第7話 翠玉の休日、蒼玉との遭遇
これは、エピカが高校へ行っている日の、ストノスのとある一日。
「さーて、今日はどうすっかな……。」
俺は、部屋でパソコンをいじっていた。
今日は庭師の仕事も休みだし、部屋でのんびりするのもいい。だが、ただいるのも暇なので、何か面白いことをしようと考えていた。
「そうだ……。どっかで原石の展示をやってないか、調べてみるか。」
俺は検索サイトで、宝石展の情報を調べていた。
「おっ……。こことか面白そうじゃないか?」
俺が見つけたのは、『クリスタルミュージアム』という博物館だった。
「よし……。行ってみようかな……。」
そう呟くと、俺は早速出かけることにした。
***
「ここが博物館……?なんか、思ってたのと違うな……。」
俺が辿り着いた場所は、ガラス張りの建物だった。中を覗いてみると、様々な美術品が置かれていた。
(へぇ……。これが有名な画家の絵なのか……。)
(おぉ……。こっちには彫刻もあるぞ……。)
……まぁ、俺の目当てはコレだけなんだけどな。
俺は原石の展示コーナーへ向かう。そこには、様々な原石があった。
「……綺麗だ。」
思わずそう口にしていた。
(……これを、全部加工してみたら楽しいだろうな)
そう考えるとワクワクしてくるな……。
……って、何考えてんだよ……。ダメだな……。最近、怪盗の仕事ばっかりしていたせいで、盗むことしか考えられなくなっちまった……。
俺はため息をつく。そして、展示されている石を見ていた。
(……これなんか、エピカが好きそうだよな)
エピカの顔を思い浮かべながら、俺は微笑んだ。
(……って!いけねぇ!怪盗の仕事しに来た訳じゃねぇだろ!)
……ったく、しっかりしろよ!俺は頭を振って、気持ちを整理しようとする。だが、本能にも近い欲望を抑えることはできなかった。
(……ちょっとなら、いいよな……?)
そう自分に言い聞かせつつ、一旦博物館の外に出る。変装するためだ。
俺はエメラルドグリーンのカラコンを付けて、服装も別のものに着替えた。ちなみに服は、その辺の店で店員に勧められたものをそのまま買ってきたものだ。……普段着とは全く違った雰囲気のものばかりだったが、まあいいだろ。
そして、再び建物の中に入り、展示品を見るフリをしながら、辺りの様子を窺う。すると、警備員らしき人物が二人いた。
(……よし、アイツらにしよう。)
そう決めると、足音を立てずに素早く近づき、二人の首筋に手刀を食らわせた。二人はその場に倒れ込む。
それから、近くにあったロープで両手を縛り上げた。
その後、二人が持っていた展示ケースの鍵を拝借する。これで準備完了だ。我ながら、こういうことが上手くなっている気がする……。鍵をポケットに入れ、その場から離れる。
(……さて、原石を頂きに行きましょうかね……。)
そう思いながら展示コーナーへ向かう。
無事にたどり着くと、俺は原石を物色する。
(どれにするかな……)
しばらく悩んだ後、一つの原石を手に取る。
(これにするか……。)
そう決めた時、後ろから声をかけられた。
「おい!お前!何をしている!」
振り返ると、そこに立っていたのは、見知った顔の人物だった。
(げっ……!コイツは……!)
俺は記憶を辿る。サファイアブルーの瞳……。探偵……。確か、コイツの名前は……。
「探偵アジシオか!」
「違う!探偵アクシオだ!」
おっと、そうだった。アクシオだった。
「……で?アクシオさんは、こんなところで何をしてるんだ?」
「それはこっちのセリフだよ……。」
「……見ての通り、原石の鑑賞をしてるだけだぜ?」
「嘘つけ!この泥棒野郎!……さてはお前、『怪盗スクリーム』だな!」
……バレちまった。こいつはヤバい。どうすっかな……。
「……人違いじゃないのか?」
「とぼけるな!原石を盗む奴なんて、怪盗スクリームくらいだろう!」
……こうなったら、逃げるが勝ちだな。
俺は変装を解いて言った。
「はっはっはっ!……バレたら仕方ない。ここで捕まるわけにはいかないんでね!」
「待て!逃がさないぞ!」
「誰が待つかよ!」
俺は、アクシオを振り切るために全力で走った。だが、奴はめちゃくちゃに足が速かった。……これ、前にもあったな。
「なんで追いかけてくるんだよ!」
「当たり前だろう!」
(ダメだ、このままじゃ捕まっちまう……。この前はどうやって逃げたんだっけか……?)
俺は再び記憶を辿る。確か、この前はガーネットが助けに来てくれたんだったな……。
そんなことを考えていると、アクシオが言った。
「おい、今日はガーネットは一緒じゃないのか……?」
「……あぁ?」
ちょうどガーネットのことを考えていた俺は、アクシオの言葉に思わず立ち止まる。アクシオも立ち止まった。どうやら捕まえる様子はないようなので、話を聞いてやることにした。
「今日は、ガーネットはいねぇぞ。」
「なぜだ?」
「なぜって……。」
……ガーネットは学校に行ってるなんて、正直に言えるはずもない。俺は適当にごまかす。
「ガーネットは……。あー…あれだ、用事があって、ここには来れないらしい。」
俺が答えると、アクシオは首を傾げた。なにやら少し残念そうな顔に見えるが……。
「へぇ……。そうなのか……。」
「あぁ……。……というか、お前んとこの助手もいねぇな。どうしたんだ?」
俺は思ったことを聞いてみた。すると、アクシオは慌てた様子で答えた。
「えっ!?助手……?い、いや……助手は、今日は休みにしたんだ!」
怪しいが、まあいいか。それより、なんでコイツはそんなにガーネットにこだわるんだ……?
「ふーん……。……で?それがどうかしたか?」
俺が尋ねると、彼は目を泳がせながら言う。
「いや……別に……。ただ、ガーネットがいないと、張り合いがないと思ってな……。」
「へえ……。」
……そういえば、この前はガーネットがコイツに何か言ってたな。目……?が綺麗だとか……。
「なぁ、この間はガーネットに何言われたんだ……?」
俺が聞くと、アクシオは驚いたような顔をした後、急に真っ赤になった。
「な……!なにって……!そ、そんなこと、君に話す必要はないだろう……!」
……なんだ、その反応は。……はは~ん、コイツ、ガーネットに惚れてんだな?
面白そうだと思った俺は、さらに突っ込んでみることにする。
「へぇ……。でもよぉ……。アイツは、やめといた方がいいぜ?とんだお転婆娘だからな。」
俺はニヤリと笑ってみせる。すると、アクシオはさらに動揺し始めた。
「な、ななな何を言うんだ!僕は、そういう意味で言ったんじゃなくてだな……。」
うわ……。分かりやすいな……。でも、これは使えるかもな……。俺は、アクシオをからかうことにしてみた。
「じゃあどういう意味だ?アイツのどこに惹かれたって?」
……我ながら、性格が悪いと思う。だが、面白いものは面白いのだ。
「ぐ……。」
案の定、アクシオは言葉に詰まっていた。俺は追い打ちをかける。
「ほれ、教えろよ。」
俺が詰め寄ると、アクシオは観念したように話し始める。
「……その……。彼女の瞳が……。」
「瞳?」
「……とても澄んでいるように見えたから……。宝石みたいに綺麗だなって思って……。」
……なるほどな。確かに、アイツの瞳は引き込まれるようなガーネット色をしている。……それはカラコンだが。
「……それで?お前は探偵なんだろ?ガーネットは捕まえる対象のはずだ。捕まえてどうすんだよ。」
「それは……っ。その……。こ、更生させるんだ!怪盗なんか辞めさせて……!」
俺は思わず吹き出してしまった。
「ぷっ!……あっはっは!無理だろ!アイツは怪盗を辞めねぇよ!……それに、お前じゃ絶対に勝てねぇしな。」
すると、アクシオの顔つきが変わった。
「……君はガーネットの何なんだ!」
「何かって?それは、相棒さ。」
「……っ!」
俺は、挑発するように言い放つ。
「……お前こそ、本当にガーネットのことが好きなのかよ。」
「……なに……っ!」
「お前は探偵だろ?なら、自分の気持ちくらい自分で推理しろよ。……じゃあな!」
「ま、待て!話はまだ……。……っ!」
俺はアクシオの言葉を背に、その場を去った。
………そんなスクリームの手には、赤黒い原石……ガーネットの原石が握られていた。
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