終わりだよもう
「咲夜は最近楽しそうだな?」
「え?」
それは休日のこと、彼女たちの家に向かおうとした時だった。
家を出ようとしたところで父さんが俺を見てそう言ったのだが、俺はいきなりどうしたんだと首を傾げた。
「どういうこと?」
「言葉のまんまだぞ? 母さんとも話したんだが、最近の咲夜は本当に楽しそうに毎日を過ごしているって。しばらく何かを悩んでいた時もあったみたいだけどな」
「……ふ~ん」
そりゃ誰だって悩むさ。
俺は今までただただ百合というものが好きだっただけなのに、何が間違ったのか現実で出会った百合カップルに好きだと告白され……しかも体の関係すら持ったんだからさぁ。
(こんなの周りの誰にも言えねえよ……でもそうか、楽しそうなのか)
今を楽しそうに過ごしている、それは頼仁や委員長にも言われていることだ。
その理由は間違いなく由香と舞の存在が大きいんだろうなぁ……だって、あんなに性格も良くて見た目も優れてて……そんな凄い子たちが俺のことを好きだと言ってくれるんだ。
どうしようかとハッキリしなくても、それでも毎日を幸せに彩ってくれるのは確かなのだ。
「ま、楽しいよ凄く」
「そうか。息子のお前がそうならこっちも嬉しくなる。珊瑚も楽しそうだからな」
「あ~それね」
理人との関係も良好そうで、最近は俺や理人の影響で百合モノ作品に多大なる理解を示し、尚且つそこそこ面白いとハマっているのを見ると……なんというか、罪深きことをしてしまった気がしないでもない。
とはいえ珊瑚自身が女性との恋愛に目覚めるようなことはなく、今も変わらずに理人だけにゾッコンだ。
(もしこれで珊瑚が本気で目覚めたら俺は自分を許せねえよ)
なんてことを考えて苦笑し、俺は家を出るのだった。
実を言うと今回のお泊まりに関してだが……まあ色々と考えたんだけど、やっぱり俺も彼女たちと過ごしたい気持ちが強かった。
これ……認めるしかないよな。
(俺はたぶん……いや確実に好きなんだろうなぁ)
まだ本格的に知り合ってからそんなに経ってはいない。
だというのに俺はもう彼女たちに夢中になりかけている……それこそ、二人の濃厚な百合の絡みもそうだけど、彼女たちから与えられる言葉や想い……そして何より、一緒に居たいと思わせるような彼女たちの雰囲気の虜になっている。
「……ふぅ」
俺は一旦気持ちを落ち着かせる意味も込めて自販機でジュースを買った。
冷たいジュースを飲んだことで大分頭の方も熱が冷め、俺は取り敢えず今を思いっきり楽しむぞと握り拳を作った。
彼女たちとの時間、その中で齎されることにワクワク感を隠せないままに……俺はすぐにマンションへと向かった。
「?」
マンションに近づいてすぐ、一人の女性が横切った。
その女性は何かをブツブツ口にしながら外に出て行ったのだが、どことなく見た目が舞に似ていたような気がした。
以前は由香の母に出会ったこともあるので、もしかして今のはそういうことか?
「ま、良いか」
それは聞けば分かることだ。
俺はそのまま部屋に向かうと、由香と舞が肩を抱いて扉の前に立っており、俺は何をしてるんだと呆気に取られる。
「……あ」
「咲夜君」
二人は俺に気付き、まず舞が胸元に飛び込んできた。
腕も背中に回すようにして密着した彼女は離れることはせず、ジッとそのまま俺に抱き着いたまま……すると由香が教えてくれた。
「実はさっき、舞の母親が来たのよ」
「……やっぱりか」
どうやらさっきの人は本当に舞の母親だったらしい。
たぶんだけど以前と似たようなことを言われたんだなと俺は思ったけど、それはどうも合っていたようで由香が頷いた。
俺は相変わらず離れない舞の頭を撫でながら、取り敢えず部屋に入ることに。
「しばらくそうしてあげて。咲夜君のこともあってそこまで傷ついているわけではないけど、やっぱり辛い気持ちはあるから」
「分かってる」
特に迷うことなく分かってると口にした自分自身に俺は驚いた。
彼女たちから気持ちを伝えられたからと言って、俺自身が誰かに頼られるほど優れた人間だとは思っていない。
それでも、こうして舞が落ち着くのならこうしてあげたい。
「紅茶とお菓子を準備するわ」
「ありがとな」
キッチンの方に向かった由香を見送ってすぐ、ジッと動かなかった舞が顔を上げて俺の口元に顔を近づけた。
「っ!?」
そのまま彼女は俺の唇にキスを落とし、すぐに唇を割って舌が入り込んだ。
俺は突然のことに驚きはしたものの、二人と関係を持った時にこのキスは幾度となくされたので……あれだ、ちょっと慣れていた。
「咲夜君……咲夜君咲夜君♪」
「舞……」
それはあまりにも激しいキスだった。
俺の腰の上に座る彼女は一心不乱にキスを楽しむかのように、僅かに潤んだ瞳で俺を見つめながらキスの雨を降らす。
それは由香が戻ってきてからも続き、俺と舞はそれからしばらくずっとキスを続けてしまった。
「えへへ、やっぱりキスって良いよねぇ。沈んだ気持ちに良く効くし、何より咲夜君とのキスはとても美味しい」
「美味しいって……」
「分かるわよ舞。それに凄く幸せな気持ちになれるのよね」
「うん♪」
そうして二人は離れてくれたけど、俺をジッと見つめてきた。
彼女たちが見ているのは今この場に居る俺だけ、彼女たちはそっと呟く。
「今日はありがとう咲夜君、お泊まりを楽しみましょうね?」
「そうだよそうだよ♪ とことん、楽しもうね?」
一体、何をするんですか……?
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