第6話 柘榴石の不運な一日

「それでは、いってらっしゃいませ。エピカお嬢様。」

「ええ。それじゃあ、また帰りにお願いね。」


 私はそう言って車を降りると、高校へと向かう。

 私は、怪盗でありながら、普通の女子高生でもあるのよ。


 私の通う学校は、ミッション系の女子校で、制服が可愛いから通っているわ。

 まぁ、成績さえ維持すれば服装に関してはうるさくないし、何より自由なところが良いわよね!


私が学校に着く頃にはもう既に何人かの生徒が集まっていた。

 私の友人達だ。


「おはようございます。エピカさん!」

「おはよう。皆さん。」

「今日も素敵な髪型ですね。」

「ありがとう。あなたこそいつも素敵じゃない。」


 この子は、リアム。

 綺麗な銀髪を三つ編みにしてて、とても可愛らしい子よ。

 でも、ちょっとドジっ子なところがあるけれど……。


 そんな話をしているうちに、先生が入ってきて、ホームルームが始まったわ。


***

 休み時間。私はリアムと廊下を歩いていた。すると……ドンッ!!

誰かにぶつかってしまった。


「きゃっ!!」

「あら?ごめんなさい。大丈夫かしら?」

「あっ……はい……」

 どうやら転んだみたいだけど、怪我はないみたいね。良かったわ。


 するとそこへ……


 ──『そこっ!廊下を走ったら危険ですよっ!』


 ……あら?この声、どこかで聞いたような……。

 振り向くと、そこにはクラス委員長の姿があった。


「委員長……」

 私が呟くと、ぶつかった子は慌てて委員長に謝った。

「すみません……!急いでいたので……」

「次からは、気をつけてくださいねっ!」


 委員長は、瓶底メガネを指で押し上げながら注意した。

彼女は、私と同じクラスの委員長よ。名前は……、いつも『委員長』って呼んでるから、ちょっと出てこないわ……。


 すみれ色の髪の美人さんだけど、真面目過ぎる性格で、たびたび空回りしていることもあるの……。

 ちなみに、眼鏡を外すと美少女だとかなんとか噂されているけど真偽は不明よ。


 その後、私たちは教室に戻ったわ。


***

 次の授業は、担当の先生が急にお休みになったから、自習だったわ。

 私が、ノートを開いて勉強していると、隣の席のリアムが話しかけてたわ。


「あの……エピカさん。ここ教えていただけますでしょうか?」

「えぇ、いいわよ。ここはね……」

 私は、彼女に数学を教えていると、ふとあることを思い出して聞いてみたわ。


「ねぇ、そういえば、あなたの家って確か、有名な資産家だって言ってなかったかしら?」

「はい。そうなんです。」

 彼女の家は、大金持ちの家柄らしく、彼女自身もお金には困っていないと言っていたわ。私と同じような感じね。


 私は、彼女の質問に答えながらも、内心では少し焦っていたわ。

(彼女の家に、盗みに入ったことはないけど……。下手なことをしたら、まずいわね……。私の正体がバレてしまうかもしれないわ。)

 そう思いつつ、彼女を安心させるように微笑みかけたわ。


「だからと言って、あまり無理しちゃダメよ?何かあった時は相談に乗るわ。」

「エピカさん……ありがとうございます!」

 そう言うと、彼女は嬉しそうに笑った。そして、また私に質問してきた。


「そういえば、エピカさん。『怪盗ガーネット』って知ってますか?」

「………っ!?」

 リアムの思いがけない質問に、私は動揺しそうになってしまったわ……。


「い、いえ……。知りませんわ……。」

私は平静を装いながら答えると、彼女は残念そうに言った。

「そうですか……。私、怪盗ガーネットに憧れてるんですよ!」

「へ、へぇ……。」

 私は、冷や汗を流しながら相槌を打つことしかできなかったわ……。


「怪盗ガーネットは、盗んだものを、きちんと持ち主に返すんですよ!……なんか、素敵ですよね!」

 リアムは、少し興奮したように話していたわ。


「そ、そうね……。」

「私も、いつか会ってみたいです……。」

「きっと、素敵な方なんでしょうね!」

「……っ!!」

 私は、思わず息を呑んでしまったわ……。


「どうかしましたか?エピカさん。」

 ……いけないいけない、平常心よ。私は、深呼吸をして気持ちを落ち着かせたわ。

「い、いいえ……。なんでもないわ。」

「そうですか……。」

 リアムは不思議そうに首を傾げていたわ。


(危なかったわ……。彼女はドジっ子だから、バレたりしたら……。)

 私は想像してゾッとしてしまったわ。

 もし、怪盗ガーネットの正体が私だって世間に知れたら、どうなるのかしら……? 考えただけで恐ろしいわ……! 私は、頭を振って嫌な考えを振り払ったわ。


 今は、とにかくこの場を乗り切ることを考えないと……!

 私は、何とか誤魔化そうとしたわ。すると、どこから聞いていたのか、委員長が話に入ってきたの。


「…そこっ!私語は、いけませんよっ!……ですが……あなたたち、怪盗の話をしているのですかっ?そんな話より、『名探偵アクシオ』さんの話をしましょうよっ!」

 彼女は鼻息荒く、眼鏡を光らせながら言ってきたわ。


「えっ……と……。委員長?あなたは一体何を言ってるの……?」

 私が戸惑っていると、リアムはクスリと笑って言ったわ。


「ふふっ。委員長は本当に『探偵アクシオ』さんが好きですよね。」

「はいっ!アクシオさんは、素晴らしい探偵ですっ!彼の活躍を見ていると、胸が熱くなりますっ!」

「あははっ。相変わらずですね。」

 リアムは苦笑いしながら、委員長に話しかけたわ。


「私もアクシオさんのように、頑張りたいと思いますっ!」

 そんな委員長の話を聞いていて、私は考えていたわ。

(……うーん、やっぱり委員長の声……。どこかで聞き覚えがあるのだけど……。)


 すると突然、強い風が吹いて、グラウンドの砂が舞い上がったわ。窓際に立っていた委員長は、その砂ぼこりをまともに浴びてしまったわ。


「きゃっ……!目にゴミが入りました……!痛い……!涙が出てきますっ……!」

「だ、大丈夫……?」

 私は心配になって声をかけると、彼女は眼鏡を外し、ハンカチで目を拭いていたわ。


 ……眼鏡を外した彼女の素顔を見て、私は驚いたわ。


(アメジストの瞳……!!)


 彼女の瞳は間違いなく、先日見たものと同じ色をしていたの。私は混乱してしまったわ。


(えっ……!?委員長が、あの探偵さんの助手なの……!?……でもでも、あの助手さんは眼鏡をかけていなかったし……。)

 そんなはずがない、と考えても、目の前にいる彼女が、あの『助手さん』である可能性は否定できないわ。


 そこで、チャイムが鳴り、自習の時間が終わったわ。

 するとそこへ、先生が現れたの。


「あら?レイアさん、どうされたんですか?」

「先生っ……!実は、砂ぼこりが目に入ってしまって……。」

「あらあら、それは大変ね。顔を洗ってくるといいですよ。」

「はいっ!そうしますっ!」


 私は廊下へ向かう委員長の姿を、ぼんやり眺めていることしかできなかったわ……。

(今、先生はなんておっしゃったかしら……。)


『レイア』。先生は確かに、委員長のことをそう呼んだわ。

(どういうこと……?まさか、あの子が『助手さん』……?)

 そんなことはあり得ないと思うけれど、でも……それ以外に考えられないわ。

 私が頭を抱えていると、隣にいたリアムが話しかけてきたわ。


「どうしたんですか?エピカさん。」

「えっ!?あっ……いや……」

 私は慌ててリアムに視線を向けたわ。

(……これはマズいわ。リアムだけでなく、委員長…もといレイアにも、私の正体が怪盗ガーネットだって、バレないようにしないと……。)


 委員長はとても真面目だから、皆に知らせちゃう可能性があるわ……。そうなると、私の学校生活は終わりよ……。

 それだけじゃなくて、きっとサファイアの探偵さんにも知らせてしまうわ……。……あぁ、どうしましょう!


 私は、どうすればいいか必死に考えたわ。でも、黙っていることくらいしか思いつかなかったの……。

(うぅ……。どうしてこうなったのよ……。)


 私は、自分の不運さを呪わずにはいられなかったわ。

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