれたのは、『パライバトルマリン』だ。
この宝石は蛍光ブルーの輝きが特徴なんだが、なぜ選ばれたかというと、その希少性にあるらしい。
なんと、産出量が極端に少ないらしく、市場に出回ることは滅多にないんだと。……なるほどなぁ……。この宝石が選ばれるのは、納得だ。
そして三つ目は、『パパラチアサファイア』。
サファイアといえばブルーが有名だが、パパラチアサファイアはピンクとオレンジの中間色をしている。
これもまた、産出量の少なさが『世界三大希少石』に選ばれた理由らしい。
「へぇ……。そんなに貴重な宝石があったのか……。知らなかったな」
エピカから一通り説明を聞いた俺は、素直に感心していた。
「あなた、本当に原石にしか興味がないのね……。もっと他のものに目を向けなさいよ」
エピカはそう言って、やれやれといった表情を浮かべる。
「いや、お前にだけは言われたくないぞ……」
俺はそう反論したが、エピカは「私はいいのよ」と言って取り合わない。……まったく、どういう理屈だよ……。
「とにかく、この『世界三大希少石』が狙われる可能性は高そうね」
「ああ。俺もそう思う」
俺は深く同意した。
「となると、私たちはその宝石がある場所に先回りして、宝石泥棒さんが盗みに来るのを待った方がいいのかしら?」
「そうだな……。でも、そうするとなると、人手が足りなくないか?アレキサンドライトは盗まれてるにしても、残り2つを俺たち2人で守らないといけないわけだし……」
俺がそう尋ねると、エピカはビシッと俺を指差してきた。
「そこは、探偵さんたちに協力してもらえばいいのよ!あっちも2人いるんだから、各宝石に2人ずつ配置すれば、大丈夫でしょう?」
「なるほど……」
俺は納得する。確かに、その方法なら問題ないな……。
「よし。じゃあ、早速連絡を取ってみるか……」
俺はそう言ってみたものの、問題に気がついてしまった。
……いや、どうやって連絡をとればいいんだ?あいつらは探偵で、俺たちは怪盗だ。怪盗の姿のまま外を出歩く訳にはいかないし、だからといってこの姿のまま会いに行っては、正体がバレてしまう……。
俺は頭を悩ませたが、とりあえずアクシオの探偵事務所に電話をかけることにした。……声だけでは、俺が『怪盗スクリーム』か『ストノス』かまではわからないだろうしな。
──プルルルッ……ガチャ!
『はい。こちらザフィーア探偵事務所です』
電話に出たのは、アクシオの声だった。……どうやら、本人が出たみたいだな。好都合だ。
「アクシオか?俺だ」
『おおっ!?その声は……まさか……怪盗スクリーム?』
「ああ、そうだ」
……アクシオは、俺を怪盗スクリームだと判断したらしい。
『それで、お前から連絡をよこすということは……宝石泥棒について、何かわかったのか?』
「ああ。作戦を思いついたんだ。……そこに、助手もいるか?」
『いるぞ。……おーい、レイア!』
電話越しに、アクシオが誰かを呼ぶ声が聞こえる。
『はいっ!何でしょうか!アクシオさんっ!』
元気の良い返事が聞こえた。どうやら近くにいたらしい。
「ちょうどいいな。これから作戦を話す。電話をスピーカーにしてくれないか?」
『わかった。……したぞ』
「よし。それじゃあ、話すぞ……」
***
俺はアクシオたちに、宝石泥棒が『世界三大希少石』を狙うだろうということ、そしてその宝石のある場所に先回りして待ち伏せするという作戦を伝えた。
「……という感じで、どうだろうか?」
『ふむ……。悪くないな。2人ずつであれば、捕えられる可能性も高くなるだろう』
「それで、その配置なんだが……。俺とお前、ガーネットと助手の嬢ちゃんが組んで行動するのがいいと思うんだ」
『……それでも構わないが……。女性2人が組むことになると、宝石泥棒が男だった場合、危険ではないか?』
アクシオの言葉に、俺はハッとした。……確かに、それだとガーネットたちが危ないかもしれない。
ガーネットも助手の嬢ちゃんも、運動神経は良いから大丈夫だと思うが……。
「……そうだな。……なら、ガーネットと嬢ちゃんは別々の宝石を守ってもらうか。お前がガーネットと、俺が嬢ちゃんと組もう」
『それがいいな。……では、そうしよう』
「じゃあ、そういうことで頼む。実行はいつにする?俺たちはいつでも大丈夫だ」
『そうだな……。いろいろと具体的な段取りも決めた方がいいだろうし、一度会って話さないか?……僕の事務所は夜なら誰も来ないから、そこで』
「了解。じゃあ、今夜行くよ」
『ああ。待っている』
俺はアクシオの返事を受け取って、電話を切る。
「……ふう。これでよしっと」
「今日の夜、探偵さんたちのところへ行くのね。……フフッ、ちょっと楽しみだわ♪」
俺の隣で聞いていたエピカが、嬉しそうな声で言った。こちらもスピーカーにしていたから、会話の内容はわかっていたようだ。
「そうか?まあ、それは俺も同じだけどな……。……さてと、『パライバトルマリン』と『パパラチアサファイア』がある場所を調べておかないとな」
「そうね。ちょっと待ってて……」
エピカは閉じていたパソコンを再び開くと、カタカタとキーボードを操作する。
「……あったわ!」
「早いな……。どこにあるんだ?」
「えっとね……。まず、パライバトルマリンがあるのは、この博物館ね」
エピカが画面を操作しながら言う。
「『シーニー博物館』か……。ここからは、少し遠い場所にあるんだな」
「そうみたいね……。警備体制も、かなり厳重みたい」
「なるほど……」
画面を見ると、警備員が何人も配置されているのがわかる。
「パパラチアサファイアの方は、ここにあるわ」
エピカはそう言って、別のページを開く。
「『ローゼオ博物館』か……。こっちの方が、ここから近いな」
「ええ。……でも、両方とも『世界三大希少石』だけあって、どちらもセキュリティーは厳しいみたいね」
「そうだな……。それでも、同じ条件のアレキサンドライトは盗まれたんだから、その宝石泥棒はよっぽど手慣れているのかもな」
俺はそう言って、腕組みをする。
「それでも、きっと私たちなら勝てるはずよ!なんといっても私たちは、『怪盗ガーネット&怪盗スクリーム』なんだから!」
エピカは自信満々といった様子で言う。
「はは……。確かに、その通りだな」
俺はそう言って苦笑する。
「まずは、今夜の準備よ!それじゃあ、準備に取りかかりましょうか!」
エピカはそう宣言すると、勢いよく立ち上がった。
「おう!頑張ろうぜ!」
俺も続いて立ち上がる。
……こうして俺たちは、今夜の作戦に向けて準備を進めていったのだった。
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