番外編 サルヴィの一日

 突然ですが、皆様こんにちは!私はグラナート家のメイドをしております、サルヴィと申します。

 今回は、私の一日を見ていただきたいと思います。

 それでは、よろしくお願いいたしますね!


***

 使用人の朝は早いです。まず、エピカお嬢様を起こしにいきましょう!

 …………コンコン。ガチャ。

 私は、エピカお嬢様に声を掛けました。


「おはようございます、エピカお嬢様。」

 すると、エピカお嬢様は眠たげな顔で起き上がり、欠伸をしました。

「ふぁあ……。おはよう、サルヴィ。」

「はい!今日も良い天気ですよ!!」

 私が窓を開けると、爽やかな風が吹き込んできます。


「フフッ、気持ちいいわね。」

「そうですね!」

 私たちは笑い合いながら、支度を済ませて食堂へ向かいました。

 食堂では、すでに執事のプロムスさんが待っていました。プロムスさんは、この屋敷で一番のベテラン執事なのです。


「エピカお嬢様、おはようございます。」

「おはよう、プロムス。今日の朝食は、何かしら……?」

 お嬢様は、テーブルの料理を眺めています。


「本日は、クロワッサン、スープ、サラダとなっております。」

「美味しそうね……。早速いただくわ!」

 お嬢様は、ナイフとフォークを手に取り、食べ始めました。

「そういえば、サルヴィ。」

「はい?」

「今日は、ストノスはお休みの日かしら?」


 お嬢様が言う『ストノス』さんは、少し前に客人として、お嬢様自らが連れてきた方です。

 今は庭師として、この屋敷で働いています。


「ストノスさんは、今日はお休みされると言っていましたよ。」

「そうなのね。……だったら、今日はストノスと出かけるわ!」

 お嬢様はウキウキした様子で、食事を続けました。


***

 さて、次は、お掃除を始めます。

 私が廊下のお掃除をしていると、エピカお嬢様がやって来られました。


「あら、サルヴィじゃない。」

「エピカお嬢様!どうされましたか?」

「ストノスを探しているのよ。姿が見えなくて……。」

 ストノスさんは、私もまだ見かけていませんでした。


「そうですか……。お部屋の方は確認されましたか?」

 私の質問に、お嬢様はハッとした顔になりました。

「……そうだったわ!まだ確認していなかったの。ありがとう、サルヴィ。」

「いえ、お役に立てたのなら良かったです!」

 私は笑顔で答えました。


「じゃあ、また後でね。」

 そう言うと、お嬢様は急いで部屋へ向かいました。

 しばらくして……。

『ストノス!いるかしら?』

『うおっ、エピカ!?急に入って来るなよ!』

『やっぱり部屋にいたのね!』

 ……といった声が聞こえてきました。


***

 今度は、洗濯物を取りにいきましょう! 私が洗面所に入ると、そこには先約がいました。


「メイド長……!」

「おや、サルヴィ。」

 メイド長は優しく微笑みました。彼女は、お嬢様が幼い頃から、この屋敷で働いているベテランです。


「あぁっ……!洗濯物なら私が取りますよ!」

「いいんですよ。私も、この屋敷で働くメイドの一人ですからね。」

 メイド長が手際よく洗い物を籠に入れていくのを見て、私は思わず感嘆の声を上げてしまいました。


「メイド長って、凄く丁寧に仕事をされますよね。」

「フフッ。慣れですよ。」

「でも、どうしてそんなに慣れることが出来るんですか?私なんて、全然ダメで……。」

 私の言葉に、メイド長はクスリと笑いました。


「それは、毎日のように家事をこなしていれば、自然と身につきますよ。」

「そっか……。そういうものなんですね……。」

 私が納得していると、彼女は言いました。


「サルヴィだって、すぐに出来ますよ。」

「そうでしょうか……?」

「えぇ。」

 私は少しだけ、自信がついた気がしました!

 そうして、二人で洗濯物を干し終えました。


***

 お昼になり、私は食堂へと向かいます。エピカお嬢様が外出されている時は、使用人たちだけで食事をとっています。


 使用人の内訳は、私を含めたメイドが五人、メイド長一人、コックが三人、庭師が一人(ストノスさん)、そして執事が一人(プロムスさん)となっています。


「午前中のお仕事、お疲れ様です。それでは昼食としましょうか。」

 プロムスさんの言葉で、私たちは席に着きました。

「サルヴィ、お疲れ様。」

「お疲れ様です!」

 私たちメイドは、集まって食事をとることが多いです。私は一番新人なので、先輩方の話が聞ける、この時間が好きでした。


「サルヴィ、仕事には慣れたかい?」

「はい!少しずつ覚えていけていると思います!」

「そうですか。それは良かった。」

 メイド長や先輩方は、嬉しそうな表情をされていました。


***

 食事を終え、食器の片付けを終えたところで、お嬢様が帰って来られました。ストノスさんも一緒です。


「ただいま、サルヴィ。」

「おかえりなさいませ!お荷物をお持ちいたしますね!」

「ありがとう。」

 お嬢様は、とても楽しげな様子でした。

「ねぇ!聞いてちょうだい!今日、ストノスと一緒に出かけていたら、面白いことがあったのよ!……ほら、ストノスも話したらどう?」

「俺は別に……。」

「いいから!……実はね、ストノスったら、私に似合う服を選んでくれたの!」

「ストノスさんが、服を……!」

 お嬢様の言葉を聞いて、私は驚きの声をあげてしまいました。


「これよ!素敵でしょう?」

 そう言って、お嬢様はスカートを広げて見せてくれました。確かに、素敵なデザインです。


「まぁ、お嬢様によくお似合いですわ。」

「そうね!それにね、ストノスはセンスが良くってね。私にぴったりの靴まで選んでくれちゃうの!」

「ストノスさん、凄いですね……!」

 私は感心してしまいました。


すると、ストノスさんはますます恥ずかしそうにして……。

「べ、べつにそんなんじゃない……。たまたまだ……。」

 ……と言いました。

「はいはい。じゃあ、サルヴィ、また後でね。」

「かしこまりました。」

 そうして、お嬢様とストノスさんは自分の部屋へ戻って行きました。


 私から見たお二人は、仲の良いご兄妹のようです。ストノスさんは、私より年上だと思いますが、いくつなのかはわかりません。


 ですが、ストノスさんが、この屋敷にいる人たちの中で、最もお嬢様に年が近い男性であることは確かです。


 お嬢様は、彼が来るまでは、私と良くお話をされていました。今となっては、彼とばかり話すようになってしまいましたけれど……。


 ストノスさんは、いつもおどおどしていて、頼りなさげな雰囲気をまとっています。しかし、そんな彼だからこそ、お嬢様も安心できるのかもしれません。


 私が初めて会った時よりも、彼の雰囲気は柔らかくなったように思います。

 きっと、お嬢様が彼を信頼している証拠なのでしょう。


 彼は、お嬢様にとって特別な存在なのだと、私は感じていました。


***

 夕食の時間になりました。

 食堂で皆が集まり、食事をとります。

 お嬢様とストノスさんは、隣同士に座っています。


「ねぇ、ストノス。明日はお休み?」

「いや、今日休みだったから、明日は仕事しないとな。」

「そうよね。残念。」

 お嬢様は、少しだけ寂しそうな顔をされました。


「……でも、エピカが望むなら、明後日も休みにするけど……。」

「本当!?嬉しい!ありがとう、ストノス!」

 お嬢様が嬉しそうに笑うと、ストノスさんの顔にも笑みが広がりました。

(良かったですね、エピカお嬢様。)

 私は、微笑ましく二人の会話を見守ります。


「サルヴィ、どうかした?何か良いことでもあった?」

「いえ、なんでもありません。」

「ふーん?」

 お嬢様に不思議そうな顔で見られてしまいました。


***

 そして、就寝時間になりました。私は、お嬢様を部屋までお送りします。


「それでは、おやすみなさいませ。」

「えぇ、おやすみなさい、サルヴィ。」

 お嬢様の部屋の前で別れ、自分の部屋に戻ろうとしましたが、そこでお嬢様が私の服の裾を掴みました。


「サルヴィ、ちょっと待って!」

「どうされましたか?」

「あのね、今度一緒にお出かけしましょう?」

 私は、お嬢様の言葉に驚き、思わず聞き返してしまいました。


「私がですか?」

「もちろん!女の子同士で買い物がしたくて……ダメかしら……?」

「いいえいいえ!とんでもないことでございます!」

「良かった!じゃあ、約束よ!」

「はい!承知いたしました!」

「楽しみにしているわ!」

 そう言って、お嬢様は手を振られながら自室へと入って行かれました。


 ……お嬢様が、私と一緒にお出かけしたいと言ってくださるなんて! こんな幸せなことは他にないでしょう! 私は、エピカお嬢様と出かける日を楽しみにしながら、眠りにつきました。


***

 ……どうでしたか?私の一日はこのような感じです!

 大変なこともありますが、とても楽しい毎日です! お嬢様にお仕えできて、本当に幸せだと思います。

 これからも、お嬢様のために頑張りたいと思いますので、よろしくお願い致しますね!

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