もう決めた

 その日は本当に笑顔が絶えなかった。

 俺としては由香と舞の部屋にお泊まりするということで当然緊張はしていたのは確かだが、そんな俺のことを分かっているのか二人ともとにかく優しかった。

 優しさの中に色気というか、とにかくイチャイチャしたいと思わせるような仕草もあって……なんというか、男として幸せだった。


「今日は最悪の始まりだったけど、やっぱり大好きな人の存在って大きいんだね」

「あら、それに私は入ってないの?」

「もちろん入ってるよぉ? 愛してるよ由香」

「私もよ舞」


 俺の視線の先で二人がイチャイチャしている最高の光景だ。

 キスしたりはしていないものの、お互いに頬を触り合ったりして完全に恋人のそれだし、百合好きの俺としては非常に機嫌が良い。


(……あの中に入りてえなぁ……はっ!?)


 そこで俺は自分自身に唖然とした。

 百合の間に収まる男は死あるのみ、それをずっと信念として持ち続けていたのにまさか願ってしまうとは……俺はいつからこんな腑抜けになったんだ。


「何をさぁ」

「考えているのかしら?」

「っ!?」


 内なる己と百合の何たるかを考えていたその時だった。

 同時に両方の耳から彼女たちの声が聞こえ、そのまま挟まれるように抱き着かれてしまう……ちょうど俺の頭を胸の位置が来ており、ぷよぷよとした感触が両の頬を圧迫してきて気持ちが良い。


「咲夜君はやっぱり可愛いわね。だってずっと物欲しそうにというか、寂しそうに私たちを見ていたから」

「え!?」

「うんうん♪ 寂しそうっていうのはちょっと言い過ぎかもしれないけど、まるでその中に入れてくれって感じだったよ?」

「……………」


 この子たちはエスパーか何かなのかい? それとも俺が分かりやすいだけか?

 それからはずっと二人とも俺に引っ付いたまま動くことはなく、特に何もしないというのに俺はずっとニコニコしていたように思える。

 一旦外に遊びに出たりするのは明日にしようとなり、今日は三人で仲良くただのんびりしたいのを彼女たちは御所望らしい。


「なあ二人とも」

「何かしら?」

「なに?」


 俺はストレートに聞いてみた。


「その……二人とも俺が好きってのは教えてもらったんだけどさ。それって本当にこれからずっとってことなのか?」


 その問いかけに二人は頷いた。


「もちろんよ。あなたの恋人になりたい」

「あたしも咲夜君の恋人になりたい」


 ……俺、どこかで絶対に罰が下ると思っている割とマジで。

 とはいえ、正直彼女たちにとって俺のような存在を初めて見たからというのも大きいだろうし、関係性を肯定してくれた存在というのも大きいんだろう。

 だからこそ俺以外に同じことを考えている人が居て、俺よりも素敵な人間が居れば惹かれていたであろうことを良く考える……だって俺は特に二人に何かをしてあげたと言えるような人間ではないからだ。


「何か難しいことを考えてるのね。でももう駄目よ……私たち、絶対に咲夜君を逃がすつもりはないから」

「そうだよ? あたしたちが好きになったのは咲夜君なんだもん。他の誰でもあなたの代わりにはならない、あたしたちが出会って……あたしたちの心が求めるのは君なんだから」


 言葉と雰囲気だけでもすんなりと心に入り込んでくる彼女たちに、俺はもう絶対に逃げられないんだろうなと直感した……いいや違うな、それは俺だってもしかしたら同じなのかもしれない。


「あ……」

「咲夜君♪」


 俺は両隣に座る二人の肩を抱いた。

 たとえ服で隔てられていても感じる温もりは本物で、彼女たちの身を寄せられているこの瞬間があまりにも心地良く、絶対に手放しくないと心が叫ぶ。


「……幸せだなこれ」

「でしょ?」

「良いよねぇ♪」


 あまり深く考えなくて良いんじゃないかと、そう思ってしまう俺はダメなのかな。

 そんな悩みを抱えつつも二人と仲良く過ごして時間は流れ、夕方を通り越して夜になった。


「今日はねぇ。三人だからお鍋にします!」

「決めていたのよこれは。咲夜君はどうかしら」

「全然良いぞ。というか鍋かぁ……良いね!」


 夜の献立は鍋に決まった。


「ねえ舞、鍋ってどこだっけ?」

「あの上……ちょっと高いわね。危ないから何か――」


 少し高い所に仕舞われているであろう鍋を俺は先んじて手に取った。

 彼女たちも背伸びをすればギリギリ取れるだろうけど、やっぱりこういう時にある程度の背の高さは助かる。


「はい」

「……ありがとう」

「今の凄く良い! なんかこう……旦那様みたい!」


 旦那様て……いかん、ちょっと鼻の下が伸びそうになる。

 それから俺も簡単に豆腐を切ったり、野菜を洗ったりしながら手伝って夕飯の時を迎えた。


「いただきます」


 三人で手を合わせ、鍋を囲んでの食事は盛り上がった。

 育ち盛りということで手も止まらず、けれども会話のペースも落ちることなく本当に楽しい時間が流れていき……そして、ある意味で問題の時間がやってきた。


「さあ咲夜君。お風呂にご招待~♪」

「私たちが洗ってあげるわね♪」


 お風呂……そう、寝る前にお風呂に入って体を洗うのは当然だ。

 俺としてもここで風呂を借りるつもりではあったが……まさか由香と舞の二人と同時に入ることになるとは思わなかったわけだ。

 もはや俺たちの間に隠す物は必要ないと言わんばかりに二人とも全裸、そしてタオルに泡を立てて俺を見つめている。


「……ごくっ」


 思わず唾を飲み込んだ。

 俺は流石に恥ずかしくて腰にタオルを巻いているけど、逆に取らないといけないんじゃないかって気分にすらさせられるのだ。

 さあどうぞと、二人に導かれた結果……俺はどうなる?


「あのさ……ただお風呂に入るだけだよね?」


 その問いかけに彼女たちはクスッと肩を揺らして笑うのだった。


「まさか、私たち三人がお風呂に入って何も起きないわけがないでしょ?」

「そうだよ。むしろ何かしないとダメでしょこういうのって」

「あ、そういう――」


 その後、俺は彼女たちからとてつもないご奉仕のようなものを受け……お風呂から上がった後はベッドの上でボーっとしていた。

 流石に逆上せそうになって先に風呂を出たせいか、二人はもう少しかかりそうだ。


「……あ~」


 凄かったなと、俺はさっきまでのことを思い返す。

 確かに二人とも体を洗ってくれたのだが、体に泡を擦り付けて……体と体を擦るようにして洗ってきた。

 それこそエッチなゲームなどでは良く見る光景だったけど……それを現実で味わえるなんて思わないだろうが!!


「……っ~!!」


 二人の体が柔らかかった……本当に柔らかかった。

 ボソッと二人の胸のことについて呟いてしまい、その時に帰ってきた言葉もまだ脳裏に残り続けている。


『私はFね』

『あたしはGだよ♪』


 それは二人のカップ数だった。

 バストだけでなく、他のサイズなども合わせてカップ数というのは出すことが出来るのだが……それにしてはやはり二人ともあまりにスタイルが良すぎることに変わりはなかった。


「ただいま」

「お待たせ~」


 パジャマ姿の二人が戻ってきた。

 湯上りの色っぽさを携え、学校や外では決して見ることの出来ないプライベートの究極系がそこにはあった。

 寝室に行っててと伝えられてベッドの上でボーっとしていたけど、まだまだ寝るには早い時間帯だ。


「……ヤバいな。この空気はおかしくなりそうだ」


 本当にその通りだった。

 俺は二人の手を引いて抱き寄せ、そのまま入れ替わるようにして二人をベッドに横たわらせた。


「良いわよ?」

「滅茶苦茶にして?」

「……滅茶苦茶にはしません。ただ……俺も二人が好きだ」


 もうさ……変な誤魔化しとかは要らないだろう。

 俺はもう二人に惹かれてどうしようもないんだから……しかし、改めてあっさりと伝えたことに二人はポカンとしていた。

 そして、カッと目を見開いて詰め寄ってきた。


「も、もう一回!!」

「言って言って!! 結婚しようってもう一度言って!」


 ……結婚しようとは言ってないんだけどなぁ。

 それでも……もう本当に逃げることは出来なさそうだ。

 彼女たちが好き……向き合うことはたくさんあるだろうけど、今はただこの気持ちを素直に認めて、したいことをすることにしよう。


「ただ一緒に居ることに楽しさや幸せを感じるのって凄いよな。言葉だけでも嬉しくなるのに、触れると更に強く思えて……二人と知り合えて俺は幸せだ!」

「っ……咲夜君!!」

「その不意打ちは卑怯だよもう!!」


 取り敢えず一歩前進……なのかな?



【あとがき】


今作は一応十万字くらいで終わる予定です。


なので後少し!

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